『ロード・オブ・カオス』が描く、人が特別さに憧れる危険性

『ロード・オブ・カオス』が描く、人が特別さに憧れる危険性

2021/03/26
テキスト
小野寺系
編集:矢澤拓(CINRA.NET編集部)

ヨーロッパの中でも北端に位置し、切り立ったフィヨルドや、夜空に現れるオーロラなど、雄大な自然が広がる美しい国、ノルウェー。荘厳な雰囲気を持ち、実直で敬虔な人々が多いイメージがある。その反動なのか、そんなノルウェーは、悪魔崇拝を掲げる音楽ジャンル、「ブラックメタル」の本場でもある。

自殺、殺人、放火……。ブラックメタルを確立した代表的な存在であり、音楽以上に凶悪な事件で世界を驚かせた、ノルウェーの悪名高い実在のバンド、Mayhem(メイヘム)の物語が、事実と想像を基に、この度映画化された。本作『ロード・オブ・カオス』は、スリラー作品として見応えがあるばかりでなく、せつない青春映画としても、そして事件の実録映画としても質の高い傑作だ。

映画『ロード・オブ・カオス』予告編

マコーレー・カルキンの弟、ロリー・カルキンが、Mayhemのバンドリーダー「ユーロニモス」を演じる

主人公である、バンドリーダーでギタリストの「ユーロニモス」を演じるのは、マコーレー・カルキンの実弟ロリー・カルキン。愛らしい顔立ちながら、どこか陰があり長髪の似合うロリーは、ブラックメタルバンドの雰囲気に合っている。本作は、まずバンド結成時の若いユーロニモスたちが、ノルウェーの田舎で楽しく演奏する姿が映し出される。可愛らしいデザインの北欧の一般的な住居に住み、まるで「ごっこ遊び」のように悪魔崇拝を宣言したり、幼い妹と仲良く笑い合ったりするなど、この時代のユーロニモスを見ていると、後年、様々な事件を起こすMayhemのリーダーになる存在には、とても見えない。

『ホーム・アローン』シリーズのマコーレー・カルキンの実の弟、ロリー・カルキン ©2018 Fox Vice Films Holdings, LLC and VICE Media LLC
『ホーム・アローン』シリーズのマコーレー・カルキンの実の弟、ロリー・カルキン ©2018 Fox Vice Films Holdings, LLC and VICE Media LLC

そんなバンドに、新しくボーカルの「デッド(Dead)」が加入したことで、Mayhemは話題を集め始める。彼を演じるのは、俳優ヴァル・キルマーの息子ジャック・キルマーだ。デッドは精神的に問題があり、刃物で自分の体に傷をつけるという自傷行為を繰り返していた。デッド加入後のライブでは、曲の途中でデッドがナイフを出して自分の腕を切りつけて血を流し、さらには豚の生首を客に投げるというパフォーマンスを行い、観客の間でも「Mayhemは本当にやばい」という評判が広まっていった。本作では、メンバーたちがファストフード店で打ち上げをしているときに、デッドだけ血が足りずに青ざめた顔で一人震えている姿が、不謹慎ながらユーモラスに描かれている。

©2018 Fox Vice Films Holdings, LLC and VICE Media LLC
©2018 Fox Vice Films Holdings, LLC and VICE Media LLC

常識人であるユーロニモスの「異常」への憧れ。ボーカルの自殺から始まる転換点

そんなMayhemが、さらなる転換を迎えることになる。デッドがついに自殺してしまったのだ。自室で体を深く切りつけ、ライフルで頭を吹っ飛ばし、ベッドに倒れ込んだ。その現場を最初に発見したユーロニモスは慌てふためくが、次第に冷静さを取り戻した彼は、脳をぶちまけているデッドの自殺の現場を写真に撮ることを思いつく。信じ難いことに、その写真はMayhemのアルバムジャケットに使われることになり、バンドメンバーは散らばったデッドの頭蓋骨から作られたネックレスを首にかけて曲を演奏したという。

©2018 Fox Vice Films Holdings, LLC and VICE Media LLC
©2018 Fox Vice Films Holdings, LLC and VICE Media LLC

ユーロニモスは、友人の自殺という凄惨な出来事を、バンドの伝説として利用することによって、音楽業界での地位を高めていった。このように、あえて不道徳な行為によって、音楽自体とは関係のないところで特別な存在となろうとする態度が見られる場合がある。

たとえば、アメリカのギャングスタラッパーがその一つだ。犯罪行為をリリック(歌詞)に乗せることで、ハングリーな「ワル」を強調するラッパーの中には、実際には裕福な境遇にある優等生や、内向的な人物もいる。だからこそ、そうしたフィクションでの「ワル」と比べ、実際に犯罪歴があったり、新たになんらかのスキャンダルを起こしたりすることが、ある種のカリスマ性や、アーティストとしての価値を高める働きをすることがある。

本作では、歌詞に常軌を逸した背徳的な言葉を書きながら、実際には常識人であることを、「ポーザー(格好だけの奴)」と表現している。ユーロニモスは、そんな「口だけの」ポーザーとして活動している人物として描かれるからこそ、彼の目の前に現れた、本当に異常な存在で、自殺に至ってしまうデッドが眩しい憧れとして表現される。死体の写真を撮ったり、頭蓋骨のネックレスを作ったりする行為は、デッドに少しでも近づきたいという気持ちの表れでもある。

©2018 Fox Vice Films Holdings, LLC and VICE Media LLC
©2018 Fox Vice Films Holdings, LLC and VICE Media LLC
Page 1
  • 1
  • 2
次へ

作品情報

『ロード・オブ・カオス』
『ロード・オブ・カオス』

2021年3月26日(金)からシネマート新宿、シネマート心斎橋ほかで公開

監督・脚本:ジョナス・アカーランド
脚本:デニース・マグナソン
原作:マイケル・モイニハン、ディードリック・ソーデリンド『ロード・オブ・カオス ブラック・メタルの血塗られた歴史』
音楽:Sigur Rós
出演:
ロリー・カルキン
エモリー・コーエン
ジャック・キルマー
スカイ・フェレイラ
ヴォルター・スカルスガルド
上映時間:117分
配給・宣伝:AMGエンタテインメント、SPACE SHOWER FILMS

書籍情報

『ロード・オブ・カオス ブラック・メタルの血塗られた歴史』

2021年3月24日(水)発売
著者:マイケル・モイニハン、ディーデリック・ソーデリンド
訳者:島田陽子
価格:3,850円(税込)
発行:ele-king books / Pヴァイン

感想をお聞かせください

新たな発見や感動を得ることはできましたか?

1 2 3 4 5 6 7 8 9 10
回答を選択してください

ご協力ありがとうございました。

Category カテゴリー

What's "Fika" ? フィーカとは

「Fika」はCINRA.NETとVOLVOが送る、北欧カルチャーマガジンです。北欧デザインの思想の基盤を「クラフトマンシップ×最先端技術」と捉え、そこに学びながら、これからのカルチャーやライフスタイルにまつわるコンテンツをお届けします。