様々な境界を曖昧に。ピピロッティ・リストが起こすフェミニズム

様々な境界を曖昧に。ピピロッティ・リストが起こすフェミニズム

インタビュー・テキスト
島貫泰介
編集:宮原朋之(CINRA.NET編集部)

すべてが隣り合い、溶け合う。境界を曖昧にする展示空間

今回の『あなたの眼はわたしの島』展からは、こういった撹乱の実験を全面化しようとする印象を受ける。ほぼ最初から最後まで靴を脱いで鑑賞することになる空間は、展覧会であるにもかかわらず、まるでピピの自宅に招かれたようなリラックスした空気に包まれている。その一助になっているのが、デンマークを拠点とする家具メーカー「クヴァドラ」から提供された数々のファブリックだ。

各作品の前に置かれた大小の丸型クッションや、作品『4階から穏やかさへ向かって』に使われたベッド。そしてピピが「サウンド・パサージュ(音の回廊)」と命名した、各作品を隔て動線の役割も果たしているカーテンもクヴァドラが提供したもので、京都国立近代美術館の空間に合わせて縫製したものだ(カーペットは、ピピお気に入りのスイスのメーカーのものらしい)。

実際に座ったり寝そべってみるとわかるが、クヴァドラの布地には特有の凹凸があり、心地よい。プラスチック廃材をリサイクルして得られた質感、サステナビリティーの考え方も、ピピがクヴァドラに共感する理由だという。ちなみに同社はコンテンポラリーアートとの協働に力を入れていて、オラファー・エリアソンや皆川明(ミナ ペルホネン)など数多くのアーティストの作品制作に関わっている。

展覧会には一般的に、「作品のための空間」「鑑賞者のための空間」といった明確なゾーニングがある。国宝や歴史遺物を取り上げる企画ともなれば、作品と鑑賞者のあいだは白線やアクリルガラスで幾重にも隔てるのが通常だ。

だがピピは、それとは正反対の、すべてが隣り合い、溶け合うような関係性のあり方を提案している。鑑賞者がベッドに寝そべって水面を漂う映像を眺める『4階から穏やかさへ向かって』に顕著だが、それは不特定多数の人々が夢を共有し、夢のなかで出会うような経験の実現でもあるだろう。その空間では境界が曖昧に、内にあるものは外へ、外にあるものは内へと嵌入し、侵食しあう。

意外と気づかずに通り過ぎてしまうかもしれないが、じつは美術館の外にも作品がある。『ヒップライト(またはおしりの悟り)』(2011年)がそれで、等間隔でロープに干されているのはなんと使い古された下着だ。これが夜になると照明ライトの代わりになるそうで、私が鑑賞したのは昼間であったが、その様子を想像するだけで微笑ましくなった。

プライベートの範疇にあるパンツやシャツ、しかも使用済みのものが屋外の公共空間に吊るされているときに生じる可笑しさ、恥ずかしさ、驚き。そういった微細な感情の乱れを誘発しつつ、「揺らぐこと」を尊重し、個人と世界をユーモアによって「揺るがすこと」を忘れないピピの精神に触れた気がした(風にたなびくパンツを目にしながら)。

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イベント情報

『ピピロッティ・リスト あなたの眼はわたしの島』
『ピピロッティ・リスト あなたの眼はわたしの島』

2021年4月6日(火)~6月20日(日)
会場:京都府 京都国立近代美術館
開館時間:9:30~17:00(金曜、土曜は20:00まで開館、入館は閉館時間の30分前まで) 
休館日:月曜
料金:一般1200円 大学生500円 高校生以下無料

巡回

2021年8月7日(土)~10月17日(日)
会場:茨城県 水戸芸術館現代美術ギャラリー

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