戸田真琴が母の姿と重ね思う「女の値札をはがされる日」の自由

戸田真琴が母の姿と重ね思う「女の値札をはがされる日」の自由

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戸田真琴
撮影:飯田エリカ 編集:石澤萌(CINRA.NET編集部)
戸田真琴

自分の肌を晒すことは「挑戦」であり讃えられるもの? 性的興奮をものさしにした世界で生きる苦しさ

グラビア業界も例に漏れず消費サイクルが早い。周りから伝わってくる範囲の話でも、女優志望や元々グラビアをするために業界に入ったわけではない女性たちが、チャンスを掴むために肌を晒すことは少なくない。もちろんグラビアというコンテンツ自体が好きで始める女性もいるものの、一歩入ってみるとその多くは「男性のため」という名目でものごとの価値観が固まっていることが多く、一枚皮を剥がせば「より肌面積が多いほうがいい」「読者にインパクトを与えるべき」という本音が隠れている。

男性の性的興奮をそそるコンテンツがあること自体は決して悪いことではないけれど、あまりにもそこに特化したコンテンツばかりがあふれ、その結果、女性が肌を晒すという行為自体が軽いものとして扱われていると感じる。美しい写真を残したい、見た人に何かを感じてもらいたい、と挑む演者がいたとしても、そこが「より脱いだほうが喜ばれる」世界であることは断固として変わらず、その土壌に乗っている限りは、「脱がない人」は「挑戦しない人」としてすり替えられる。

当事者ではない中での推測で申し訳ないけれど、そのじりじりと選択を迫られるような恐怖は、私の現在の職業下で体験してきたものととても似ている気がする。笑顔で素直に肌をより多く晒すことが「天使」になる条件とされるが、それは交換可能な「天使」で、翌月くらいになると別のモデルがその役割を担っているという光景を、何度も何度も私たちは見てきた。

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美しくあることは、自らの意思で選ぶことで、誰かに選ばされることではない

私は人よりも美容や健康に疎いほうだということを自覚しているけれど、それでも肉体の見栄えや美醜で商売をしている自覚がほんの少しはあるので、人並みに見た目に気を遣ったり、太ってきたと感じたら地味に身体を絞ったりすることはある。そのことをブログに書くと、後日他人から「きれいになろうと努力している女性は偉いね」といった意味合いの感想を言われた。それは一見何気ない称賛の言葉のようだけれど、なんとも言えない違和感を抱くものだった。

美容や健康に励む理由は人それぞれで、少なくとも私は、「きれいになりたい」という感情から行動をしているわけではない。たまたま、いろいろなことがあって容姿が重要である仕事をしているから、その最低限の責任としてなるべく整えよう、といったくらいの感覚で、どちらかというと仕事があるから風邪をひかないようにちゃんと布団をかけて寝るとか、そういう感じに近かった。もちろんすべてがそういった淡々とした感情で行われているわけではないが、少なくとも、他人から「偉いね」と尊ばれるようなことではないと感じた。

戸田真琴

きれいな女性を好む男性の常套句としての「きれいになろうと努力している女性が好き」という言葉を聞くたびに、悪気がないことはわかっていながらも、胸がぐっと苦しくなる。その言葉からこぼれ落ちるすべての人のこと、そして、いつかこぼれ落ちる自分自身のことを咎められているように感じるからだ。

なにかを称えることが、他のなにかを貶すこととイコールではないことだとわかってはいるけれど、これまで女性たちはあまりにも「きれいであること」や、それをいかに快く消費物として差し出せるかどうかによって価格を査定されるような、そういう感覚に晒され続けてきてしまった。芸能をしていない女性とも、共感をもって通じる話だと思う。美しくあることは、自らの意思で選ぶことで、誰かに選ばされることではない。そんなふうにしていたら値段が下がるよ、と暗に囃し立てられる世界で、「自らの意思」がどこにあったのかもわからなくなることさえ、自己責任なのだろうか。

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番組情報

『Podcast 戸田真琴と飯田エリカの保健室』

毎週月曜日20時に、Apple Podcast、Spotify他で配信中

書籍情報

『人を心から愛したことがないのだと気づいてしまっても』
『人を心から愛したことがないのだと気づいてしまっても』

2020年3月23日(月)発売
著者:戸田真琴
価格:1,650円(税込)
発行:KADOKAWA

『あなたの孤独は美しい』
『あなたの孤独は美しい』

2019年12月12日(木)発売
著者:戸田真琴
価格:1,650円(税込)
発行:竹書房

プロフィール

戸田真琴(とだ まこと)

2016年にSODクリエイトからデビュー。その後、趣味の映画鑑賞をベースにコラム等を執筆、現在はTV Bros.で『肯定のフィロソフィー』を連載中。ミスiD2018、スカパーアダルト放送大賞2019女優賞を受賞。愛称はまこりん。初のエッセイ『あなたの孤独は美しい』を2019年12月に、2020年3月には2冊目の書籍『人を心から愛したことがないのだと気づいてしまっても』を発売した。

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