Spotify発祥の北欧。なぜ起業家やユニコーン企業が育つのか?

Spotify発祥の北欧。なぜ起業家やユニコーン企業が育つのか?

2021/05/18
インタビュー・テキスト
榎並紀行(やじろべえ)
編集:吉田真也(CINRA)

なぜ日本でストリーミングは根づきにくい? 海外と異なる音楽業界のビジネスモデル

これまでの音楽体験を覆すサービスは北欧の若者たちを歓喜させ、ほどなくして世界中に広がっていく。しかし、日本でSpotifyのサービスが開始されたのは2016年のこと。本国での創業から10年後のローンチだった。

それから5年が経った現在も、日本ではストリーミングで音楽を聴くという習慣が幅広い層で完全に根づいているとは言い切れない。その理由について、Spotifyの音楽プレイリストをシェアできるサービス「DIGLE」、プレイリスト&カルチャーメディア「DIGLE MAGAZINE」を運営する株式会社CotoLab.の西村謙大さんにもお話をうかがった。

西村:日本と海外では音楽業界のビジネスモデルが大きく異なります。たとえば、アメリカだとCDアルバムの値段ってせいぜい1枚1,500円くらいですが、日本は約3,000円と2倍違う。そのため、国内市場かつCDの売上が事業の柱だった日本の音楽マーケットからすれば、安価なストリーミングサービスへの移行はなかなか進まなかったのではないかと思います。

日本ではまだCDが売れているアーティストも多く、いまも100万枚のセールスを記録しているアイドルがいますからね。下手にサブスクに音源を出してCDが売れなくなると困るから、スムーズに切り替わらなかったところはあるんじゃないでしょうか。その複雑な構造もあって、日本の音楽業界は世界から取り残されているように感じることもあります。それこそ北欧に比べれば7、8年は遅れているかもしれません。

西村謙大(にしむら けんた)<br>大学卒業後、外資系製薬会社でMR職を経験。退職後、2016年1月に株式会社CotoLab.を創業。『START ME UP AWARDS 2016』のキュレーター賞受賞。現在はプレイリスト&カルチャーメディア「DIGLE MAGAZINE」、「DIGLE」などを運営しているメディア事業、楽曲URLを一括管理できるマーケティングツール「B.O.M」を中心としたデジタルマーケティング事業を展開。
西村謙大(にしむら けんた)
大学卒業後、外資系製薬会社でMR職を経験。退職後、2016年1月に株式会社CotoLab.を創業。『START ME UP AWARDS 2016』のキュレーター賞受賞。現在はプレイリスト&カルチャーメディア「DIGLE MAGAZINE」、「DIGLE」などを運営しているメディア事業、楽曲URLを一括管理できるマーケティングツール「B.O.M」を中心としたデジタルマーケティング事業を展開。
CotoLab.が運営している、プレイリスト&カルチャーメディア『DIGLE MAGAZINE』
CotoLab.が運営している、プレイリスト&カルチャーメディア『DIGLE MAGAZINE』(サイトを見る

ただ、昨年から「ステイホーム」の影響で人々の音楽を聴く時間が増えたこともあり、日本でも徐々に潮目は変わりつつある。さらには、有名アーティストが続々と「サブスク解禁」に踏み切っていることも大きく、ここ数年のあいだにストリーミング配信で聴ける楽曲が急増した。お目当てのアーティストの楽曲があれば、リスナーも増えていくはずだ。

オフィスにいまだFAXがある日本。タイムパラドックスから抜け出すには?

今後、日本からSpotifyのようなグローバルイノベーションを起こすサービスは生まれるのだろうか。自身も起業家として、世界に新しい価値をつくろうとしている西村さんに見解を聞いてみた。

西村:そのためには、まず教育から変える必要があると思います。語学はもちろん、世界の国々の文化への理解度をもっと深めないといけないし、それこそ北欧の若者たちのようなチャレンジする気概を育ててあげることも大事です。

また、日本の場合は、国内市場だけでもそれなりの規模の会社に成長できてしまうので、最初からグローバルを視野にしていないケースも多いのかなと。日本で成功してから世界へ進出しようとしても、プロダクトや言語が国内の環境に最適化されているから、結局はイチからサービスを設計し直すなんてこともあるはず。ユニコーン企業を目指すのであれば、最初からグローバルな視点を持ってチャレンジするマインドと、ビジネス設計が不可欠なのではないでしょうか。

オンライン取材に応じていただいた西村さん
オンライン取材に応じていただいた西村さん

とはいえ、西村さんによれば、日本もここ数年でスタートアップを取り巻く環境は良くなってきていると感じるそうだ。起業家のための支援制度は充実しつつあり、世界的に見れば投資資金も潤沢にある。しかし、その一方で事務的な手続きの面ではかなり遅れている。書類の多さや、アナログな手続きの煩雑さなど起業家への負担が大きい。

これにはユリアンさんも同意で、「日本に出張へ行くと、オフィスにFAXが置いてあるのを見かけます。最新のテクノロジーを開発する国でありながら、いまだに古い機械にも頼っているのは、まるでタイムパラドックスのように感じます」と疑問を抱いているようだ。しかし、そのうえで日本の可能性についても言及してくれた。

ユリアン:日本には創業100年、200年の長寿企業が多く、その数は世界一です。また、数えきれないほどの大企業があり、北欧から見ればうらやましいほど潤沢な資金を持っています。これを、どう生かすかじゃないでしょうか。リスクをとってスタートアップに投資したり、大企業が本気で新規事業に取り組んだりすれば、一気にイノベーション大国になれる可能性を秘めていると思います。

オンライン取材に応じていただいたユリアンさん
オンライン取材に応じていただいたユリアンさん

1億2500万人の人口を有する日本に対し、北欧諸国はその6分の1程度。小さい国が強い産業を生み出すためには、海外に向けた新しいアイデアでイノベーションを起こす必要性があったとユリアンさんは言う。そうした意識のもと、国を挙げて推進してきた施策がいままさに花開いている。今後、ますますの人口減少へ向かう日本としても、世界の市場をつねに視野に入れている北欧から学ぶ点は多い。

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プロフィール

Julian Morie Hara Nielsen
Julian Morie Hara Nielsen(ユリアン 森江 原 ニルセン)

1987年生まれのデンマーク育ち。コペンハーゲン・ビジネス・スクールで教育を受け、大学時代にOurPlanet-TVとPeaceBoatの日本NPO団体にてインターンシップを経験。大学卒業後、ドローンや太陽発電のスタートアップでプロジェクト管理、資金調達、コミュニケーションに関する実務、利害関係者の維持とリサーチ作業などをとおして、北欧イノベーション・エコシステムに関する知見やノウハウを会得。2020年に北欧のスタートアップエコシステムを強化するTechBBQに入社し、北欧と日本地域のエコシステムをつなぐイノベーション・ラボ・アジアのプロジェクトを担当する。

西村謙大
西村謙大(にしむら けんた)

大学卒業後、外資系製薬会社でMR職を経験。退職後、2016年1月に株式会社CotoLab.を創業。『START ME UP AWARDS 2016』のキュレーター賞受賞。現在はプレイリスト&カルチャーメディア「DIGLE MAGAZINE」、「DIGLE」などを運営しているメディア事業、楽曲URLを一括管理できるマーケティングツール「B.O.M」を中心としたデジタルマーケティング事業を展開。

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