Kanocoと鈴木マサルが語る「色と柄」が人生にもたらす豊かさ

洋服・カーテン・テーブルクロスなどに使われる、布製品における生地を意味する「テキスタイル」。北欧のテキスタイルといえば、動植物モチーフなどをユニークな柄に落とし込み、鮮やかな色づかいで表現したデザインが特徴だ。生活に彩りを与えてくれる色や柄は、なぜ人々を魅了するのだろうか。

今回は、「マリメッコ」をはじめとする国内外のさまざまなブランドにテキスタイルデザインを提供してきた鈴木マサルさんと、モデルとして北欧ブランドを身に纏う機会も多いKanocoさんの対談を実施。長年の親交があるお二人に、北欧のテキスタイルデザインの印象をはじめ、世に溢れる「色と柄」の魅力を訊くことにした。

取材場所となったのは、2021年4月25日から5月9日まで開催予定だったものの、緊急事態宣言により開催中止となった個展『鈴木マサルのテキスタイル展 色と柄を、すべての人に。』の会場。展示を観ながら、個展名に込められた思いやコロナ禍の生活における「色と柄」がもたらすことについてなど、存分に語り合ってもらった。

昔から知っている仲なので、Kanocoさんのご活躍を見ていると本当に嬉しい(鈴木)

―まずはお二人の出会いから教えてください。

鈴木:Kanocoさんとは、かれこれ10年くらいのつき合いになります。はじめに代々木上原のギャラリーの方が引き合わせてくれて、話してみると、ぼくの事務所のすぐそばにKanocoさんが住んでいることがわかって。あの頃、上京したてでしたよね?

Kanoco:そうですね。当時はモデルの仕事を始めたばかりで右も左もわからない状況でした。鈴木さんには、よく近所の定食屋でご飯を食べながら私の話を聞いていただき、いろいろと気にかけてくださりました。

鈴木:懐かしいね(笑)。ぼくの行きつけの定食屋にKanocoさんもかよっていたので、いつの間にか「定食屋仲間」になって。昔から知っている仲なので、いまのご活躍を見ていると本当に嬉しいんですよ。

左から:Kanoco、鈴木マサル

―そんなに前から親交があったのですね。

鈴木:以前から、ぼくの展示にもちょこちょこ観に来てくれていました。そういったご縁もあり、毎年開催していた『鈴木マサルの傘展』の10周年の展示でKanocoさんにメインビジュアルのモデルを打診したところ、快く承諾してくれたんです。

Kanoco:鈴木さんと出会った頃の私は、普段からモード系の服装をしていて、北欧っぽいイメージとはかけ離れていると自分でも思っていたんですよ。いまでこそ、北欧テイストのブランドのお仕事をさせていただく機会も増えましたが、当初はまったく想像していなかったので、オファーをいただいたときに「まさか鈴木さんとお仕事できる日が来るとは……」と感慨深かったです。

鈴木:そのビジュアル撮影の場所がぼくの事務所の近くだったから、終わったあと、何年かぶりに例の定食屋へ行って、一緒にお昼を食べたよね。

Kanoco:久々に行けて嬉しかったな。また行きましょう(笑)。

2020年9月に「Artek(アルテック)」の日本旗艦店とウェブストアで同時開催された『鈴木マサルの傘展』の10周年のポスター

北欧特有のカラフルなテキスタイルって、歴史としてはそこまで長くないんです(鈴木)

―お二人ともお仕事をとおして、北欧の文化やテキスタイルデザインに触れていますが、どんなところが魅力だと思いますか?

鈴木:テキスタイルを学んでいた学生時代に、フィンランドのテキスタイルブランド「マリメッコ」を知り、衝撃を受けたことはいまでも覚えています。柄が巨大で、鮮やかな配色が美しくて。北欧のインテリアはシンプルなデザインが多いですが、そこに「マリメッコ」特有のきれいな色のアイテムを共存させる現地の生活スタイルに、とても憧れを抱いていました。

Kanoco:私は一度しかフィンランドに行ったことがないのですが、行く前は「北欧のテキスタイルデザインは、かわいらしい」という印象を持っていました。ですが、実際に現地の人たちを見てみると、ファッションのジャンルを問わず、日常的に取り入れていたんですよ。

たとえば、革ジャンのなかに「マリメッコ」のカットソーを合わせてロックな感じで着こなしていたりとか。日本で定着している北欧のイメージとは違う取り入れ方で驚きましたが、かっこよくて。きっと日本人が想像する以上に、北欧のテキスタイルが持つ独特な色と柄は、フィンランドの人たちにとって馴染み深いものなんでしょうね。

Kanoco(かのこ)
モデル。兵庫県出身。CM広告やファッション誌やカルチャー誌など、多数出演。2020年には『鈴木マサルの傘 10周年』でイメージモデルを務めた。現在はライフスタイルの発信やアパレルブランドとのコラボレーションなど、活躍の幅を広げている。無類のシロクマ好き。

鈴木:そう思います。ただ、日本人からすると個性的なデザインに見えるのに、なぜここまでフィンランドの生活に浸透していったのかが、ぼくも不思議で。

じつは「マリメッコ」をはじめとする北欧特有のカラフルなテキスタイルって、1950年代に突如として出てきたものなので、歴史としてはそこまで長くないんです。一般的に「長く暗い冬を明るい気持ちで過ごせるように」という思いから人々の暮らしに広まったといわれていますが、約70年という短い期間でここまで早く、深く、北欧の人たちの暮らしに浸透したということは、それ以前に人々が彩りのあるものを強く欲していたからかもしれませんね。

鈴木マサル(すずき まさる)
テキスタイルデザイナー。1968年、千葉県生まれ。多摩美術大学染織デザイン科卒業後、粟辻博デザイン室に勤務。1995年に独立し、2002年に有限会社ウンピアットを設立。2004年からファブリックブランド「OTTAIPNU(オッタイピイヌ)」を主宰。自身のブランドのほかに、フィンランドの老舗ブランド「マリメッコ」のデザインを手がけるなど、国内外のさまざまなブランドのプロジェクトに参加している。

多くの人を「色と柄」で元気づけたいという思いがありました(鈴木)

―「色と柄」が、長らく北欧の人々の心も明るくしてきたかもしれないと。まさに、2021年4月25日から5月9日にGallery AaMo(ギャラリーアーモ)で開催予定だった個展『鈴木マサルのテキスタイル展 色と柄を、すべての人に。』も同様のテーマですが、残念ながら緊急事態宣言の影響で開催中止になってしまいました。どのような思いで企画された展示だったのでしょうか?

鈴木:最初にGallery AaMoさんから、「コロナ禍だからこそ、人の気持ちが明るくなるような展示をお願いできませんか?」とお誘いいただいて、ぼくも「人々の気持ちがポジティブになる展示ってすごく良いな」と共感し、引き受けることにしたのです。そういう思いで準備を進めてきた展示すらも、結果的にはコロナの影響でできなくなってしまいましたけど。

鈴木マサルのInstagram公式アカウントにて公開された個展『鈴木マサルのテキスタイル展 色と柄を、すべての人に。』のエキシビション動画

展示会場の天井には、鈴木がデザインを手がけた傘が約122本も吊るされている

―緊急事態宣言発令となり、個展の中止が決まったのは開催前日だったそうですね。

鈴木:準備も済んでいましたし、ゴールデンウィーク期間中の開催だったので多くの人を「色と柄」で元気づけたいという思いもありましたから、やっぱり精神的なダメージは大きかったです。でも、こればっかりはしょうがない。また別の機会にお披露目できたら嬉しいです。

Kanoco:こんなにすてきな空間なのに、中止になってしまって本当に残念……。会場に入った瞬間、吊り下げられた巨大な生地に圧倒されました。一気に「色と柄」の世界観へと引き込まれるこの感覚を、いつか多くの人に体験していただける日が来たら良いですね。

入場してすぐに現れる、鮮やかな色の巨大な生地
巨大な生地は、あらゆるスペースに掲げられていた

大きな布って旗や横断幕で使われるように、どこか人の気持ちを高揚させるんです(鈴木)

鈴木:この大きな布は、本展のためにつくった新作なんですよ。ここまで大きな生地を用いた作品は初めてだったので、吊るされたのを見たときは、準備を進めてきたスタッフと息を飲みました。

―たしかに、カラフルな色や柄はもちろんですが、このスケールの大きさにも心躍りますね。

鈴木:大きな布って旗や横断幕で使われるように、どこか人の気持ちを高揚させるんですよね。ただ、それが暗い色だと圧迫感が出てしまうはず。明るい色だからこそ、ワクワク感につながるのだと思います。

―動物や植物などのモチーフがさまざまな色と柄に落とし込まれていて、どの作品も見ていて楽しい気分になりますね。

Kanoco:私も作品を見ていると、すごくポジティブな気持ちになります。全体的にたくさんの色を使っていて大胆ですが、一つひとつの柄はシンプルなものも多いので、不思議と統一感がある気がします。

鈴木:シンプルであることは、ぼく自身も大切にしていること。なんでもかんでも柄や色を多用すれば良いというわけではなく、シンプルさがベースにありつつも、スパイスとして色を使うというイメージでつくっています。

Kanoco:鈴木さんの作品は、その意図をすごく感じるから好きなんですよね。自分にはない鈴木さんの感性に憧れます。

シロクマが大好きなので、シロクマ柄のアイテムがあったらつい買っちゃいます(Kanoco)

―お二人は、どんな色と柄がお好きですか?

Kanoco:私はシロクマが大好きなので、シロクマ柄のアイテムがあったらつい買っちゃいます(笑)。だから色も、基本的にはモノトーンが好きですね。

鈴木:Kanocoさんといえば、シロクマですよね。以前、ぼくが手がけるブランド「オッタイピイヌ」から出していた、シロクマモチーフの傘もご購入いただきました。なんで好きなんですか?

Kanoco:高校3年生の冬にロンドンへ行ったとき、ハロッズという老舗百貨店でシロクマのぬいぐるみを買ったんです。それまではとくに興味なかったのですが、そのぬいぐるみがあまりにもかわいくて。愛でていたら、シロクマ自体も好きになっていきました。

真ん中に写っているのが、Kanocoが購入したシロクマ柄の「オッタイピイヌ」の傘
展示会場でシロクマ柄の靴下を発見した瞬間

鈴木:愛好歴が長いですね。いろんなアイテムを集めているんですか?

Kanoco:シロクマ柄の小物類はたくさん持っていますよ。あと、ぬいぐるみは100体以上あるので、自宅の全部屋にシロクマがいます。小さいサイズの子から、私の身長と同じくらいの大きさの子まで。

鈴木:それはすごい(笑)。ぼくの場合は、動物や植物そのものが好きというよりも、フォルムや存在感に魅力を感じていて、よくデザインのモチーフにしています。幾何形態とは違って、生きもののかたちだと人間と同じように生命力や伝達力を感じますよね。ですから、たとえデフォルメされたかたちであっても、動物のように見える柄はスッと人の心に入ってくるんですよ。

Kanoco:だから動物柄って愛着が湧くんですね。鈴木さんの好きな色も気になります。

鈴木:特定のこの色が好きというよりかは、色の濃さや鮮やかさの組み合わせを楽しむことが多いですね。気持ちを盛り上げたいときはきれいな色、落ち着きたいときはやさしい色、フォーマルに合わせたいときはモノトーンを使うといったように、気分やシチュエーションに沿って色を選ぶことが大切だと思っています。

自分だけの楽しみとして、色をさりげなく取り入れるのが好きです(Kanoco)

―kanocoさんは、気分やシチュエーションで普段着の色を選ぶときがありますか?

Kanoco:モノトーンの服を着ていると平常心を保てるので、洋服はいつも白か黒ばかりを選んでしまいます。でもやっぱり、気分を上げるためにどこかに色がほしいときもあるので、明るい色味の小物も持っていますよ。鈴木さんがデザインされたカラフルな傘も4、5本持っているのですが、洋服や気分によって使い分けると、雨の日も楽しくなります。

あとは、全身赤い服を着るには勇気がいるけれど、指輪のストーンや、リップ、チラッと見える靴下なら、赤い色も取り入れやすい。自分だけの楽しみとして、色をさりげなく取り入れるのが好きですね。

鈴木:モデルの仕事をしていると、普段の自分であれば絶対着ないような色の服も着る機会も多いと思うけど、そういう服を着てみたときに発見はあるんですか?

Kanoco:カラフルな服も、着てみると新鮮で良いなあと毎回思います。ただ、やっぱり私生活で着るとなると、平常心ではいられないんですよね(笑)。なんとなくソワソワしちゃいます。

鈴木:その気持ちわかります。無理に色や柄を取り入れるのではなくて、自分がいちばん心地良いと思う塩梅で取り入れることが大事ですよね。ぼくの場合、普段から派手な服を着ることも多いけど、やりすぎるとやっぱり平常心ではいられない。そのときは、アイテムを引き算してみたりして調整しています。ちなみに、今日も本当は自分がデザインしたカラフルな靴下を履いてきたんだけど、途中で気分が変わっていまは素足です(笑)。

布という素材だからこそ、アート性の強い色と柄でも生活に馴染みやすくなる(鈴木)

―コロナ禍により、暮らしへの「色と柄」の取り入れ方や、デザインの仕方に変化はありましたか?

鈴木:あんまり変わらないですね。ぼくのデザインのスタイルが、世の中のニーズを吸い上げてかたちに落とし込むというよりも、一般的にあまり使われていないような色も取り入れながら、独自の切り口を提案し続けているからかもしれません。

Kanoco:私も、普段から好きなものとそうじゃないものがハッキリしているからか、状況が変わったからといって、新しい価値観に変わるようなことはありませんでした。どちらかというと、好きなものはより好きになって、大事にしたいと思うようになりましたね。

鈴木:たしかに、自分の好きなものを見つめ直す機会にはなったかも。こんな時代だからこそ、自分がこれまで惹かれてきたテキスタイルの「色と柄」の魅力をさまざまな人たちに伝えて、元気づけられたら良いなとあらためて思ったわけですし。

Kanoco:私は実際にここでカラフルなテキスタイルを見て、元気をいただきました。暮らしのなかでも、こうしたアート性のある色鮮やかなデザインの布地を取り入れると、より前向きに過ごせそうですね。

鈴木:布は人が生まれてから死ぬまで、肌にもっとも触れている素材ですから、アート性の強い色と柄も、布という素材を使えば生活に馴染みやすくなるんですよ。非日常的な色と柄でも、衣類や傘などにプリントすることでグッと日常に近づきます。一見、斬新な色と柄でも、日常に取り入れやすくなるようなアイテムをこれからもつくっていきたいですね。

色や柄も、主観で好きなものを選んだほうが、より幸せに過ごせるのかなと(Kanoco)

―コロナ禍により精神的に不安を感じている方も少なくありません。そんな方におすすめしたい「自分なりに人生を楽しむ方法」を、最後に教えてください。

鈴木:まずはおいしいものを食べること。

Kanoco:私もそう思います(笑)。

鈴木:食べものは命の源ですからね。体が整うし、心も満たされます。コロナ禍のいまはちょっと難しいかもしれませんが、人と一緒に食事をすると心も開ける。実際、Kanocoさんとも定食が縁で仲が深まりましたから(笑)。

Kanoco:まさか、また定食の話に戻るとは(笑)。食の観点でいうと、料理や器選びの色合いにこだわるのも良いですよね。食事が楽しくなる要素のひとつだと思います。

あと、私は色とりどりのお花や植物が好きなので、お部屋に飾ると幸せな気分になります。お世話をすることで前向きな気持ちになれるし、すごく元気をもらえます。結局は、自分の好きなものに囲まれて生きることが、何よりも大切ですよね。だからこそ、色や柄も主観で好きなものを選んだほうが、より幸せに過ごせるのかなと。

鈴木:そうですね。客観的に見ると「これ、派手かな?」と思っても、自分が「好きかも」と感じる色や柄を積極的に取り入れてみるのは良いこと。それがたとえ、いままであまり選ばなかったような色や柄でも、これまでに感じたことがないくらい、晴れやかな気持ちになるかもしれませんから。

イベント情報
『鈴木マサルのテキスタイル展 色と柄を、すべての人に。』(※開催中止)

会場:東京ドームシティGallery AaMo

※新型コロナウイルス感染拡大防止対策により開催中止。本展の延期開催については未定ですが、詳細が決まり次第、下記のGallery AaMoのホームページにて告知予定。

プロフィール
Kanoco (かのこ)

モデル。兵庫県出身。CM広告やファッション誌、カルチャー誌などに多数出演。2020年には『鈴木マサルの傘 10周年』でイメージモデルを務めた。現在はライフスタイルの発信やアパレルブランドとのコラボレーションなど、モデル以外にも活躍の幅を広げている。無類のシロクマ好き。

鈴木マサル (すずき まさる)

テキスタイルデザイナー。1968年、千葉県生まれ。多摩美術大学染織デザイン科卒業後、粟辻博デザイン室に勤務。1995年に独立し、2002年に有限会社ウンピアットを設立。2005年からファブリックブランド「OTTAIPNU(オッタイピイヌ)」を主宰。自身のブランドのほかに、フィンランドの老舗ブランド「マリメッコ」のデザインを手がけるなど、国内外のさまざまなブランドのプロジェクトに参加している。



フィードバック 0

新たな発見や感動を得ることはできましたか?

  • HOME
  • Art,Design
  • Kanocoと鈴木マサルが語る「色と柄」が人生にもたらす豊かさ
About

「幸福度が高い」と言われる北欧の国々。その文化の土台にあるのが「クラフトマンシップ」と「最先端」です。

湖や森に囲まれた、豊かな自然と共生する考え方。長い冬を楽しく過ごすための、手仕事の工夫。

かと思えば、ITをはじめとした最先端の技術開発や福祉の充実をめざした、先進的な発想。

カルチャーマガジン「Fika(フィーカ)」は、北欧からこれからの幸せな社会のヒントを見つけていきます。

スウェーデンの人々が大切にしてい「Fika」というコーヒーブレイクの時間のようにリラックスしながら、さまざまなアイデアが生まれる場所をめざします。

「幸福度が高い」と言われる北欧の国々。その文化の土台にあるのが「クラフトマンシップ」と「最先端」です。

湖や森に囲まれた、豊かな自然と共生する考え方。長い冬を楽しく過ごすための、手仕事の工夫。

かと思えば、ITをはじめとした最先端の技術開発や福祉の充実をめざした、先進的な発想。

カルチャーマガジン「Fika(フィーカ)」は、北欧からこれからの幸せな社会のヒントを見つけていきます。

スウェーデンの人々が大切にしてい「Fika」というコーヒーブレイクの時間のようにリラックスしながら、さまざまなアイデアが生まれる場所をめざします。

VOLVO