ドラマ『すいか』はなぜいまも愛される?人生は奇跡に満ちている

ドラマ『すいか』はなぜいまも愛される?人生は奇跡に満ちている

2021/08/12
テキスト
岡室美奈子
リードテキスト・編集:後藤美波(CINRA.NET編集部)

「Fika(フィーカ)」とは、仕事や家事の合間に、コーヒーや甘いものでほっと一息つく北欧スウェーデンの習慣。休息をとってリフレッシュするだけでなく、周囲の人々と会話を楽しみ、関係性を深める時間としても大事にされているそう。2003年に放送されたテレビドラマ『すいか』にも、そんなフィーカの精神に通じるような、人と人との温かい時間が切り取られている。

小林聡美、ともさかりえ、市川実日子、浅丘ルリ子らが共演した『すいか』は、三軒茶屋にある賄いつきの下宿「ハピネス三茶」に住む四人の女性たちを中心とした物語。現在Huluでも配信されているが、放送から18年経った今夏、Blu-ray Boxが発売され、その根強い人気をあらためて示した。ドラマ『すいか』は、なぜこんなにも長く愛されているのか? 『すいか』を「魔法のドラマ」と呼ぶ岡室美奈子氏(早稲田大学演劇博物館館長)がつづる。

18年のときを経てBlu-ray Box化されたドラマ、『すいか』とは

毎年夏になると『すいか』を思い出す。と言っても夏になると果物屋やスーパーの店先に並ぶあのすいかではない。2003年に日本テレビ系列で放送されたテレビドラマのことだ。

脚本を担当したのは木皿泉。木皿泉は、和泉務と妻鹿年季子というご夫婦の共作ペンネームである。『すいか』は視聴率的にはふるわなかったが、『第41回ギャラクシー賞』優秀賞や『第21回ATP賞』テレビ記者賞などを受賞し、木皿泉も本作によってテレビ界を支える優秀な脚本家に贈られる『向田邦子賞』を受賞するなど、高く評価された。そして何より、いまなおドラマ好きのあいだで語り継がれる珠玉の傑作ドラマなのである。『すいか』のBlu-ray Boxが放送から18年を経て発売されるのを機に、このドラマがなぜいまも愛されるのか、あらためて考えてみたいと思う(ネタバレあり)。

7月21日に発売された『すいか』Blu-ray BOXジャケット。特典としてオリジナルブックレットが付属 発売元:VAP ©NTV
7月21日に発売された『すいか』Blu-ray BOXジャケット。特典としてオリジナルブックレットが付属 発売元:VAP ©NTV

簡単にあらすじを紹介しておこう。信用金庫に勤める早川基子(小林聡美)は、34歳で独身、親離れもできないままに平凡な毎日を送っていたが、同僚の馬場ちゃんこと馬場万里子(小泉今日子)がある日突然三億円を横領して逃走する。それを機に基子は「ハピネス三茶」という賄いつきの下宿に引っ越し、そこで大家の芝本ゆか(市川実日子)、売れないエロ漫画家の亀山絆(ともさかりえ)、「教授」こと大学教授の崎谷夏子(浅丘ルリ子)らに出会い、日々の出来事を通して、少しずつ変化していく。

ハピネス三茶とノストラダムスの大予言。日常のすぐ隣にある非日常

このドラマで重要な役割を果たすハピネス三茶とはどんな場所だろうか。三軒茶屋なのにアパートの前には小川が流れ、その小川ではすいかが丸ごと冷えている。まるで昭和のような、どこか浮世離れした風景である。ハピネス三茶の建物自体、縁側と中庭のある古い家屋で、2階の教授の部屋の床が本の重みに耐えかねて抜けてしまったりもする。住人みんなで食卓を囲んで、新聞を回し読みしながらゆかのつくる朝ご飯や晩ご飯を食べる姿は、シェアハウスというよりは、昔懐かしい下宿屋の風情だ。

だからご飯が並ぶのは、決してダイニングテーブルではなく、食卓でなければならない。そこで住人たち(ときには教授の教え子の間々田さん<高橋克実>や、その知人の響一くん<金子貴俊>が加わることもある)は食事をしながら雑談を交わす。ゆかがつくる食事は庭で採れた夏野菜をふんだんに入れたカレーなどで、美味しそうだがごく日常的な料理である。ハピネス三茶は、日々の暮らしが丁寧に積み重ねられるユートピア的な空間に見える。その温かさは、心地よい空間で家族や友人と過ごす時間を大事にする、北欧の日常にも通じるのかもしれない。

市川実日子演じるゆか ©NTV
市川実日子演じるゆか ©NTV

しかしそんなハピネス三茶の食卓にも、ときには大トロの刺身や松茸など、いつもと違うごちそうが並ぶこともある。大トロは逃亡犯の馬場ちゃんがハピネス三茶に捨てていったものだ。そのことが象徴するように、じつは彼女たちの穏やかな日常生活のすぐ隣では、非日常的な事件が起こっている。彼女たち自身、平々凡々な日常を過ごしているだけではなく、さまざまな非日常的な出来事に巻き込まれたり、経験したりもするのだ。

たとえば基子は、いきなり同僚が指名手配されるだけでなく、母が癌になって手術することになる。絆はかつて双子の姉を亡くした経験を持ち、さらに愛猫の綱吉が失踪したり、刃物を持った通り魔を阻止して腕に軽傷を負ったりもする。教授にいたっては教え子が自殺未遂をしたり、かつてハピネス三茶でともに暮らしていた親友が亡くなったり、理事長を殴って大学を退職したりもする。

新聞やテレビのニュースになるような事件や人生を左右する出来事は、意外と身近で起こっているのである。そもそも20年前に子ども時代の基子と絆が初めて出会ったときに話題になったのは、1999年に恐怖の大王がやって来て人類が滅亡するというノストラダムスの大予言やハルマゲドンだった。

ともさかりえ演じる絆 ©NTV
ともさかりえ演じる絆 ©NTV

私たちの日常は、決して永遠に続くわけではない、かもしれないのだ。にもかかわらずこのドラマを思い出すとき、真っ先に思い浮かぶのは、みんなで食卓を囲む日々の暮らしの風景である。それはなぜだろうか。

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リリース情報

『「すいか」Blu-ray BOX』
『すいか』Blu-ray BOX

2021年7月21日(水)発売
価格:24,200円(税込)
VPXX-71859
発売元:VAP

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