涙を生むメロドラマの力は今も残る 映画研究者・河野真理江が語る

涙を生むメロドラマの力は今も残る 映画研究者・河野真理江が語る

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松井友里
撮影:寺内暁 編集:久野剛士、CINRA.NET編集部

メロドラマはあいみょんの曲に似ている? 映画以外のジャンルにも見られる「メロ」の要素

―そして昨今公開されたメロドラマ作品と言えば、『スパイの妻』(黒沢清監督 / 2020年)があります。

河野:女性を悲劇のヒロインとして仕立てた、ある意味古典的なメロドラマですよね。黒沢清は『岸辺の旅』(2015年)以降の作品において、メロドラマに関心を寄せるようになっていて、いわゆる「泣ける映画」とは違うメロドラマを描こうとしています。なにせ『岸辺の旅』も『スパイの妻』も泣くに泣けないじゃないですか(笑)。

―それはそうですね(笑)。

河野:『スパイの妻』で、なぜあそこまで蒼井優演じるヒロインが追い詰められなければならないのか。いまこの時代に、あの作品が誰に向けて撮られているのかを考えたときに、わかる人にはわかるという、私も含むシネフィルが対象とされているとしても、女性としての私は含まれていないように思います。その意味でジェームズ・グレイの『エヴァの告白』(2013年)に似ていると思いました。たとえばあれを私の母親が見て楽しめるかというと、楽しめないと思います。

現在、日本の女性はメロドラマに飢えているんじゃないでしょうか。だからこそ『愛の不時着』のような韓国のシリーズに惹かれるのかもしれないし、少女たちは「泣ける映画」のような恋に憧れたり、チーズの夢を見たりしているのかもしれないですね(笑)。

取材を実施した、ボルボ スタジオ 青山
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―『愛の不時着』や『冬のソナタ』など、韓国では脈々とメロドラマ作品の系譜がありますね。

河野:驚くべきことに、韓国では「メロドラマ」という言葉はまだ死語になっていないんです。「メロヨンファ」と言って「メロ映画」という意味なんですけど、おそらく日本の統治時代に韓国へ「メロドラマ」が入っていって、いまでも「メロドラマ」という言葉が生きている。

―日本と違い、韓国ではなぜ「メロドラマ」が生き残ったのでしょう?

河野:やはり葛藤の時代が長いからだと思います。北朝鮮との関係はもちろん、ソウルのど真ん中にアメリカの基地があって、アメリカナイズされたものと韓国の伝統が共存せざるを得ないことなど、メロドラマが生まれやすい土壌があると思います。

―『愛の不時着』はまさにそのような背景のもと、生まれたメロドラマでした。

河野:日本の製作者たちもメロドラマという言葉を知らないわけじゃないから、これから日本でも新しいかたちでメロドラマが生まれてくる可能性があると思うんです。もしかしたらそれは、映画以外のサブカルチャーから現れてくるかもしれない。そういえば学生の反応で面白いなと思ったのが、講義でメロドラマについて説明したら、「あいみょんの曲に似ている」と言ってきた子がいました。

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―面白い感想ですね。いまふと思ったのは、メロドラマが生む情動と、昨今「エモい」と言われる感覚は近しいものがあるのかもしれません。

河野:メロドラマって、昔の日本では「メロ」とも略されていたんですよ。「メロドラマ的」ということを指して、「メロじゃない」とか「メロだ」と言っていた。それをいまの若者は「エモい」と言ったりしているのかもしれないですよね。

―言葉の使われ方としてもどことなく似通ったものがありますね。

河野:メロドラマは、もともとギリシャ語の音楽(melos)と劇(drama)が組み合わさって生まれた言葉なんです。あいみょんの曲もそうだけど、物語性を持った音楽ってありますよね。それはメロドラマじゃなく「ドラマメロディー」とでも呼ぶべきなのかもしれませんが、メロドラマは、音楽とか漫画とかアニメとか、あらゆることに汎用化できるので、映画以外のサブカルチャーのなかで、メロドラマがどのように継承されているかも見ていくと面白いと思います。

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書籍情報

『日本の〈メロドラマ〉映画 撮影所時代のジャンルと作品』
『日本の〈メロドラマ〉映画 撮影所時代のジャンルと作品』

発売日:2021年3月3日(水)
著書:河野真理江
価格:4,180円(税込)
出版:森話社

プロフィール

河野真理江(こうの まりえ)

1986年東京生まれ。映画研究。立教大学現代心理学研究科映像身体学専攻博士課程修了。博士号(映像身体学)取得。現在、立教大学兼任講師、青山学院大学、早稲田大学、東京都立大学、静岡文化芸術大学非常勤講師。近著に、「渋谷実の異常な女性映画──または彼は如何にして慣例に従うのを止めて『母と子』を撮ったか」(『渋谷実 巨匠にして異端』志村三代子、角尾宣信編、水声社、2020年)、論文に「「メロドラマ」映画前史──日本におけるメロドラマ概念の伝来、受容、固有化」(『映像学』第104号、2020年)などがある。

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