日本人建築家が民藝に魅了され、デンマークで民藝店を始めたわけ

日本人建築家が民藝に魅了され、デンマークで民藝店を始めたわけ

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森田美紀
編集:川浦慧、吉田真也(CINRA.NET編集部)
2021/07/27
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日本人建築家が、コペンハーゲンで民藝店をはじめたわけ

今年の5月、夏の入り口はまだ見えない、まだ少し肌寒いコペンハーゲン中心部のある陶芸工房の一角で、生まれて初めてポップアップショップを開いた。置いているのは、自分で買い集めたり、オークションサイト・フリーマーケットポータルから取り寄せた古びた工藝品。こけしや籠ザルなどをはじめ日本のものが目につくが、北欧のアンティーク、メキシコ・南アフリカの民藝品など世界中から集めた好きなものをフラットに並べて紹介していた。たった2週間のオープンだったが、ほとんどのものが売り切れてしまうくらいには盛況だった。

私は雑貨店経営者でもバイヤーでもなく、建築士である。コペンハーゲンに9年間滞在した末、やっと永住権を得て、自分の設計事務所を立ち上げるところだ。いまは修行として、インテリアデザインの事務所で週4回働きながら、年に数回のペースでポップアップショップを開いている。なぜ建築家なのに民藝品を売るのか、理由は、ただただ好きだから、だ。

ポップアップの様子
ポップアップの様子
ポップアップの様子

インテリアデザインの仕事のなかで、デンマーク人のお客さんのために家具やオブジェクト、アートを購入することはよくあるが、本当にいいと思えるものに出会うのはとても難しい。もちろん、いいお店やブランドはいくつもあるが、高価すぎて手が出ない。

ならば、自分でコツコツと民藝品や骨董品を集めたほうが早いかも、そう思ったことが私のお店の始まりだ。いまは、ほそぼそとInstagram上にショップを開きながら、次のステップについてぐるぐる思案している。またすぐにポップアップショップを開催しようか、はたまたどこか街中の小さな場所を借りてお店をもとうか、いやまずは美しいものたちがつくられる現場を見て回ろうか……と。

運営している「Morita Mingei」のInstagram

もともと「古くて安くて便利なもの」が好きで、地元・大阪の万博公園で開催されるフリーマーケットに行って、お小遣いを元手に大量に売り買いをするような女子高生だった(ちなみに、おニュー至上主義の母親からはかなり嫌がられていた)。

大学は建築・デザインを勉強する道へ進んだ。初めての長距離フライトは、アルバイトで貯めたお金で夏休みにバックパック旅行をした北欧だった。そのときも建築を見に行ったあとにすぐ骨董屋・セカンドハンドショップを探してたくさんのものを持ち帰った。大学を卒業して、大学院へ進学するためにデンマークにきてからも、まず骨董通りを探して少ない予算で生活必需品を集めた。

学生時代に立ち寄ったデンマークの骨董屋の様子
学生時代に立ち寄ったデンマークの骨董屋の様子

そして北欧の長い冬、日本から持ち込んだ本で「民藝」というアイデアを知り、少しのホームシックとともにその考え方にハマっていく。詳しく調べたり買い集めたり、それについて友人たちと話したりすることがとても楽しかった。

そもそも「民藝」とは?

民藝とは、「民衆的工藝」を略した造語である。思想家の柳宗悦が、それまで「美」があるものと見られていなかったような日用品の器や道具に美的価値を見出し、思想として確立させ、「下手物」とよばれたたわいもないものに、新しい眼差し・スポットライトを与えた。海外では日本の美術史のなかでアートムーブメントの一つとして数えられ、アメリカ・カルフォルニア州のサンディエゴには世界中の民藝を集めた美術館さえある。

柳が定義した「民藝」の条件には以下のものがある。

■実用性・使いやすさを考慮したかたちであること
■無銘性・つくり手は名を上げるためにつくるわけではなく、あくまで職人であること
■複数性・優れた製品を量産できる技術があること
■地方性・地元で取れる材料を使い、特有の技法、色、かたちなど地域の伝統を反映したものであること
■手仕事・手によって造形を与え、機械はその造形の助けとなる目的のためのみに使われる
■他力性・個人の力よりも、自然の恵みや伝統の力など、目に見えない大きな力に支えられている

これらを満たし、かつ「美」をその内に宿すものが民藝品とされ、柳の収集の対象となり民藝運動という名の下、人々を巻き込みながら日本中の工人たちを鼓舞させる活動に繋がっていく。

話が民藝から少しそれるが、民藝の定義は、建築・空間デザインにも当てはまる。建築には手仕事がつきもので、大工さんの素晴らしい技術がふんだんに使われ、いつもたくさんの人が携わり、その土地の風土や歴史を体現し、その場所に代々伝わる建材が使われる。それらを満たす美しい建築は世界中にたくさんあり、そして名もない人々がつくる何気ない建築に、何か「霊的な美」が潜んでいるようなことがある。いくらセンスがあろうが巨匠であろうが、そんな建築には勝てないと思わされるものがあって、いつか死ぬまでにそんなものを世に残せるようになりたい、そんな希望への道筋を民藝から多く学んでいる。

ただ、そうやって民藝のものや考え方に触れていくうちに、そういった質をもつものや価値観が世界にはほんの僅かしかないことに気づいた。

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プロフィール

森田美紀
森田美紀(もりた みき)

大阪市立大学で建築家・竹原義二のもとで建築意匠を学び、2012年からデンマーク王立芸術アカデミー建築学校留学して修士課程を修了し、デンマークの建築家資格を取得。コペンハーゲンにて自身のデザインスタジオmok architectsを共同設立し、その活動のなかで、工藝・民藝品を集め販売するM Mingei og kunstflidsを運営中。

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