日本人建築家が民藝に魅了され、デンマークで民藝店を始めたわけ

日本人建築家が、コペンハーゲンで民藝店をはじめたわけ

今年の5月、夏の入り口はまだ見えない、まだ少し肌寒いコペンハーゲン中心部のある陶芸工房の一角で、生まれて初めてポップアップショップを開いた。置いているのは、自分で買い集めたり、オークションサイト・フリーマーケットポータルから取り寄せた古びた工藝品。こけしや籠ザルなどをはじめ日本のものが目につくが、北欧のアンティーク、メキシコ・南アフリカの民藝品など世界中から集めた好きなものをフラットに並べて紹介していた。たった2週間のオープンだったが、ほとんどのものが売り切れてしまうくらいには盛況だった。

私は雑貨店経営者でもバイヤーでもなく、建築士である。コペンハーゲンに9年間滞在した末、やっと永住権を得て、自分の設計事務所を立ち上げるところだ。いまは修行として、インテリアデザインの事務所で週4回働きながら、年に数回のペースでポップアップショップを開いている。なぜ建築家なのに民藝品を売るのか、理由は、ただただ好きだから、だ。

ポップアップの様子

インテリアデザインの仕事のなかで、デンマーク人のお客さんのために家具やオブジェクト、アートを購入することはよくあるが、本当にいいと思えるものに出会うのはとても難しい。もちろん、いいお店やブランドはいくつもあるが、高価すぎて手が出ない。

ならば、自分でコツコツと民藝品や骨董品を集めたほうが早いかも、そう思ったことが私のお店の始まりだ。いまは、ほそぼそとInstagram上にショップを開きながら、次のステップについてぐるぐる思案している。またすぐにポップアップショップを開催しようか、はたまたどこか街中の小さな場所を借りてお店をもとうか、いやまずは美しいものたちがつくられる現場を見て回ろうか……と。

運営している「Morita Mingei」のInstagram

もともと「古くて安くて便利なもの」が好きで、地元・大阪の万博公園で開催されるフリーマーケットに行って、お小遣いを元手に大量に売り買いをするような女子高生だった(ちなみに、おニュー至上主義の母親からはかなり嫌がられていた)。

大学は建築・デザインを勉強する道へ進んだ。初めての長距離フライトは、アルバイトで貯めたお金で夏休みにバックパック旅行をした北欧だった。そのときも建築を見に行ったあとにすぐ骨董屋・セカンドハンドショップを探してたくさんのものを持ち帰った。大学を卒業して、大学院へ進学するためにデンマークにきてからも、まず骨董通りを探して少ない予算で生活必需品を集めた。

学生時代に立ち寄ったデンマークの骨董屋の様子

そして北欧の長い冬、日本から持ち込んだ本で「民藝」というアイデアを知り、少しのホームシックとともにその考え方にハマっていく。詳しく調べたり買い集めたり、それについて友人たちと話したりすることがとても楽しかった。

そもそも「民藝」とは?

民藝とは、「民衆的工藝」を略した造語である。思想家の柳宗悦が、それまで「美」があるものと見られていなかったような日用品の器や道具に美的価値を見出し、思想として確立させ、「下手物」とよばれたたわいもないものに、新しい眼差し・スポットライトを与えた。海外では日本の美術史のなかでアートムーブメントの一つとして数えられ、アメリカ・カルフォルニア州のサンディエゴには世界中の民藝を集めた美術館さえある。

柳が定義した「民藝」の条件には以下のものがある。

■実用性・使いやすさを考慮したかたちであること
■無銘性・つくり手は名を上げるためにつくるわけではなく、あくまで職人であること
■複数性・優れた製品を量産できる技術があること
■地方性・地元で取れる材料を使い、特有の技法、色、かたちなど地域の伝統を反映したものであること
■手仕事・手によって造形を与え、機械はその造形の助けとなる目的のためのみに使われる
■他力性・個人の力よりも、自然の恵みや伝統の力など、目に見えない大きな力に支えられている

これらを満たし、かつ「美」をその内に宿すものが民藝品とされ、柳の収集の対象となり民藝運動という名の下、人々を巻き込みながら日本中の工人たちを鼓舞させる活動に繋がっていく。

話が民藝から少しそれるが、民藝の定義は、建築・空間デザインにも当てはまる。建築には手仕事がつきもので、大工さんの素晴らしい技術がふんだんに使われ、いつもたくさんの人が携わり、その土地の風土や歴史を体現し、その場所に代々伝わる建材が使われる。それらを満たす美しい建築は世界中にたくさんあり、そして名もない人々がつくる何気ない建築に、何か「霊的な美」が潜んでいるようなことがある。いくらセンスがあろうが巨匠であろうが、そんな建築には勝てないと思わされるものがあって、いつか死ぬまでにそんなものを世に残せるようになりたい、そんな希望への道筋を民藝から多く学んでいる。

ただ、そうやって民藝のものや考え方に触れていくうちに、そういった質をもつものや価値観が世界にはほんの僅かしかないことに気づいた。

日本の民藝と北欧の工藝に共通する「過去を振り返ることを恐れないこと」「素直になること」

コペンハーゲンにある建築の大学院に通っていたころ、「スタジオ課題」という、あるテーマのなかで建築・デザインを構築していく授業があった。例えば、あるヒッピー村に家を立てるとしたら? という課題だったり、布について考えながら椅子をつくる授業だったり。そのなかで、繰り返し言われたことは、「過去を振り返ることを恐れないこと」と「素直になること」だった。

「過去を振り返ること」は、過去のデザインを参照して、ときにはそれを取り入れること。取り入れることは盗作ではなく、伝統の上に新たな歴史を積み上げるということ。「素直になること」は、意味のない装飾や線を省き、素直にシンプルに、素材の特色を素直に使って、必要なものだけで組み上げていくこと、である。この二つに、私は日本のデザイン思想や、民藝との共通点を感じた。そして北欧の他の工藝、例えばうつわや家具工藝を眺めても、まず重視されるのはその実用性であり、質の高さである。そのうえで、人々の手に届くことを願われ「量産」されているものが多い。

違う点といえば、デンマークは自国の伝統のデザインを振り返るだけでなく、世界中の伝統を自分のものにする。まるで北欧バイキングのように、世界中のものを持ち帰って、自分のデザインの発展のきっかけにした。例えば、ハンス・J・ウェグナーの有名なYチェアは、もともとは中国で使われていた、「曲ろく」という背骨のカーブに沿った背板を持つ椅子をもとに、余計な要素を省きながらシンプルで心地よい世界で一番有名なY字の背もたれを持つ椅子へ昇華させた。

所有しているYチェア

効率化により失われつつある北欧の民藝に対して、日本の伝統工藝は守られている

こういった背景のなか、第2次世界大戦前後の時期にはさまざまな分野において優れた工房が多く生まれ、北欧のデザイン産業を盛り立てた。が、現在北欧の民藝・伝統工藝と呼ばれるものは非常に数少なくなってきているのが事実である。デンマーク人に、自慢できる民藝・伝統工藝はありますか? と質問しても答えられる人は数少ないだろう。

北欧の民藝が数少なくなってきている理由はなぜか。しかも、人々のデザイン・工藝への関心が高く、政府の文化的投資の割合もとても多く、世界的にもデザイン立国としてブランドイメージがあるのにも関わらず。

それにはいくつかの要因があるが、一番は「人件費の高さ」が挙げられる。民藝は、手仕事を重視する労働集約的な商品である。税金・人件費が日本よりもはるかに高い超福祉国家のデンマークでは、資本主義的に非効率がゆえに、高価でアートピース的な作品が多いため、「量産品」として世界の市場で生き残るのは厳しいのが現状といえる(一方、他の分野のプロダクトは、デザインの力で効率的な量産の努力をしている素晴らしい会社がたくさんある)。さらには人件費削減のため、海外に工場を移転する会社も増えて、技術が流出しているのも課題だ。

もう一つの要因は、資本主義・個人主義が大旗を振るデンマーク社会のなかで、政府の工藝への保護の対象が「技術」や「産地」でなく、「個人」「会社」であること。民藝は無銘のものであり、また技術は会社や個人の持つ時間軸を超えて引き継がれていくべきものだが、ある一世代から継承されることが稀なのが、現在の状況である。

ポップアップショップの様子

逆に、日本の伝統工藝がここまで生き続けている理由としてデンマークと対照的なのが、政府がその価値を認め、積極的に保護していることである。1974年に制定された伝統的工藝品産業の振興に関する法律をもとに、伝統工藝品として認定を受けると、政府からさまざまな補助政策・補助金を受けることができる。

1. 日常生活で使われている工藝品であること
2. 手工業であること
3. 技術、原材料が100年以上受け継がれていること
4. 一定の地域で産業として成り立っていること

この保護政策の条件を見ると、ある部分は民藝の定義と重なっているところがある。民藝的価値観が日本で色褪せることなく、世界中の人々の支持を保ち続けている理由として、資本主義に負けない工人たちのたゆまぬ努力が大前提としてありつつ、この保護政策も影響していると思っている。

一方で、デンマークの民藝の伝統もまったく消え去ったわけではなく、小さな炎が各地にともり続けている。民藝、つまり受け継がれてきた技術や文化に対する考え方を、当たり前のことと思わず、あらためて口に出していくことや、売り出すためのお手伝いをすることで、その炎を絶やさずに新しい炎を見つけるきっかけにしていくことが大事だと私は感じている。つまり私のお店の将来の狙い、願いは「デンマークの民藝をサポートすること」でもある。

炎は他の炎を盛り立て、巻き込みながら大きな流れをつくっていく。それは「北欧の民藝」も同じだ。私の理想は、北欧民藝からのインスピレーションを世界中に与えられたら、私はいいデザインについて学べるし、さらに世界にいいヒントが溢れる……そんな流れになること。

デンマークの工藝社会に対し、外国人の民藝オタクである私個人ができることは、きっと多くはないかもしれない。それでも私は、デザインの仕事を続けながら、日本・デンマーク・世界中を歩き、いいなと思うものをまた集め、こういう考え方はどうだろう? と、デンマークの人々に世界から拾ってきたボールを投げ続けたい。その最適なやり方をこれからも模索し続けようと思う。

プロフィール
森田美紀
森田美紀 (もりた みき)

大阪市立大学で建築家・竹原義二のもとで建築意匠を学び、2012年からデンマーク王立芸術アカデミー建築学校留学して修士課程を修了し、デンマークの建築家資格を取得。コペンハーゲンにて自身のデザインスタジオmok architectsを共同設立し、その活動のなかで、工藝・民藝品を集め販売するM Mingei og kunstflidsを運営中。



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「幸福度が高い」と言われる北欧の国々。その文化の土台にあるのが「クラフトマンシップ」と「最先端」です。

湖や森に囲まれた、豊かな自然と共生する考え方。長い冬を楽しく過ごすための、手仕事の工夫。

かと思えば、ITをはじめとした最先端の技術開発や福祉の充実をめざした、先進的な発想。

カルチャーマガジン「Fika(フィーカ)」は、北欧からこれからの幸せな社会のヒントを見つけていきます。

スウェーデンの人々が大切にしてい「Fika」というコーヒーブレイクの時間のようにリラックスしながら、さまざまなアイデアが生まれる場所をめざします。

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