魅力的な東京を取り戻すために。ストックホルムに学ぶ都市文化

魅力的な東京を取り戻すために。ストックホルムに学ぶ都市文化

2021/11/29
インタビュー・テキスト
松井明洋
編集:吉田真也

都市のムードや常識を変えていく。ストックホルム発のブルワリーの独自スタイル

そして、もう一つの代表例が「ビールのあり方を変える。永遠に」というテーマのもと活動しているブルワリー(ビール醸造所)の「Omnipollo(オムニポロ)」。ビール醸造を担当するヘノク・フェンティと、ブランディングやグラフィックを担当するカール・グランディンによって2010年に設立したブルワリーです。

2020年には、現地の教会を改装したブルワリー兼タップルーム「Omnipollos Church」もオープンした
2020年には、現地の教会を改装したブルワリー兼タップルーム「Omnipollos Church」もオープンした

独自のビールのレシピとブランディングを武器に、既存の概念にとらわれず、自分たちを新しいライフスタイルブランドであると定義して活動しています。

彼らがとてもユニークなのは、ビールを表現方法のツールとして捉え、世の中に自分たちの意思を発信し続けている点です。その代表例が、資本主義のあり方を問いかける数量限定のビール「GONE」や、人種差別や多様性を否定する行動する人たちを辛辣に批判した「Yellow Belly」など。味とデザインのバランスの先にある、ビールを一つのメディアとして見立てている点は唯一無二な試みだと思います。

もちろん、味もおいしい「Omnipollo」のビール
もちろん、味もおいしい「Omnipollo」のビール

そんな彼らの日本進出をぼくらがサポートすることになったきっかけは、2018年末のこと。ストックホルムの旧市街にあった彼らのオフィスで雑談をしているときに、「日本橋兜町というエリアが大きく変わる。ぼくらMEDIASURFも、そこで仲間たちとホテルやカフェ、レストランをやろうと思っていて、文化の力で都市を再活性化させたいんだ」という話をしました。

さらに、兜町で70年ほど続いた鰻屋さんだった空き物件の写真を見せたところ、「ぼくたちもここでやりたい」と乗り気に。「都市のムードを変えるという大きなムーブメントに乗らない手はないね。兜町は行ったこともないけど、歴史ある街をカルチャーの力で変えようという試みがアメージングだし、ビールで常識を覆したい自分たちとしてもぜひチャレンジしたい」と言ってくれました。

そこからとんとん拍子に話は進み、日本初出店が決定。経済的なリスクや諸条件うんぬんではなく、自分たちの直感を信じて判断していく彼らはまさにクリエイティブな起業家だな、と思った記憶があります。

日本橋兜町に出店した「Omnipollo」店内
日本橋兜町に出店した「Omnipollo」店内

都市が学校の役割を担うストックホルム。そこから東京が学ぶべき点とは?

彼らだけでなく、ストックホルムの野心あるベンチャーに共通しているのは、社会の微妙な温度感の変化を読み取り、状況やニーズを把握しながらも、自分たちの大切にしたい意思や価値観を貫く姿勢と能力です。

こうした姿勢と能力が育まれた土壌には、文化や宗教、セクシャリティーなどにおいて多様な価値観を許容するストックホルムの環境が、大いに影響していると思います。

さまざまな意思や考えが渦巻くストックホルムで育った若者たちは、あらゆる物事に対して寛容になり、価値観の幅が広がりやすくなる。そしてなにより、他者の意思を尊重する社会のなかで育つと、自分の意思や独自性も大事にすべきという考えが自然と身につくのではないでしょうか。

いわば、都市の持つ多様性が、新たな価値観や考えを若者に教えているのです。大げさかもしれませんが、「都市が学校のような役割を担っているのではないか」と、個人的には感じています。

ストックホルムの街並み(photo by Unsplash)
ストックホルムの街並み(photo by Unsplash)

一方、東京はどうでしょう。「都市の魅力」についていろいろな国の友人たちと話していると、「東京は1990年代から2000年代初頭は最高にクールだった」とよく言われます。

当時は、『東京デザイナーズブロック』などのデザインが街を包むようなイベントや祭典がたくさん行われると同時に、裏原宿のファッション文化をはじめとした多様なポップカルチャーが輝きを放っていた。その独自性は他国の大都市の追従を許さず、世界中にインパクトを残し、あらゆるジャンルで影響を与えていました。

そういった東京の混沌としたカラフルな状況を、世界中のクリエイティブ・クラス(※芸術家、デザイナー、メディアの発信者など、新しい価値を生み出す知識労働者)といわれる人々が祝福していたし、若者たちにも良い影響を与えていたと思います。

それから20年近く経ち、パリやニューヨーク、オレゴンのポートランド、ロンドン、ベルリン、コペンハーゲンにストックホルムなど、都市から都市へと「世界の文化トレンドの中心」は時代とともに移ろい続けてきました。

「水の都」といわれるストックホルム(photo by Unsplash)
「水の都」といわれるストックホルム(photo by Unsplash)

東京は世界をリードするような都市に返り咲けるのでしょうか。そのヒントは、ストックホルムの多様性と寛容性にあると感じます。東京がふたたび世界から注目されるような都市に発展するには、それぞれの意思を尊重して認め合う文化や、失敗が許容される社会を築いていくことが大前提だと思います。

人の目を気にしすぎることなく、自分の意思と向き合って突き詰めていけるような都市の環境こそが健全で、野心ある若者を育てるのではないでしょうか。そこから面白いものが次々に生まれて、都市の魅力につながっていくはず。

わずかでもその実現の一助を担うために、今後もストックホルムと東京の比較をとおして、魅力的な街についての考察を続けたい。文化の力で街や都市をより魅力的にできるよう、これからも編集作業を続けていこうと思います。

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プロフィール

松井明洋(まつい あきひろ)

1982年生まれ。都市の編集者集団、MEDIASURF代表。日本橋兜町のマイクロ複合施設「K5」共同運営、同エリアのビアバー「Omnipollos Tokyo」、ビアホール「B」、コーヒースタンド「SR」なども運営。コロナ以前は東京とストックホルムをベースに世界中を回り、都市の定点観測することを趣味としていた。現在もストックホルムと東京の二拠点で活動中。

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