自分の声には力がある。スウェーデンに学ぶ、社会変革の原動力

セクシャルヘルスに関する情報や選択肢の必要性を訴えるプロジェクト「#なんでないの プロジェクト」代表の福田和子さんは、現在スウェーデンの大学で公衆衛生について学ぶ大学院生です。日本で緊急避妊薬へのアクセス改善を求めるオンライン署名キャンペーンを立ち上げるなど、多くの人を巻き込みながら社会の理不尽に声を上げる活動を行なっています。

スウェーデンといえば、社会におけるジェンダー平等が高いレベルで達成されており、人権意識の高い国として知られますが、100年前はいまとはまったく異なる社会状況だったそう。社会の不公正に人々が声を上げつづけ、地道に変化を起こしてきたことがいまにつながっています。現地で気候変動や、女性への暴力反対のデモなどにも参加してきた福田さんに、スウェーデンの生活のなかに根づく「声を上げることの大切さ」と、その大きな力について綴ってもらいました。

セクシャルヘルスやジェンダー平等の活動に取り組む筆者が、スウェーデンに渡った理由

皆さんは「スウェーデン」と聞いて何を思い浮かべるでしょうか?

オーロラや広大な森と湖? いまも世界中で聞かれるABBAの名曲? VOLVOやIKEA、Spotifyといったグローバル企業を思い浮かべる方もいるかもしれません。

私がスウェーデンに初めて足を踏み入れたのは大学3年生のとき。2016年から1年間行なった交換留学でした。当時、公共政策やジェンダーについて学んでいた私にとってスウェーデンは、「高い人権意識」「ジェンダー平等」「手厚い福祉」といったイメージが強く、交換留学先として選んだのも、「旅行で数週間訪れるだけではわからない、人権を支えるこの国ならではの土壌があるのでは」「それを自分で感じてみたい」という思いからでした。

私はいま、スウェーデンに滞在しながら、日本における性教育や避妊、それらに関わる医療へのアクセスの改善やジェンダー平等のための活動をしています。日本でもすべての人の性と生殖に関する健康と権利が守られ、性を通じて傷つくのではなく、人生が豊かになる人が一人でも増えるようにしたいと考えています。しかし、そういった視点でもスウェーデンに比べて日本は遅れをとっていると言わざるを得ません。

例えば日本では、被害者が13歳以上であった場合、同意のない性行為を罪に問うには、抵抗できないほどの暴行や脅迫があったこと、もしくは心神の喪失、心理的、物理的に抵抗できない状況があったことを被害者側が証明する必要があります。いっぽうスウェーデンでは、性行為において明確な同意が確認できない場合にはレイプとして罪に問われます。

また、日本では避妊も中絶もすべてが自己負担となり高額で、中絶においては既婚者の場合、配偶者の同意が必要ですが、スウェーデンでは、21歳まで避妊法が無料、中絶手術はすべての人が健康保険により無料で受けることができます。

筆者が代表を務める「#なんでないの プロジェクト」Instagram

そういった国の決まりごとを司る国政における女性の割合は、日本の衆議院で1割程度なのに対し、スウェーデンでは約半数。こうした状況の積み重ねの結果、「ジェンダーギャップ指数」(世界経済フォーラム)の最新版では、156か国中、スウェーデンは世界5位、日本は120位と圧倒的な違いがあります。

このようなイメージも相まって、私はスウェーデンと日本のあいだには埋めがたい距離があるよう感じていました。しかし、足掛け3年スウェーデンに暮らしてみてわかったことは、この国が元来たまたま平等を達成していたわけでもなければ、権利が空から降ってきたわけでもない。いまの状況は、一人ひとりが変化を望み、声を上げ、地道に社会を変えてきた結果である、ということです。

沈黙を破り、声を上げることで社会を変革させてきた

私には、忘れられないスピーチがあります。それは、2019年にケニアのナイロビで開催された「国連人口開発会議(ICPD25)」において、スウェーデン性教育協会(RFSU)の現代表、ハンス・リンデ氏が表彰された際の受賞スピーチです。

私はスウェーデンのなかでも保守的な南の田舎町に生まれました。私が生まれた1979年、同性愛は病とされていました。私の母が生まれた1953年、性教育はないに等しく、中絶は違法でした。私の祖母が1920年代に生まれた頃は、避妊の知識を話すことさえ違法で、同性愛者は刑務所に送られました。しかし、私のコミュニティー、社会は、勇気ある男性女性が一緒になって、沈黙を破り、議論を呼ぶ問題にも正面から向き合い、行動することによって変わってきました。
「国連人口開発会議(ICPD25)」受賞セレモニーの様子。後列左から5番目の男性がハンス・リンデ氏(写真:筆者提供)

このスピーチにもあるように、じつはスウェーデンも100年前はいまとまったく異なる社会が広がっていました。一人ひとりの権利を尊重する福祉国家、ジェンダー平等国家へと変貌を遂げた背景には、北の果ての小さな国がこの世界で生き延びるために福祉の発展などが必要不可欠な戦略であったこともあります。しかし、それだけではありません。これまで多くのスウェーデン人に変化の理由を尋ねて、必ずといっていいほど返ってくる答えは、「声を上げてきた人たちがいるから」でした。

気候変動や女性への暴力反対……老若男女がデモに集う

スウェーデンで「声を上げる」といって想起されるのは、環境活動家のグレタ・トゥーンベリさんではないでしょうか。私も新型コロナウイルスが流行る前、住んでいる街で開かれた『Fridays For Future(未来のための金曜日)』の運動(グレタ・トゥーンベリの学校ストライキにインスピレーションを受けて世界に広がった、地球温暖化対策の強化を求める運動)に参加しました。

土砂降りのなかでも老若男女1万人が集まり、その熱気はいまでも忘れることができません。そんななかで多くの人が掲げていたプラカードが、「気候ではなくシステムを変える」というもの。これはグレタさんも掲げる「Climate Justice (気候正義、気候の公平性)」の考えに基づいており、環境問題を単なる気候の問題とのみ捉えるのではなく、社会的、倫理的、政治的な課題として問題提起をしています。

スウェーデンで雨のなか行なわれた、気候変動対策を求めるデモの参加者(写真:筆者提供)

このほかにも、女性への暴力に反対するデモに参加したこともあります。スウェーデンでは、2018年に「セクシャル・コンセント・ロー、コンセントロー(性交同意法)」という世界でも先進的な法律が成立してもなお声を上げつづけています。その理由を主催者に尋ねると、「法律は変わっても社会が変わるにはまだまだ時間がかかる。だから、待つだけではなくて、声も上げていかないと」と話していました。デモには、女性だけでなく、家族連れを含む本当に多様な人たちが参加しているのが印象的でした。

女性への暴力に反対するデモの主催者たちと筆者(写真:筆者提供)

ではそもそもスウェーデンの人々のデモに参加して声を上げる、そのパッションや、変化への希望はどこからくるのでしょうか? その答えは、ごくごく普通の日常に、隠れているように思います。

一つひとつの成功体験が後押しに。「変わらない」と諦めるよりも、まず希望を伝えてみる

スウェーデンでは、ふだんの大学生活においても、声を上げたら聞いてもらえる、声を上げることは無駄ではない、と思える場所や仕組みがあります。

例えば、大学院入学式のガイダンスでは、ハラスメントに対応する部署の方々が登壇し、「この先、僕たちにまた会ってほしくはないけど、何らかのハラスメントが起きたときは、僕たちのところに来てください」との言葉を皮切りに、匿名性の確保など、安心して相談できる場所であることを新入生に向けて説明してくれました。

学生の声を潰さない仕組みはそれだけではありません。私の大学では、各コースに学生代表者が2人存在し、学期末にはアンケートでの授業評価とは別に、学生代表者がクラスメイトから生の声を集めます。その後、担当教授と学生代表者が集まり、意見を交わす場が設けられます。学生代表者は集めた声を伝え、必要に応じて具体的な改善などを求め、教授はその声に対応することが求められます。

実際、コロナの影響もあり突然のオンライン授業で非常に理解が難しくなった授業に対して学生の戸惑いの声が届けられたため、その後フォローアップの授業が組まれるなど、意見交換によって改善が図られた例はたくさんあります。それ以外にも、学生ユニオンも存在していて、さらに大きなところに声を届ける必要があれば彼らに伝えることもできるのです。

スウェーデンでの大学生活の様子(写真:筆者提供)

また、私は現在、いわゆる「間借り」をして生活している状況ですが、一緒に住む大家さんからも、「自分が変わってほしいと思うことがあるなら、具体的に要望を訴えたほうがよい」と言われます。そこで、 オンライン授業の難しさをほぼ愚痴のように伝えていたところ、「それ、きちんと先生に言った? 例えば少なくとも週に1回は人数制限してでも教授と学生が会う機会をセッティングしてもらうのはどう? 教授も理解してくれると思うし、まずは伝えないと」と言われたのをとても覚えています。

日常生活においても、性生活における同意についても、社会の仕組みについても、「どうせ変わらない」と諦めて黙ったまま苦しむより、希望を伝えてお互いがハッピーになれる道を探す──そんな姿勢が根づいているんだな、と感じます。

気候変動対策を訴える『Fridays For Future』デモにて(写真:筆者提供)

緊急避妊薬へのアクセス改善を求める運動で感じた手応え。「日本でも声を上げることには意味がある」

このように、声を上げたら、行動したら、多少の妥協はあったとしても望むかたちに物事が変わるという体験の積み重ねが、この国に良い変化をもたらす力になってきたのだと思います。言い換えれば、スウェーデンの人たちは「一人の小さな声にも大きな力がある」ことを知っています。だからこそ環境問題などにおいても、自分の行動の重さを感じ、積極的に取り組む人が多いのではないかと感じます。投票に関しても同じで、非常に高い投票率を維持しているのも、「自分の声には力がある」と思えるからではないでしょうか。

前述の女性への暴力反対のためのデモにて。女性だけでなく、家族連れや夫婦で参加する人も多く見られた(写真:筆者提供)

では日本ではどうでしょう? 「声なんてあげても意味がない」。そんな風潮はたしかにあります。しかし本当に声を上げても意味はないのでしょうか? 声をあげている一人として私が言えるのは、日本であっても、「一人の小さな声にも大きな力がある」ということです。

私がいま特に力を入れて活動している問題があります。それは、「緊急避妊薬(通称アフターピル)」のアクセスについてです。「緊急避妊薬」とは、妊娠可能性のある性行為からなるべく早く、72時間以内に服用することで、高い確率で妊娠を阻止できる薬です。WHOは、すべての女性が安全かつ効果的に使用できる薬であるとしており、実際に世界では約90か国で数百円から数千円程度で薬局での入手が可能です。なかには健康保険などで無料で提供される国もあります。

しかし、日本では処方箋が必要で、価格も高額であるという現状があります。それを変えようと「#緊急避妊薬を薬局で」プロジェクトを立ち上げ、集まった11万筆以上のオンライン署名を各省庁に提出したり、要望を出したりしています。そのような状況のなかで2020年に内閣府が「第5次男女共同参画基本計画」策定にあたってパブリックコメントを募集したところ、緊急避妊薬のアクセス改善を求める要望が非常に多かったことから、緊急避妊の薬局販売検討の可能性が基本計画に明示されました。

この問題については多くのメディアでも取り上げられ、Twitterでは2度にわたってトレンド入り、産婦人科団体も繰り返し意見表明を求められるなど、確実に状況が変化しています。だから私は、日本でも声を上げることには意味があると自信を持って言えます。

「#緊急避妊薬を薬局で」プロジェクトTwitterより

とはいえ、まだまだ「国が決めたことには従うしかない」という空気は根強いようにも思います。国の仕組みも、私たち一人ひとりが参画しつくり上げられるものというよりは、雲の上から降ってくるような感覚があります。この国でより良い変化を起こすには、性別、年齢に関係なく、理にかなったことを言えば響く環境がもっとつくられていくことが必要なのではないでしょうか。

最後に、前述のリンデ氏のスピーチの続きを紹介してこの記事を終わりたいと思います。

私がセクシャル・リプロダクティブ・ヘルス(性と生殖に関する健康と権利)をめぐる歴史から学んだことは、私たちは異なる幅広いバックグラウンド、経験を持つ人がともに立ち上がったときにこそ力を発揮するということ。そして、社会を変え、世界を変える力は、私たちの手のなかにある、ということです。
プロフィール
福田和子 (ふくだ かずこ)

大学在学中に留学先のスウェーデンで、日本では、性教育や避妊法の選択肢の不足によって、誰もが性に関わる健康や権利を守れない状況にあると痛感。帰国後の2018年5月、「#なんでないの プロジェクト」をスタート。現在は「#緊急避妊薬を薬局で プロジェクト」共同代表も務める。若者に届きやすいSRHRケアのあり方をテーマに、スウェーデン・ヨーテボリ大学大学院公衆衛生修士課程修了。FRaU×現代ビジネスなどに連載中。(翻訳)ユネスコ『国際セクシュアリティ教育ガイダンス【改訂版】ー科学的根 拠に基づいたアプローチ』(明石書店 / 2020年)



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カルチャーマガジン「Fika(フィーカ)」は、北欧からこれからの幸せな社会のヒントを見つけていきます。

スウェーデンの人々が大切にしてい「Fika」というコーヒーブレイクの時間のようにリラックスしながら、さまざまなアイデアが生まれる場所をめざします。

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