高木正勝×相良育弥 上辺の「新しさ」に惑わされない心の授業

高木正勝×相良育弥 上辺の「新しさ」に惑わされない心の授業

インタビュー・テキスト
野村由芽(CINRA.NET編集部)
撮影:森山将人

「いい屋根ですね」と言われてもあんまり嬉しくなくて。それよりも「いいチームですね」と言われたい。(相良)

高木が村に引っ越したのは2014年。2013年に発表した『おむすひ』のインタビュー(高木正勝による気楽な生き方のススメ)において、「音楽を作り始めるときは、大体Twitterを見る」と語っていたのが印象的だった。

それは、自分の投稿に対するファンの好意を確かめるためではない。自分をフォローした人たちに関心を持ち、その人たちのことを見つめ返しながら曲を作っていたのだ。「以前と比べて音楽を一人で作ってる感じがなくなりました」と語っていた高木は、そのときから「人やまわりの環境と関わりたい人」であったとも言える。

―高木さんの曲は、私小説や内省的なものというものとはもっと違った大きなものを歌っている感覚があります。

高木:自分個人じゃなくて、みんなでなにかできたら良いなと思うし、そこに憧れがあるんです。

高木正勝

―村の人たちの歌や語りが入っていたり、ライブで演者が自由に動きまわっていたり、その人らしさが活かされているような曲の作り方も大きいですよね。音楽を受け取る側のこちら側の思いや存在まで、肯定されるような不思議な気持ちになります。

高木:個人だけで完結しているものはもちろん尊いものなんだけれども、自分の音楽も含めて、それだと限度がある気がしていて。そのことがだんだんわかってきてからは、ある集団で同じ景色を見て、みんなで「ああ、これがいいね」って馴染む感じを出せるようになりたいと思ったんです。蛙の合唱のようなことがしたいのかな。

相良:僕も屋根を作っているけど、屋根単体を見て「いいですね」って言われてもあんまり嬉しくなくて。だったら、いいチームですねって言われたい。屋根を作る前に、この「くさかんむり」というチームが僕の作りたいものであって、そのチームで屋根を作っているんですという感じかな。

相良育弥

高木:畑仕事も、野菜が育ちやすいように土を整えるのが仕事ですもんね。そういうふうに自然の根本の流れにちょっと参加させてもらうというか、手を入れさせてもらうと、勝手に溢れてくるものがあって、その豊かさをいただいている。

相良:弟子にいつも「僕がバイクで事故って死んだとしても大丈夫なようになってね」って言ってるんです。土壌を作りたいんですよね。

高木:田舎の人は全部そのためにやっていますよね。「自分がおらんくなっても続くように」って。土を整えれば、あとは自然に花が咲きますから。それは、人間、その人らしく生きるっていうこととも、同じ仕組みだと思います。まず土を整えて、そこで、その人らしく咲けばいい。

猫

見えているようで、実は見えていないものをもっとよく見る。そういう細やかな集中力を持てるかどうか。(高木)

高木:ピコ太郎さんの「Apple Pen」ってあるじゃないですか。好きな曲ですが、あそこで歌われているリンゴとペンを合体させるように既にだいぶ完成されたもの同士を組み合わせるのが得意な人と、そうではなく、素材になっているリンゴやペンそのものを作っている人がいる。そういう源泉に近いものに触れたり、生み出している人の感じている世界観を僕も感じてみたいと強く思うようになりました。

相良:僕も、昔は文化財の修復作業が好きだったんですけど、最近、そこには根っこがないことが気になっていて。人が住んでいないし、ある時代の様式をとどめて残すだけ、という感じがする。今の空気を吸って、循環している感じがしないんですよね。

高木:茅葺きを毎年葺くというのは、なんというか、普通の意味で「新しく」しようとしなくてもいいんじゃないかな。音楽だと、新しい曲であるためには「前と同じメロディーはダメ」というのがあるけれど、同じメロディーでも違う曲なんやけれどと思うことがよくあって。

いっくうの茅葺きは、一見同じに見える素材で同じような屋根を葺く仕事やけれど、その年ごとに使う茅の状態も違えば家が置かれている状況も違って、そういう微妙な違いを見極めていて、すごいと思う。粗いレベルにおける違いを判別するよりも、ずっと高い解像度でものごとを見ている。

相良:そうか。

高木:音楽も同じで、同じメロディーに聴こえるけど、よく聴いたら、見えてくる景色が違うものってたくさんありますよね。解像度のドットが粗いと「前と同じ曲じゃないか」と思ってしまったり、詳しくないジャンルの曲を聴くと全部同じに聴こえたり。そう考えると、「新しさ」という基準は、その人の解像度によって左右されるものだとも思えてくる。

高木正勝

相良:同じ場所に咲いていても、違うタンポポですからね。自然を見ていると、同じものなんてない。

―人は見えないものを求めがちだけど、本当は見えているんじゃないかと。見てないだけで。

高木:野菜ひとつをとっても、採れてすぐ食べる豆と、一日たってから食べる豆は、本当に味が違います。有機や化学肥料で育てていることの違いよりも、新鮮なまま食べるかどうかの違いが一番大きいと思いました。越してきて一番感じたのは、これまで、自分が好きだなと思っていた対象に対してでさえ、全然ちゃんと見られてなかったし、粗かったんだなと。本当にそれを好きだったのかな? と思うくらい。

見えているようで、実は見えていないものをもっとよく見る。そういう細やかな集中力を持てるかどうかで、ずっと心や体が気持ち良くなるし、楽になりました。

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リリース情報

高木正勝『YMENE』
高木正勝
『YMENE』(CD)

2017年3月26日(日)発売
価格:3,024円(税込)
NOVUS-010

1. Dreaming
2. Tidal
3. Bokka
4. Homicevalo
5. Ana Tenga
6. Laji
7. Naraha
8. Philharmony
9. Grace
10. Mase Mase Koyote
11. Earth's Creation #1
12. Omo Haha
13. Ymene
14. Earth's Creation #2
15. Emineli

高木正勝『『山咲み』
高木正勝
『山咲み』(2CD+DVD)

2017年3月26日(日)発売
価格:4,860円(税込)
NOVUS-004~6

[CD1]
1. 祈り
2. あまみず
3. 風花
4. Nijiko
5. サーエ~サルキウシナイ~かぜこぎ
6. aqua
7. おおはる
8. うるて
9. 充たされた子ども
10. 夏空の少年たち
11. きときと―四本足の踊り
12. I am Water
13. やわらかいまなざし
14. 紡ぎ風
15. 風は飛んだ
[CD2]
1. うたがき
2. マクナレラ~ヤイサマ
3. 山咲き唄
4. かみしゃま
5. おやま
6. Girls
7. Rama
8. Wave of Light―音頭
9. Grace~あげは
10. 風花~カピウ・ウポポ
[DVD]
1. 祈り
2. あまみず
3. 風花
4. Nijiko
5. サーエ~サルキウシナイ~かぜこぎ
6. aqua
7. おおはる
8. うるて
9. 充たされた子ども
10. 夏空の少年たち
11. きときと―四本足の踊り
12. I am Water
13. やわらかいまなざし
14. 紡ぎ風
15. 風は飛んだ
16. うたがき
17. マクナレラ~ヤイサマ
18. 山咲き唄
19. かみしゃま
20. おやま
21. Girls
22. Rama
23. Wave of Light―音頭
24. Grace~あげは
25. 風花~カピウ・ウポポ

プロフィール

高木正勝(たかぎ まさかつ)

1979年生まれ、京都出身。2013年より兵庫県在住。山深い谷間にて。長く親しんでいるピアノを用いた音楽、世界を旅しながら撮影した「動く絵画」のような映像、両方を手掛ける作家。美術館での展覧会や世界各地でのコンサートなど、分野に限定されない多様な活動を展開している。『おおかみこどもの雨と雪』やスタジオジブリを描いた『夢と狂気の王国』の映画音楽をはじめ、コラボレーションも多数。

相良育弥(さがら いくや)

1980年生まれ。茅葺き職人。20歳くらいのころに、宮澤賢治に憧れて大地に生きる百姓を志すも、減反で米がつくれず「三姓」止まりに。そんな時に出会った茅葺きの親方に「茅葺き屋根は百姓の業でできている」との言葉で弟子入り。現在は、淡河かやぶき屋根保存会「くさかんむり」の代表を務め、ふるさとの神戸市北区淡河町を拠点に、茅葺屋根の葺き替えや、補修を生業とし、民家から文化財まで幅広く手がけ、積極的にワークショップも行なっている。

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