
小林聡美が語る、肩の力の抜き方。むきだしの自分でいる大切さ
- インタビュー・テキスト
- 榎並紀行(やじろべえ)
- 編集:吉田真也(CINRA)
信頼することで、相手も心を開いてくれる。フィンランドの幸福度が高い理由
―テンコさんの人への接し方って、とても素敵ですよね。突然の来客にもやわらかく、自然な態度で迎えてくれます。
小林:妙に気負ったり、警戒したりしない性格ですよね。いろんなタイプのお客さんが来るので、私だったら「この人大丈夫かな?」と疑ったり、怪しい雰囲気の人だったら追い返したりしてしまう気がしますが(笑)。
―初めてペンションを訪れるお客さんは、いつの間にかテンコさんに心を許し、身の上を語り出します。テンコさんには、相手の心を開かせる不思議な魅力があるように感じました。
小林:自分が人を信頼しているから、相手も心を開くのだと思います。森のなかでペンションをやるって、基本的に他人を信頼していないとできないですよね。きっとテンコさん自身も、これまで人を信頼したり、信頼されたり、そんな人間関係を築いてきたからこそ他人に優しくできるのかなと。
―なるほど。その結果、お互いに心を開ける関係性が築けるのかもしれませんね。
小林:そうですね。あと、以前、フィンランドについて書かれた本で読んだのですが、他人を信頼することって自分自身の幸福度にもつながるそうですよ。たしかに私もフィンランドの人と接するたびに、そんな印象を受けます。
―フィンランドは世界のなかでも特に幸福度が高いことで知られていますが、他人を信頼するという価値観も、その一因かもしれないと。
小林:そう思います。逆に考えると、相手を警戒したり、怯えたり、人に頼み事ができずに結局自分で抱えてしまったりするのは、たしかにストレスにつながりますもんね。
日本人も基本的には優しい性格だと思うんですが、残念なことに物騒な事件も多いから、「そう簡単に人を信じちゃいけない」っていう意識がどこかにある。無防備すぎるのは危険だけど、日々の生活のなかでもう少し他人を信用することができたら、幸福度もちょっと高まるかもしれません。
肩の力を抜いて過ごすコツは、ニュースを見過ぎないこと
―テンコさんは自然体というか、どこか肩の力が抜けているような印象も受けます。演じるうえで意識した点はありますか?
小林:テンコさんは、周囲のいろいろな雑音に惑わされない人なのかなと思います。森のなかで生活していることも影響していると思いますが、心にさざ波を起こさず、つねに静か。だから、どんなときも慌てず、肩の力が抜けているように見えるんじゃないかと。演じるにあたって、そんなことを意識していました。
―小林さん自身は、雑音に惑わされないために心がけていることってありますか?
小林:ニュースを見過ぎないこと、ですかね。私の場合、SNSもほとんど見ません。よく言われることですが、情報を捨てる勇気を持つというか。もちろん情報を知っていると便利なこともあるでしょうけど、知らなくてもそれはそれで別に困らないことも多いし、余計な気を張らずに済む。
もちろん新型コロナの状況や、最低限知っておいたほうが良いことはあるけど、あまり世間の騒ぎに巻き込まれないようにするというのは心掛けています。
―小林さんはご自身のエッセイでも、普段テレビもつけず、「無音状態」で過ごすことが多いと綴っていましたね。
小林:そんなことまで書いていましたか(笑)。最近は、たまに音楽をかけたりしますけどね。それでも毎年、紅白歌合戦を見ると新鮮な気持ちになります。今、日本ではこういう音楽が流行っているんだなーって。
でも、それに対して、無知を恥じることはありません。みんなが知っていることを知らなくても、別に良いんじゃないかな。あとから聞いて「え! そうなの!?」とびっくりするのも楽しいですし。
番組情報
- WOWOWオリジナルドラマ
『ペンションメッツァ』 -
WOWOWオンデマンドにて全話配信中。
脚本・監督:松本佳奈
音楽:渡辺シュンスケ(Schroeder-Headz)
出演:小林聡美
役所広司
石橋静河
ベンガル
板谷由夏
山中崇
光石研
三浦透子
もたいまさこ
プロフィール
- 小林聡美(こばやし さとみ)
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1965年生まれ。東京都出身。1982年に出演した映画『転校生』で初主演を飾る。ドラマや映画などで女優として活躍する一方で、著書も多数出版。著書には『読まされ図書室』『散歩』『聡乃学習』などがある。映画の主な出演作は、『かもめ食堂』 『めがね』『ガマの油』『プール』『マザーウォーター』『東京オアシス』『紙の月』など。テレビドラマの主な出演作は、『やっぱり猫が好き』『すいか』『パンとスープとネコ日和』など。2021年1月15日からスタートしたWOWOWオリジナルドラマ『ペンションメッツァ』では、主人公のテンコ役として出演。