『ロード・オブ・カオス』が描く、人が特別さに憧れる危険性

『ロード・オブ・カオス』が描く、人が特別さに憧れる危険性

テキスト
小野寺系
編集:矢澤拓(CINRA.NET編集部)

エスカレートしていく犯罪行為。リーダーとして逃げられない状況になり、恐れを抱く

類は友を呼ぶ……。そんな伝説を持って、首都オスロに活動拠点を移したユーロニモスのもとに、新しい仲間、ヴァーグ(エモリー・コーエン)が現れる。彼はユーロニモスに憧れ、キリスト教が自分たちを堕落させているという主張を鵜呑みにして、教会に放火するという事件を起こしてしまう。もちろん、これは重罪であり、自分たちを破滅へと導く愚行である。だが、悪びれないヴァーグに対して、ユーロニモスは文句を言うことができない。教会を燃やすという背徳的な行為は、ユーロニモスの普段の主張に100%沿ったものであり、仲間内での体面を保つためにも、自分自身の気持ちの上でも、「ポーザー」であることを認めたくないという気持ちがあるためだ。

そうこうしているうちに、バンドのメンバーたちは連続放火や、さらなる凶悪事件を起こし、一連の犯行はテロ行為として連日テレビで報道されるような、重大な事態に発展。もはや制御不能となったメンバーたちに、ユーロニモスは内心恐れを抱きながら、「……よくやったぞ!」と声をかけることしかできなくなっていく。そんな彼の消極的な態度を見て、ヴァーグは露骨に軽蔑の眼差しを向け始める。本作は、実際の凶悪犯罪を描きながらも、バンドの中でのユーロニモスの気苦労や、リーダーとしての逃げられない立場を、コメディータッチに表現しているところがある。

©2018 Fox Vice Films Holdings, LLC and VICE Media LLC
©2018 Fox Vice Films Holdings, LLC and VICE Media LLC

その一方で、ノルウェーの教会を燃やすシーンの前後には、荘厳な雰囲気が漂い、いかにもブラックメタルのテイストといった映像が見られる。本作の監督ジョナス・アカーランドも、ブラックメタルバンド、Bathory(バソリー)のドラマーだった人物であり、数々のミュージックビデオを手がけている映像作家だ。だからこそ、ブラックメタルのテイストを正確に表現したり、バンドメンバーの感情を、不必要におどろおどろしく描いたりすることなく、ユーモアを含ませて「現実的に」表現することができるのだろう。

カルト集団や、ネット上の陰謀論者と共通する面も

とはいえ、ヴァーグたちがやっていることは、許されない犯罪であることには変わりがない。かつて日本のカルト宗教団体「オウム真理教」が、弁護士一家を惨殺したり、化学兵器を開発したりして無差別テロ事件を起こした経緯と、このMayhemの一連の事件は重なっていると思える点が少なくない。初めはヨガ教室としてスタートし、サブカルチャーの文脈でユニークな教義が紹介されていた団体が、次第に先鋭化していき、殺人まで犯すような危険な存在にまでなってしまったのだ。

このカルト性は、近年インターネットでその数を増やした、アメリカや日本の陰謀論者などにも共通する部分がある。その意味において、カルト集団の先鋭化の過程を一連の流れで表現した本作は、非常に見応えがある。

そして、本作はユーロニモスという人物の辿った人生や、多くの人々には体験し得ない恐怖や葛藤を、一つの青春として描いているところもある。劇中ではMayhemの曲も多く流れるが、その合間に流れる劇伴を担当しているのが、北欧のアンビエントを含んだポストロックの音響世界が多くの支持を呼んだ、Sigur Rósである。この抒情的で内面的な曲調が、この作品に個人的な感覚を漂わせることに、大きく寄与している。

Sigur Rósの楽曲を聴く(Apple Musicはこちら

「特別な存在」になるための逸脱。自身のアイデンティティを確立するための真理と言えるのかもしれない

Mayhemのメンバーたちにとって、自分を自分以上の存在に引き上げる行為は、異常な行動や犯罪への加担だった。もちろんそれらは、法律に反する限り社会的に許されないことだが、誰もが避けることだからこそ、そこに特別な意味合いが生まれてしまうことも確かである。自分の能力や資質以上に特別な存在として世に名を残そうと過激な行為に身を投じることが一つの手段となってしまう……。

だが、Mayhemたちの行為と異なり、それが法律にも倫理にも反さないことであれば、一つのものに「のめり込む」こと自体は、自分を特別な位置に引き上げる有効な手段となり得る。誰かの真似や、ごっこ遊びのようなものから始まったとしても、「本格」に至ることができる。そのためには、誰も入り込んでいかない領域にまで侵入しなければならないという考え方もまた、真理の一つではないだろうか。本作は、凶悪な事件や個人の葛藤を、痛みとともに克明に表現しながら、多くの人々の人生の課題にも重なる、重要なテーマを描いていたのである。

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作品情報

『ロード・オブ・カオス』
『ロード・オブ・カオス』

2021年3月26日(金)からシネマート新宿、シネマート心斎橋ほかで公開

監督・脚本:ジョナス・アカーランド
脚本:デニース・マグナソン
原作:マイケル・モイニハン、ディードリック・ソーデリンド『ロード・オブ・カオス ブラック・メタルの血塗られた歴史』
音楽:Sigur Rós
出演:
ロリー・カルキン
エモリー・コーエン
ジャック・キルマー
スカイ・フェレイラ
ヴォルター・スカルスガルド
上映時間:117分
配給・宣伝:AMGエンタテインメント、SPACE SHOWER FILMS

書籍情報

『ロード・オブ・カオス ブラック・メタルの血塗られた歴史』

2021年3月24日(水)発売
著者:マイケル・モイニハン、ディーデリック・ソーデリンド
訳者:島田陽子
価格:3,850円(税込)
発行:ele-king books / Pヴァイン

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