長きにわたるコロナ禍は、人と人とのコミュニケーションを大きく変化させた。誰かと過ごす機会は失われ、一人で過ごす時間が多いことは日常になりつつある。あるいは、外出が減ったことで家族と過ごす時間が増えた人もいるだろう。いずれにせよ、自分と相手の距離感は変化し、それによって引き起こる問題もさまざま耳にする。
お笑い芸人・マヂカルラブリーの野田クリスタルは、約6年の一人暮らしの末、昨年からキンクマハムスターのはむはむちゃんと暮らし始めた。その溺愛ぶりは、さまざまなメディアで語られている通りだ。
北欧では、自然がより身近にあり、それが人々の幸福感につながっているとされる。そこで今回は、野田の「ハムスターとの生活」に焦点を当てる。はむはむちゃんと出会ったことで、「誰かとともに生きる幸せ」や「慈愛の精神」、「相手を想像すること」を知ったという。それは動物との暮らしだけでなく、人と人とのコミュニケーションにもつながる大切な考え方のはずだ。
「自分にとっての最終ミッション」だと話す、芸人を全うしたあとに叶えたい大きな野望についても語ってくれた。
はむはむと出会って知った、ハムスターを飼う大変さや、ペットショップの問題点
―はむはむちゃんとは、どのようにして出会ったのでしょうか?
野田:小さいころから動物が好きだったんですけど、団地に住んでいたので飼うことはできなくて。大人になってからも動物を飼いたい気持ちはあったのですが、ぼくの仕事柄、帰りが遅くなったり生活リズムも不規則だったりするので、犬や猫は世話ができなさそうだと思ったんです。
それに比べると、ハムスターはそこまで世話が大変ではなさそうだなと。「珍しい動物を飼ったらネタになるのでは?」みたいな、よこしまな気持ちも最初はあったんですけど、ハムスターを飼うと決めたときにはもうそんな考えはなくなっていました。もしネタとして飼うなら、もっと奇抜な名前をつけていたと思いますけど、誰のためでもなくこの子を大切に育てたいと思ったから、「はむはむ」なんでしょうね。
はむはむちゃん
―ペットショップのなかから、はむはむちゃんを選んだ決め手はどんなところだったのでしょう?
野田:そのときは、まだ生後1か月も経っていなかったんですけど、ケージの端っこでじっとしている姿を見て「この子にしよう」と思いました。
ぼくは、いわゆるHSP(ハイリー・センシティブ・パーソン:極めて感受性の高い人)らしく、辛そうにしている人や動物がいると放っておけなくなっちゃうんです。ペットショップって、小動物にとってはかなり劣悪な環境である場合が多いので、「ここから出してあげなきゃ」と思ってしまったんですよね。
―劣悪な環境?
野田:いま思えば、湿度や温度の管理もしていないうえに、ケージには床材も敷かれていなかったし、巣箱すら置いてなくて。さらに餌としてヒマワリの種をすすめられたんですよ。ハムスターはカボチャやヒマワリの種が好きなんですけど、高カロリーなうえ、ペレット(バランスのとれたハムスター用の餌)を食べなくなるのであげないほうがいいんです。
実際、はむはむを迎え入れてからいろいろ調べていくうちに、ペットショップの店員さんに教えてもらった飼育法は、全部間違っていることがわかりました。
―ハムスターは、飼育上の注意事項がたくさんあるのですね。
野田:なかでも温度管理はとても重要ですね。ハムスターは人間と同じ哺乳類で恒温動物なのですが、気温が下がると冬眠するんですよ。冬眠すると高い確率で死んでしまうので、温度は一定に保ってなければならないんです。
変化した野田の生活。「匂いのする食べ物とかマジで食わなくなりました」
―はむはむちゃんと一緒に暮らし始めて、野田さんの生活も変化しましたか?
野田:山ほど変わりました。いま話したように温度や湿度の管理はもちろんですが、部屋の灯りが点けっぱなしだとハムスターは生活リズムが狂ってしまうので、毎日暗い時間を確保する必要があるんですよ。
それから匂い。ハムスターは小さいので、ちょっとしたことがストレスになると思って、匂いのする食べ物とかマジで食わなくなりました。煙とか出る料理なんて絶対にしないです。
―へえ!
野田:出来る限り、物音も立てないようにしています。生活音もストレスになってしまうので、足音をたてないようにしたり、冷蔵庫の開け閉めの音とか振動にも気をつけるようになりました。
―なんだか、ハムスターにとっては人間がいないほうがいいくらいですね(笑)。
野田:いや、ほんとそうなんですよ。最近はぼくも忙しくなって家を空けることが多くなりましたけど、ハムスターにとって、整えられた生活環境を与えられたうえに人間がいない状態はめちゃめちゃ快適なんです。ぼくは、いないに越したことはない。
―最初に「犬や猫はハードルが高い」とおっしゃいましたが、お話を聞いているとハムスターのほうがハードル高そうですね。
野田:そう思います。こんなに手がかかるとは思ってもみなかったんですよね。犬や猫を飼っている人の話を聞くとびっくりしますよ、「こんな雑に扱ってるのか」って。真夏の炎天下に、毛がモサモサの犬を散歩させているのとか信じられない。「お前、同じことされてみろ」と思いますね。ダウンジャケットを着込んで地面スレスレを歩いてみろって。
はむはむとの暮らしで知った、「相手の気持ちを想像すること」と「慈愛の精神」
―北欧には動物と共に生きる精神が日本より強くありますが、野田さんにとってはむはむちゃんとの生活に、「だれかと一緒に生きている」という感覚はありますか?
野田:めちゃめちゃありますよ。こういう感覚は、一人で生きてきた人にしかわからないんじゃないかな。いや、本当に不思議なんです。テレビを見てぼーっとして、ふと横を見たら「うわ、生き物がいる!」って思う(笑)。当たり前のことなのだけど、いまだに朝起きたり、帰宅したりすると、「いる!」と感じます。
―とくに一人暮らしが長いと、自分のペースやルールができてくると思うのですが、自分以外の誰かと生活することに窮屈さを感じたりはしませんか?
野田:それはないですね。「音を立てないように行動する」とか、「なるべく匂いのしないものを食べる」とかって誰かに強制されているわけではないじゃないですか。「これをやったらはむはむは嫌だろうな」と思って自発的にやっていることなので、逆にやらないことのほうがストレスを感じると思うんです。
―言葉でコミュニケーションがとれないぶん、相手の気持ちを想像しているんですね。
野田:そうなんです。はむはむと暮らし始めてから、いろんなことをすごく想像しますね。こういうことは嫌なんじゃないかとか、自分に置き換えて考えてみたり。
だから「相手に気を配る」みたいな意識は、以前よりも強くなったと思います。子どもを持つ親もそうだと思いますが、弱い存在、環境に左右される生き物がそばにいると、その「変化」に敏感になりますよね。どうしたら相手が快適か、嬉しいか、みたいなことは考えるようになった気がします。
それに、動物を見ているとやっぱり「野生」だなあって思いますね。ハムスターなんてなつかないどころか、ぼくのことすら認識していない。でも、それが悲しいとも虚しいとも思わなくて。「そりゃそうだよな」って思えている自分に驚くことはあります。これまでは、尻尾をふりふりしている犬の動画を見て「いいなあ」なんて羨ましがっていたけど、はむはむと暮らすようになってからは「この子がただ幸せであればそれでいい」と心から思えたときに「これが慈愛の精神か」って。
―たしかに、動物と暮らしていると「見返りを求めない気持ち」は芽生えるのかもしれません。人に対しても同じように思えるようになりました?
野田:人に対してはないですねえ(笑)。親になると、子どもに対してはそういう気持ちになるのかもしれないけど。
―はむはむちゃんの幸せを一番に考えつつも、やはりはむはむちゃんの顔を見たくなったり、遊びたくなることはありませんか?
野田:それはありますよ。無理やり抱っこするのはよくないですけど、顔を見たりするのはいいと思います。ぼくは最初のころ、トウモロコシの匂いを嗅がせて巣箱から顔を出させたりしていました(笑)。それもぜんぶ、相手を想像することですよね。ハムスターは素直なので、嫌なことはしないんです。
「自分にとっての最終ミッションは、ペット関係の展開です」
―ともに暮らす相手のことを想像したり思いやることは、ペットでも人間でも大事ですね。コロナ禍になってペットを飼う人が増え、やっぱり飼いきれなくなって手放すケースが増えているというニュースも耳にします。
野田:すべては知識不足が原因だと思います。飼ったらどうなるかなんて、いままで一度も動物を飼ったことのない人には想像つかないじゃないですか。免許があるわけでもないし、「なぜ知らないんだ?」と責めることでもないと思う。最初に話したように、ぼくだってはむはむを飼い始めたときは全然知識もなかったわけですから。
いずれにせよ、ペットショップが正しい知識を発信できていないことは問題だと思います。飼ったらどうなるか、どんなことが必要になるか、動物の特性や飼い方も含めて、正しい知識を持って説明をしなければいけないと思います。命を扱っているわけですから。
―「ペットの衝動買いはやめましょう」とよく言われていますが、衝動買いそのものが悪いのではないような気がします。
野田:逆に言えば、初めてペットを迎え入れる人に「衝動買い」以外の理由なんてないですよね。みんなある意味では「衝動買い」じゃないですか。となると、やっぱり飼うときに半ば強制的にでも「飼ったらどうなるのか」「飼ううえで何が必要なのか」を教えておくべきだと思う。
たとえば、「田舎暮らし」に憧れて、都会から田舎へ引っ越してきて現実とのギャップにショックを受ける、なんてケースがありますけど、それに近いものがあるかもしれない。ペットの可愛い動画を見ていいなと思って、いざ育ててみたらウンコもするし小便もする。その想像ができるかどうかはやっぱり「知識」や「情報」が大切なのだと思います。
―野田さんがTwitterでハムスターの飼育情報を発信しているのは、そういう「知識」や「情報」を発信したいという思いもありますか?
野田:正直、ぼくははむはむのことで精一杯なので、有益な情報を発信しているというよりは「何か間違っているところがあったら指摘してほしい」という気持ちのほうが大きいです。
―ファンとの関係性も、はむはむちゃんと暮らすようになってまた変わったのでしょうね。
野田:ぼくのTwitterを「ハムスター情報アカウント」として使ってくれている人もたくさんいますからね。フォロワーのなかには、ぼくのことは知らない人もたくさんいます。ぼく自身もハムスターの情報をもらうためにTwitterを更新しているところはありますし。
以前、はむはむの調子が悪くなったときにフォロワーから山ほどDMをいただいて。いい病院を紹介してもらって本当にありがたいなと思いました。おそらく一番素晴らしいTwitterの使い方をしている人間なんじゃないでしょうか(笑)。
―野田さんは芸人以外にも、ゲーム開発やパーソナルジムのプロデュースなど他方で活躍されているので、いつか動物やペットを救うような施策にも期待しています。
野田:それ、めちゃくちゃ考えていますよ。自分にとっての最終ミッションがペット関係の展開ですね。
たとえば、保護されたペットが暮らす環境を整えて快適な場所にするとか。もし飼い主が見つからなくてもそこで一生暮らせるくらいの、管理の行き届いた場所をつくるのが理想です。ペットが人間に飼われなくてもいい世界ができたら幸せじゃないですか。
いつか芸人としてやるべきことを「一通りやった」と思えたときに、始められたらいいなと思っています。まだあまり人には言ってないですけどね。ゲームとかマッチョは「お笑い」に結びつけられますけど、「ペットのための施設をつくる」って笑いづらいじゃないですか(笑)。だからこそ最後にやるべきなのかなって。
しかも自分がやろうとしていることは、ゲームや筋トレの比じゃないくらいお金がかかると思うので、まずはお金をたくさん稼がなきゃいけないですね。そういう意味でも、順番としてちょうどいいのかもしれない。いま、自分がやるべきことをしっかりやって、それで集まったお金でペットに貢献できたらいいなと思っています。
- 施設情報
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- クリスタルジム
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野田クリスタルがプロデュースするパーソナルジムが、10月24日(日)より「対面パーソナルトレーニング」を開始します。
- プロフィール
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- 野田クリスタル (のだ くりすたる)
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1986年11月28日生まれ。お笑いコンビ・マヂカルラブリーのボケ担当。コンビとしては『M-1グランプリ2020』王者、個人としては『R-1ぐらんぷり2020』王者。ゲームクリエイターとしても活躍しており、2021年4月に発売した『スーパー野田ゲーPARTY』は8万本を超える売り上げを記録。