『世界で一番しあわせな食堂』が描く、東洋の食文化と北欧の自然

『世界で一番しあわせな食堂』が描く、東洋の食文化と北欧の自然

テキスト
村尾泰郎
編集:久野剛士

大自然の中では、人は人にすぎない。異なる文化背景を持つ人々が過ごす豊かな時間

映画の中盤、チェン親子が辛い過去を引きずってフィンランドにやって来たことがわかる。その過去のせいでチェンとニュニョの親子間には溝が生まれていた。そして、シルカもまた孤独を抱えて生きていた。そんな3人がひとつ屋根の下で暮らすことで、次第に気持ちが解きほぐされていく。チェンとシルカが森の中のダンスホールで生バンドの歌で踊って距離を縮めたり、チェンが地元の男たちと船上で酒盛りをして中国の歌を熱唱したり。料理だけではなく、音楽が人間関係を結びつける役割を果たしているのは、ブラジル音楽に惚れ込んでブラジルに移住したことがあるほど音楽好きのカウリスマキらしいところだ。

『世界で一番しあわせな食堂』場面写真 / ©Marianna Films
『世界で一番しあわせな食堂』場面写真 / ©Marianna Films

「分断」という言葉が声高に叫ばれる世界の片隅で、全く違う文化背景を持った人々が出会い、お互いの文化に触れて、それぞれのよさを受け入れながら癒されていく。その様子を、カウリスマキはゆったりとした時間の流れのなかで描き出した。地元の常連客は老人ばかりだが、ラップランドも日本の地方同様、若者たちが都会に出て過疎化が進んでいるらしい。シルカの食堂は、さまざまな事情を抱えた社会的弱者が身を寄せ合うささやかなユートピアになっていくが、それを脅かすのがチェンのビザの期限が切れることを知った警官たちだ。権力やイデオロギーが人々を分断させる。でも、そんな彼らもラップランドではのんびりしていて、シルカの食堂でチェンの料理を美味しそうに食べている。この物語では雄大な自然の中で登場人物たちが親密に語り合うシーンが度々登場するが、自然を前に肌の色も言葉の違いも関係なく、人は人に過ぎない。そんな堅苦しいことは登場人物の誰も言わないが、彼らの笑顔がそのことを教えてくれるだろう。

『世界で一番しあわせな食堂』場面写真 / ©Marianna Films
『世界で一番しあわせな食堂』場面写真 / ©Marianna Films
『世界で一番しあわせな食堂』予告編

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公開情報

『世界で一番しあわせな食堂』
『世界で一番しあわせな食堂』

2021年2月19日(金)から新宿ピカデリー、渋谷シネクイント 他、全国順次ロードショー

監督:ミカ・カウリスマキ
出演:
アンナ=マイヤ・トゥオッコ
チュー・パック・ホング
カリ・ヴァーナネン
ルーカス・スアン
ヴェサ=マッティ・ロイリ
上映時間:114分
配給:ギャガ
後援:フィンランド大使館
©Marianna Films

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