ダニエル・クレイグ『007』ミスター・ホワイトが表す、現代の悪

ダニエル・クレイグ『007』ミスター・ホワイトが表す、現代の悪

テキスト
小野寺系
イラスト:岡田成生 編集:久野剛士、CINRA.NET編集部

ミスター・ホワイトとの関係から垣間見える、ボンドの人間としての姿

しかし、そんなホワイトですら、『007 スペクター』の途中で組織に見捨てられてしまう。それは、現代の悪が利益によってのみ動き、最低限の信義すら失っていることを示しているかのように見える。利用価値がなくなれば、代わりは誰でもよいのだ。組織は新たな「ミスター・ホワイト」を、そのポストに座らせればいい。なにもかも失ったホワイトは最後に、自分の娘を組織から救ってやってほしいとボンドに頼む。画一的な価値観や虚飾にまみれた鎧が剥ぎ取られると、冷酷だったミスター・ホワイトも、ただ娘を思うひとりの父親という側面が残されていただけだった。

左から:ミスター・ホワイト役のイェスパー・クリステンセンとサム・メンデス監督(『007 スペクター』撮影時の様子)

原作小説でも、悪役たちに同情する視点が存在する。ボンドは、自分を直接殺しにくるような敵よりも、その背後にある、より卑怯で周到な巨悪と戦うことを望む。だからこそジェームズ・ボンドは、イギリスの諜報機関に所属していたとしても、信じるものを持った「個人」であるし、読者が心を寄せられる「人間」なのだ。

『007 スペクター』において、ボンドはホワイトとの約束を律儀に守り、彼の娘マドレーヌ(レア・セドゥ)の命を救おうとする。それは、人間が人間と見なされなくなってきている世の中で、たとえプレイボーイではあったとしても、やはり彼が悪と対抗する資格のある主人公たり得るということを示しているのである。

左から:ジェームズ・ボンド(ダニエル・クレイグ)とミスター・ホワイトの娘・マドレーヌ(レア・セドゥ)

公開が待たれる最新作『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』は、ダニエル・クレイグ演じるジェームズ・ボンドと、ホワイトの娘マドレーヌが再び登場する。果たしてボンドは、今回もホワイトの思いと、マーガレットを無事、ラストまで守りきることができるのだろうか。その是非によって、シリーズの意味合いも左右されることになるかもしれない。

『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』本予告

記事の感想をお聞かせください

知らなかったテーマ、ゲストに対して、新たな発見や感動を得ることはできましたか?

得られなかった 得られた

回答を選択してください

ご協力ありがとうございました。

Page 2
前へ

作品情報

『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』

2021年公開

監督:キャリー・ジョージ・フクナガ
脚本:ニール・パーヴィス、ロバート・ウェイド、スコット・バーンズ、キャリー・ジョージ・フクナガ、フィービー・ウォーラー=ブリッジ
音楽:ダン・ローマー
主題歌:ビリー・アイリッシュ“No Time To Die”
出演:
ダニエル・クレイグ
ラミ・マレック
レア・セドゥ
ラッシャーナ・リンチ
アナ・デ・アルマス
ベン・ウィショー
ジェフリー・ライト
ナオミ・ハリス
レイフ・ファインズ
配給:東宝東和

Category カテゴリー

Latest Articles 最新の記事

What's "Fika" ? フィーカとは

「Fika」はCINRA.NETとVOLVOが送る、北欧カルチャーマガジンです。北欧デザインの思想の基盤を「クラフトマンシップ×最先端技術」と捉え、そこに学びながら、これからのカルチャーやライフスタイルにまつわるコンテンツをお届けします。