戸田真琴が振り返る2020年。何もできなくてもあなたの命は美しい

戸田真琴が振り返る2020年。何もできなくてもあなたの命は美しい

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戸田真琴
撮影・編集:石澤萌(CINRA.NET編集部)

未来が見えず、何かに打ち込む元気なかった。まるで、退屈な地獄にいるような日々を過ごして

私も、2020年はこれまで以上に「生産性の低い」日々を過ごしてきてしまいました。当たり前のように、自分に対して「何かを残さなければ生きている意味がない」と考えてしまっている私にとって、「時間はあるのに何もできない」日々はまるで明るく退屈な地獄のようなものでした。

日常から、インスピレーションが消えていく。精神的な余裕や自信がだんだんと萎んでいき、不安定な情勢の中何かを賭けに出ることにも尻込みしてしまう。この状況下で勇気を持ってうまく作品作りに没頭できる人もたくさんいる中で、自分は、いつまでも色々なことが不安で仕方なく、何かに打ち込む元気がない。

戸田真琴

そんな気持ちを抱えたままこの2020年を終わらせてしまうであろう自分を危惧しながら、せめて身体を暖めよう、と肩まで浸かった湯船の中で、ゆらゆらと揺れ続ける水面を見ていると、不思議とどこか心が落ち着いてくる感覚がありました。今のこの、未来というものが霞みがかってよく見えない感じ、そして自分という人間の無力さと不安定さに打ちひしがれている感覚がどこか懐かしく思えたのです。

これは、思春期に似ている。そう思いました。そして、一度は大人になった私たちには、その感覚が視野の狭くなっているとき特有の感覚であることも、もう知っていました。

「何に救われたか」をわかっていること自体が、あなたの輪郭を象るに十分な達成なのだと思います

きっと何事も、追い立てられるようにするのがベストであることなど、あまりないのだと思います。私たちはとても不安定な中で、それでも大人ぶっていなくてはなりませんでした。大人であるということは、平然と前に歩き続けるようなことだと思う人も多かったのかもしれませんが、それでもあえて気がついたのは、「前へ前へと進むことよりも、自分の命を愛せる速度で歩くことの方が大切なときもある」という事実でした。

何者かに追い立てられ、「人としてこうでなければ」という見えない焦りに震えるほどに、私たちは自分の命を愛することよりも大切なことがあるように感じてしまいます。だけれどきっと、もっと命自体が絶え間なく揺れ続けていることを、ただ眺めるような時間が必要なのかもしれません。

随分と寒い冬になりましたが、私はこの季節の中に、好きな景色がたくさんあります。小高い丘一面に生えたススキが黄金色に揺れること。どっさりと降り積もる雪が滑り落ちる瞬間に、深緑色の針葉樹の枝をたわんと揺らしていくこと。自然の中で、根元の方だけは折れてしまわないままに、しなやかに揺れ動くものはどれも美しいです。私たちの心が外的要因に翻弄されて揺れ動きながら生き続けるのも、本当は、それ自体がしなやかに強くあるからなのかもしれない、と思うとすこし自分の命を美しく思えるでしょうか。

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それは同様に、何かを生み出したいと思う人にとっては、何も生み出すことができない期間のことも大切に思っていい、自分のことを幸福だと思っていてもいい、ということなのかもしれません。

この世界には、たくさんの素敵な人がいます。人に何かを分け与えたり、何かを整頓したり、何かを増幅させたりして各々のお仕事をしていく姿は、自分とまた違う範囲を受け持っているからこそ、そのまま希望に映ります。そんな中で、2020年もさまざまなものにすこしずつ、すこしずつ、救ってもらいながら生き延びてきました。たくさんの素晴らしい本や映画や芸術、真摯に作りあげられたオンラインライブ、気をつけながら久しぶりに会う友達の心地よい温度。窓を開けた時の風、テレビの中から幸せを届けようとするタレントやアイドル。

相互関係にあっても、一方向から愛を受け取る形でも、この大変だった1年に、たくさんのものたちがあなたを守ってくれました。「何に救われたか」をわかっていること自体が、あなたの輪郭を象るに十分な達成なのだと思います。

目を閉じて、これまで自分の心を救ってくれた、喜ばせてくれた、退屈から一時的にでも逃がしてくれたたくさんのものたちを、1粒ずつの光にして浮かべてみてください。そうしてできあがった過去の星空に、あなたの居る場所の本当の優しい姿がきっと記されています。今日まで何もできずに生き延びた記憶さえも、これから前進していくための、お守りのようなものとして機能していくのではないかと思います。

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配信情報

『Podcast 戸田真琴と飯田エリカの保健室』

毎週月曜日20時に、Apple Podcast、Spotify他で配信中

書籍情報

『人を心から愛したことがないのだと気づいてしまっても』
『人を心から愛したことがないのだと気づいてしまっても』

2020年3月23日(月)発売
著者:戸田真琴
価格:1,650円(税込)
発行:KADOKAWA

『あなたの孤独は美しい』
『あなたの孤独は美しい』

2019年12月12日(木)発売
著者:戸田真琴
価格:1,650円(税込)
発行:竹書房

プロフィール

戸田真琴(とだ まこと)

2016年にSODクリエイトからデビュー。その後、趣味の映画鑑賞をベースにコラム等を執筆、現在はTV Bros.で『肯定のフィロソフィー』を連載中。ミスiD2018、スカパーアダルト放送大賞2019女優賞を受賞。愛称はまこりん。初のエッセイ『あなたの孤独は美しい』を2019年12月に、2020年3月には2冊目の書籍『人を心から愛したことがないのだと気づいてしまっても』を発売した。

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