男女平等1位のアイスランド。「主婦の学校」の教えを監督が語る

男女平等1位のアイスランド。「主婦の学校」の教えを監督が語る

2021/10/14
テキスト
村尾康郎
編集:後藤美波

「家族や仲間と一緒に何かをすることの大切さ。それが学校の教えの核にある」

―学校に話を戻すと、家事の基本的なことだけでなく、破れた衣服の修理といったサステナブルな生活についての学びや、ベリー摘みなどの野外学習も行なわれていますね。映画に登場する在学生の入学動機は「手仕事に興味がある」「将来役立つ技術を身につけたい」とさまざまでしたが、監督が特に興味を惹かれたカリキュラムはありました?

トルス:クリスマスの時期に葉っぱ型のパン(「リーフブレッド / ルイヴァブルイズ」と呼ばれるアイスランドの伝統的なクリスマスの食べ物)を調理する授業です。そのパンは私にとってノスタルジックで、感情を強く揺り動かすものでした。

子どもの頃、クリスマスの時期になると、祖母の家に子どもから大人までみんなが集まりました。母がパンの生地を平たく薄くして、子どもたちがそれを型抜きして揚げていく。家族みんなでクリスマスのパンを調理するのは重要な伝統なのですが、最近では忘れられていました。学校の授業を通じて、このパンのことを思い出したんです。それで去年からクリスマスの時期に母の家にみんなで集まって、昔のように一緒にパンをつくるようになりました。

『〈主婦〉の学校』 © Mús & Kött 2020
『〈主婦〉の学校』 © Mús & Kött 2020

―どこの国でも、そうした伝統的な家庭行事は失われているのかもしれませんね。

トルス:家族がひとつに集まって、一緒に何かをするというのは素敵なことだと思います。学校の生徒たちも、キャンドルライトの明かりに照らされながらパンを調理するのを楽しんでいました。

―この学校は家事の知識を伝えるだけではなく、家庭のあり方を考えさせられる場所でもあるんですね。

トルス:その通りだと思います。家族や仲間と一緒に何かをすることの大切さ。それが学校の教えの核にあると思います。この学校では性別に限らず生涯の友情が育まれますが、それも重要だと思います。

―映画を観ていると学校の家庭的な雰囲気が伝わってきます。

トルス:授業を通じて生徒も教師もひとつの家族になるような感じです。特に生徒の多くは、在学中の3か月間、寮で共同生活を送ります。夜も仲間と話をして、ずっと一緒にいるので親密な関係になるんです。

家政学校の生徒たち 『〈主婦〉の学校』 © Mús & Kött 2020
家政学校の生徒たち 『〈主婦〉の学校』 © Mús & Kött 2020

―映画では卒業生が当時の学校の様子を振り返っていましたが、昔といまと生徒の様子や授業に対する向き合い方に変化を感じましたか?

トルス:昔は学校で学んだ知識を利用して、ハウスキーパーの仕事に就いた女性も多かったようです。彼女たちは主婦の仕事を学ぶというよりも、自分自身の教育のためにこの学校を選びました。

1980年代や1990年代には生徒数が減ったそうですが、それは女性の権利運動が高まり、女性が社会進出するようになったことで、私が最初に抱いたような古いイメージを持たれてしまったのかもしれません。でも、最近は入学生がまた増えているので、家事に対する意識が変わってきているとも考えられますね。

家政学校の現在の校長 『〈主婦〉の学校』 © Mús & Kött 2020
家政学校の現在の校長 『〈主婦〉の学校』 © Mús & Kött 2020

とにかく時間が早く過ぎていく現代に、家での過ごし方や働き方を見つめ直す

―監督ご自身はこの映画を通じて家事に対する意識は変わりました?

トルス:大きく変わりました。仕事を辞めて主婦に専念したいです。

―えっ、専業主婦に?

トルス:いえ、まだ仕事は続けるつもりです(笑)。でも、仕事のやり方について考えさせられました。いまの時代はとにかく時間が早く過ぎてしまう。学校への取材を通じて、自分らしくいられる時間、自分が心から楽しいと思える時間をつくることの大切さを知りました。学校の生徒たちは、そういったことも学んでいると思います。

『〈主婦〉の学校』 © Mús & Kött 2020
『〈主婦〉の学校』 © Mús & Kött 2020

―家の時間、自分の時間をどう過ごすか。それは働き方を考えるうえで重要なことですね。働いていると、どうしても仕事が最優先になってしまいがちですし。

トルス:最近では、そんなに仕事をガツガツしなくてもいいんじゃないか、来た仕事を全部受けなくてもいいんじゃないかと思うようになりました。家でリラックスしたり、何かクリエイティブなことをする時間をもっとつくったほうがいいんじゃないかって。いまは週のうち4日は外で働き、3日は主婦として働く、というのが自分にとって理想的な働き方だということがわかってきたんです。

―会社勤めだと自分のペースで働くのは難しいかもしれませんが、家族で助け合うことでそれぞれの負担は軽くなる。「主婦の学校」は家事だけでなく、人生を豊かにするための考え方も学べる場所なんですね。

トルス:家事は女性だけの仕事ではありません。女性が仕事をして男性が「主夫」をしている家もあります。女性が社会進出するようになったなかで、「主婦」という言葉はネガティブに捉えられることもありますが、本当はとてもポジティブなものなのです。

『〈主婦〉の学校』 © Mús & Kött 2020
『〈主婦〉の学校』 © Mús & Kött 2020
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作品情報

『〈主婦〉の学校』
『〈主婦〉の学校』

2021年10月16日(土)からシアター・イメージフォーラムほか全国順次公開

監督・脚本:ステファニア・トルス
出演:
アゥスロイグ・クリスティヤンドッティル
グナ・フォスベルグ
ラグナル・キャルタンソン
グズムンドゥル・インギ・グズブランドソン
上映時間:78分
配給:kinologue

プロフィール

ステファニア・トルス

アイスランド・レイキャビク出身の映像作家。プラハで演劇を学び、舞台芸術アカデミーで修士号を取得。在学中に編集助手を務め、2007年に初の長編映画『The Quiet Storm』の編集を担当。その後、アイスランドに戻り、映画編集者として活躍している。本作がドキュメンタリー監督デビュー作。

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