『SNS-少女たちの10日間-』を観て、私たちが心に刻むべきこと

『SNS-少女たちの10日間-』を観て、私たちが心に刻むべきこと

テキスト
小野寺系
編集・リード文:矢澤拓(CINRA.NET編集部)

卑劣な行為を記録するための、行き過ぎにも思える騙しのテクニック

最も危険なのは、言葉巧みに誘われて、実際に会おうとしてくる場合である。本作では、少女に近づこうとする男たちに対してある作戦を用意した。カメラとマイクを密かに隠したカフェの席を用意して、そこを待ち合わせ場所として、男たちを誘い出すのである。かなり危険な試みだが、そんな『スパイ大作戦』のようなシチュエーションで、どんなやり取りが交わされるのかは、本編を観てほしい。

この大掛かりな騙しのテクニックは、アメリカの劇映画では「コン・ゲーム(信用詐欺)」と呼ばれるジャンルの描写に当てはまり、映画『スティング』(1973年)や、日本のテレビドラマ『コンフィデンスマンJP』などでも用いられている。こういった手法を用いてドキュメンタリー映画を制作することは、倫理面の問題から、きわめて珍しい。

©2020 Hypermarket Film, Czech Television, Peter Kerekes, Radio and Television of Slovakia, Helium Film All Rights Reserved.
©2020 Hypermarket Film, Czech Television, Peter Kerekes, Radio and Television of Slovakia, Helium Film All Rights Reserved.

本作はその上で、精神科医、性科学者、弁護士、警備員など、多方面の専門家によって、精神面や適法性、安全性を最低限確保しているという。とはいえ、さすがに行き過ぎていると感じる場面も存在する。それは、本文の冒頭でも書いたケースのように、「画像を盾にした卑劣な脅迫行為」を記録に残すために、少女のヌード画像をスタッフが用意するところだ。この画像は、合成して作成されているが、児童が直面する脅威を伝えるためとはいえ、このような写真を餌にする行為は、加害者側の認識と、どこか地続きであるような気がしてならない。

©2020 Hypermarket Film, Czech Television, Peter Kerekes, Radio and Television of Slovakia, Helium Film All Rights Reserved.
©2020 Hypermarket Film, Czech Television, Peter Kerekes, Radio and Television of Slovakia, Helium Film All Rights Reserved.

観客が心に刻むべきは「深淵を覗き込むとき、深淵もまたこちらを見返しているのだ」という言葉

実在する少女たちに近づいて欲望を満たそうとする登場人物たちには、子どもたちを守るという真っ当なモラルが欠落しているのはもちろんだが、さらに根底には、女性をただの消費物として蔑視していると感じられる様子が多々見られる。

だからこそ、彼らを強く糾弾するならば、映画の制作者は自分たち自身の考え方も見つめ直す必要があるだろう。映画の制作現場において、出演者と制作者との間には力関係が生じることもあるからだ。哲学者フリードリヒ・ニーチェによる「怪物と闘う者は、自らが怪物とならぬよう心せよ」という有名な言葉が思い起こされる。さらに、それに続く「深淵を覗き込むとき、深淵もまたこちらを見返しているのだ」という言葉は、この作品を観るわれわれ観客も心に刻まなければならないのではないだろうか。知識や腕力を持った大人たちが、自分よりも弱い立場の児童を喰い物にしようとする行為は、弱者を助けようとせずに追い詰めたり利用しようとする、社会の中に存在するあらゆる別の搾取構図ともリンクしている。

SNSを彼らのように悪用していなかったり、児童を性の対象にしていない人たちも、自身の属する環境の中で、強者と弱者の間で交わされるコミュニケーションにモヤモヤした思いを抱く瞬間があるはずだ。そう考え始めると、本作は制作者の意図すら超えて、多くの個々人の内面の問題にも関係する「深淵」へと続く扉を開いたようにも感じられるのである。

『SNS-少女たちの10日間』が映し出す、卑劣で醜い大人たちの姿。それは、子どもたちの周りにある脅威をわれわれに教えてくれるのと同時に、われわれを含め多くの人間が心の中に宿している、悪の象徴なのかもしれない。

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作品情報

『SNS-少女たちの10日間-』
『SNS-少女たちの10日間-』

2021年4月23日(金)からヒューマントラストシネマ渋谷、新宿武蔵野館、池袋シネマロサほかで公開中

監督:バーラ・ハルポヴァー、ヴィート・クルサーク
原案:ヴィート・クルサーク
出演:
テレザ・チェジュカー
アネジュカ・ピタルトヴァー
サビナ・ドロウハー
上映時間:104分
配給:ハーク

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