ノルウェー・ベルゲン出身の19歳、パブロ・ムニョスのプロジェクト、BOY PABLO。彼が去年、YouTubeにアップした楽曲“Everytime”のミュージックビデオは、2018年12月現在、再生数が1500万回を超えるという大ヒットを記録している。地元の海辺で、眩しそうな表情を浮かべながら仲間たちと楽器を演奏するパブロ。そうした光景を、淡々と、でもどこかシュールに映し出すその映像には、わかりやすい目新しさがあるわけではない。しかしながらこのビデオは、その美しいメロディーと、満たされないリレーションシップが描かれた歌詞とともに、世界中に拡散された。素朴な、懐かしさすら感じさせるこの映像には、優れたポップミュージックが持ちうる「3分間の魔法」が、たしかにあったのだ。
今年11月、初めての来日公演を行ったBOY PABLO。そこで、パブロ・ムニョスに直接話を聞く貴重な機会を得ることができた。今年は北米やヨーロッパもツアーで回り、パリで行われた『Pitchfork Music Festival』にも出演したパブロだが、世界を魅了する彼のバックグラウンドを紐解いてみた。
「いい人生を送っているけど、なんだか寂しい」みたいな感覚を抱くことは、人間にはよくあることだと思う。
―去年、公開された“Everytime”のミュージックビデオは、もう1500万回を超える再生数を記録していますね。ご自身の楽曲が、こうやってインターネットを通して世界中の人々に受け入れられているという現状を、パブロさんはどのように受け止めていますか?
パブロ:クレイジーだよ。曲が出た当初はあまりパッとしなかったけど、そのあと、YouTubeにビデオをアップしたら一気に爆発したんだ。現実を超越しているような感じだね。すごく感謝しているよ。
―“Everytime”で歌われているのは、相手のことも、そして自分のことすら見えなくなってしまう、インターネットを介した不完全なコミュニケーションの在り様なのではないかと僕は思ったんです。だからこそ、この曲がインターネットを通して多くの人々に受け入れられたことは、とても印象的で。
パブロ:たしかに! 面白いよね。
―実際、“Everytime”の歌詞はネット上でのコミュニケーションがモチーフになっている?
パブロ:まぁ、そんな感じだね。インターネット上ではいろんな人と話すし、インターネットで出会った人に恋に落ちる人たちもいるけど、スクリーンの向こう側にいる人の本当の姿はわからないからね。だけど、この曲で歌われていることは、決してネット上だけのことではなくて、一般的な恋愛の話でもあると思う。自分で歌詞を書くときは、できるだけ多くのことに関連づけられるような書き方を心がけているんだ。
―なるほど。“Everytime”だけでなく、今年リリースされたEP『Soy Pablo』に収録された曲の多くも、自分の気持ちが他の誰かに伝わらないことから生まれる孤独感や喪失感が歌われているように感じたんです。なぜ、パブロさんの書く歌詞には、このようなフィーリングが刻まれるのだと思いますか?
パブロ:うーん……自分では、あまりわからないな。ただ「孤独感」というのは、自分が共感できるフィーリングなんだと思う。
パブロ:だって、友だちがたくさんいたって孤独を感じることはあるからね。でも、孤独になることって、そんなに悪いことじゃないと思うよ。たまには孤独を感じるのもいいことだと思う。「いい人生を送っているけど、なんだか寂しい」みたいな感覚を抱くことは、人間にはよくあることだと思うし。
―たしかに、そうですね。
パブロ:でも、曲作りという点においては、僕は、悲しい曲は作らないようにしているんだ。ハッピーなインストゥルメンタルを作りたいんだよね。
パブロ:音楽は魂に語りかけてくるものだから、ネガティヴな音楽を聴いて、悲しくなったり、落ち込んだりするのって、すごく容易なことだと思うんだ。だからこそ僕の曲は、いくら孤独について歌っていても、曲自体はアップビートだったりする。人を簡単に憂鬱にしてしまうような曲は作りたくないんだ。その辺は、曲を作るうえですごく意識しているね。
(北欧は)あまりに雨が多いし、夜も長い。だからこそ、音楽はそういう気候をやり過ごすための手段なのかも。
―『NME』のインタビューでは、「自分にとって、曲を書くことはセラピーのようなものかもしれない」と語っていましたよね。
パブロ:うん、そうだね。メロディーが頭に浮かんで、それを形にしたりプレイできないでいると、イライラすることがあったりして。みんなそれぞれ、いろんな気持ちを抱えていると思うけど、僕は自分の気持ちを、音楽を通じて外に出しているんだと思う。
―では、これまでリリースされた2作のEP『Roy Pablo』と『Soy Pablo』、それぞれの作品には、どんな自分が刻まれていると思いますか?
パブロ:そうだね……どちらも似ている作品ではあると思うんだよね。まぁ、完成度的に言うと『Roy Pablo』は人生初のEPでもあったから、いい意味で不完全だったと思うんだけど。
『Soy Pablo』では曲への取り組み方やプロダクション面で、1st EPから学んだことを活かせたから、完成度は高くなっていると思う。でも、どちらも恋愛について書いているっていう点では共通しているね。僕の歌詞には言葉以上の意味が隠れていることもあるけど、でも、できるだけストレートなラヴソングを書くようにしているんだ。
BOY PABLO『Roy Pablo』を聴く(Apple Musicはこちら)BOY PABLO『Soy Pablo』を聴く(Apple Musicはこちら)
―パブロさんの出身地であるノルウェーのベルゲンは、雨が多い街だそうですね?
パブロ:うん、ものすごく雨が多いよ。
―そもそもスカンジナビアの音楽って、ダークなものだという印象があるんですよね。メタルのイメージも強かったりしますし。
パブロ:うん(笑)。
―でもパブロさんの音楽は、そういうのとはまったく違う。先ほども話していただいたように、どれだけ孤独や喪失を歌おうとも、曲自体はとても明るく、多幸感をともなった質感を持っている。そこはやはり、すごく特別な部分のような気もするんですよね。
パブロ:そうだな……やっぱり、そういう土地的な部分での反動もあるんだろうな。あまりに雨が多いし、夜も長い。だからこそ、音楽はそういう気候をやり過ごすための手段なのかも。ねえ、Young Dreamsというバンドを知ってる?
―いや、知らないです。
パブロ:チェックすべきだよ。同郷のバンドなんだけど、そのバンドのメンバーに、僕たちのEPのミキシングに参加してもらっていてね。マティアス・テレスという人なんだけど、彼も以前、「自分がハッピーな音楽を作るのは、もしかしたら気候への反動なのかも知れない」なんて話をしていたんだよね。
―“Everytime”のビデオにも、ベルゲンが少し出てきますよね。
パブロ:うん。正確には、ベルゲン郊外だけどね。とても綺麗なところだよ。僕が通っていたハイスクールがあるところなんだ。
(ベルゲンには)アフリカ音楽だけをプレイするライブハウスもあるんだ。すごくクールなことだと思うよ。
―ご両親はチリの出身ということですが、ベルゲンには外国出身の人は多いんでしょうか?
パブロ:たくさんいるよ。僕の両親は1980年代からベルゲンに住んでいるんだけど、多いのはインド、スリランカ、南米、中近東……ベルゲンはまさに「人種の坩堝」だよ。
―となると、ノルウェーの音楽もマルチカルチャーになっているのでは?
パブロ:うん。たとえば、アフリカ音楽だけをプレイするライブハウスもあるんだ。南米音楽だけがかかっているクラブとかね。すごくクールなことだと思うよ。
―ヒットチャートにもその影響は表れているのでしょうか?
パブロ:いや、チャートはノルウェーのポップミュージックが主だね。ロックも人気だけど、やっぱりポップスかな。最近は特に、SigridやAURORAというアーティストが人気だね。僕は、Sigridの音楽はけっこう好きなんだ。ラジオ向きのポップスっていう感じだけど、クールだと思う。あとは、ポスト・マローンとかカニエ・ウェストのような外国の音楽が人気かな。
―パブロさんの音楽にも、そうした欧米のポップスの影響はあると思いますか? 最近は特にヒップホップなんかが人気ですけど。
パブロ:うん、そういう音楽も好きでよく聴くよ。僕は、あらゆる音楽からインスピレーションを得ていると思う。
―語学的にはどうでしょう? パブロさんの曲は基本的に英語で歌詞が書かれていますし、今も英語で話してくださっていますけど、恐らく、普段使う言葉は違いますよね?
パブロ:そうだね。英語は第三言語で、第一言語がノルウェー語かな。その次がスペイン語。言いたいことを言うのは、ノルウェー語が、一番自分らしい気がする。だから、こうやって英語で自分の音楽について説明するのも、実はちょっと難しい部分もあるんだけど……。
―そうなんですね。そういった前提があったうえで、歌詞を英語で書かれているのはなぜなのでしょう?
パブロ:僕は英語の曲しか聴かないから、そっちのほうが自然なんだ。それにノルウェー語で歌詞を書くのは苦手だしね(笑)。すごく難しいんだ。ノルウェー語にすると、なんか変なんだよね(笑)。ノルウェー語で、クールな感じで歌詞を書きたかったら、詩人に近い言葉選びが必要になってくるんだよね。
The BeatlesやRamonesなんて、家族が教えてくれなきゃ、自分じゃ発見できないしね(笑)。
―そもそも、パブロさんが音楽を作りはじめたきっかけは、どのようなものだったのでしょうか?
パブロ:僕の家族はみんな音楽が大好きなんだ。だから僕もすごく幼い頃から音楽に夢中だったんだよね。僕が4歳か5歳くらいの頃に、姉貴がThe BeatlesのCDを買ってきて。それを聴いて、一瞬で惚れ込んだんだ。
それからYouTubeで、The Beatlesのライブ風景やスタジオ風景なんかを見漁って、夢中になっていった。バンドに興味を持ったのもそれがきっかけだったね。かなり幼い頃からThe Beatlesのような昔の音楽を聴いていたし、それにRamonesなんかも聴いていたよ。あと、僕の父や兄貴も楽器を演奏できるから、自分も音楽をやるようになったのは自然な流れだったね。
―ご家族も曲を作るんですか?
パブロ:うん。最近は作っていないけど、父も以前はたくさんの音楽を作っていたよ。それに、兄貴たちはノルウェーで自分のプロジェクトを持っている。一番上の兄貴は典型的なラジオ向けのポップミュージックを作っていて、もうひとりの兄貴はエクスペリメンタルなハードコアパンクをやっている。まったく違う2つの世界なんだけど(笑)。ちなみに僕の作品のレコーディングでは、義理の兄がいろいろ手伝ってくれているんだ。
―義理のお兄さんですか。
パブロ:うん、姉の夫なんだ。彼は、曲作りはしていないけど、ミキシングとかマスタリングとか、スタジオでの作業が好きなんだよね。それでいろいろ手伝ってくれているんだ。
―本当に、音楽にどっぷり浸かったご家族のなかで育ったんですね。幼少期~学生時代のパブロさんは、どんな少年でしたか?
パブロ:僕は4人兄弟の末っ子なんだ。すぐ上の兄貴とは9歳離れている。一番上とは13歳、次とは12歳、それから9歳違い。すごく甘やかされたガキだったと思うよ(笑)。
いつも兄貴や、その友だちと遊んでいたんだ。すごく大事にされて育ってきたし、今も大事にされている。家族がとても気にかけてくれて、いつも感謝しているんだ。それに、The BeatlesやRamonesなんて、家族が教えてくれなきゃ、自分じゃ発見できないしね(笑)。
―でも、今はサブスクリプションサービスも発達していて、音楽に出会えるツールはたくさんありますよね。そうしたツールは利用されてきませんでした?
パブロ:もちろん、Spotifyをチェックして、「関連するアーティスト」を聴いてみたりもするよ。それで「あぁ、これはクールだな」なんて思ったりして。以前は、1日1時間とか決まった時間を作って、そうやって音楽を発掘していたんだ。でも、今でも姉貴や義理の兄貴がすごく音楽を聴くから、貸してもらって聴くこともあるけどね。
―曲を作りはじめた頃は、たとえば「有名になりたい」みたいな目標はありましたか?
パブロ:やっぱりThe Beatlesが好きだったし、「大勢の人の前でプレイしたいな」とは、子どもの頃からずっと夢見ていたけどね。バンドを作って、他人と音楽を作りたいと思っていたんだ。でも結局、一緒に作る相手が見つからなくて、ひとりで作ることになったんだけど(笑)。
そうやって作りはじめた音楽が、こんなに知られることになろうとは思ってもみなかったよ。今は、夢が叶ったようなものだよね。16~17歳で曲を作っていたときは、大勢の前で演奏するなんて、現実離れした話だと思っていたな。
- リリース情報
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- BOY PABLO
『Soy Pablo』(CD) -
2018年12月5日(水)発売
価格:1,620円(税込)
OTCD-65791. Feeling Lonely / フィーリング・ロンリー
2. wtf / wtf
3. Sick Feeling / シック・フィーリング
4. t-shirt / Tシャート
5.Limitado / リミタド
6.Losing You / ルージング・ユー
7. tkm / tkm
- BOY PABLO
- プロフィール
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- Boy Pablo (ぼーい ぱぶろ)
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Boy Pabloはノルウェーのベルゲン出身のシンガーソングライター、Pablo Muñozのプロジェクトだ。現在19才のPablo Muñozはチリ人の両親のもと、1999年に生まれた。10才の頃から兄の影響で音楽に興味を持ち始め、2015年12月、Boy Pabloとしての活動を開始。2016年2月にシングル「Flowers」、同年6月にシングル「Beach House」をリリース。ノルウェーのフェスティヴァルにも出演し、注目を浴びるようになる。2017年5月、まだ高校生であった前年に制作した6曲入りEP『Roy Pablo』をリリース(2018年8月に日本のみでCD化)。同EPに収録された「Everytime」のビデオが大きな注目を浴び、YouTubeで1200万回のヴューを獲得する(2018年9月現在)。2018年3月にはシングル「Losing You」をリリース。「ノルウェーからの素晴らしいインディ・ロック」とPitchforkで絶賛される。また同年の3月から4月にかけ、ヨーロッパをツアー。初めてノルウェー以外の国でライヴを行う。2018年夏の全米ツアーも成功をおさめ、10月にはUKツアーを実施。11月にはパリで行われるPitchfork Music Festivalにも出演し、その後、初来日公演も実施した。