手話という表現の世界。NHK手話ニュース那須英彰が語る

手話という表現の世界。NHK手話ニュース那須英彰が語る

インタビュー・テキスト
村上広大
手話翻訳・動画テキスト翻訳:犬塚直志 写真撮影:上原俊 動画撮影・動画編集:安藤亮 企画・リード文・編集:矢澤拓(CINRA.NET編集部)
2021/01/25
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戦時中からつい最近まで、ろう学校で使用が禁止されていた手話。「聞こえる人」が知らない場所

―子どものころはどんな風に過ごされてきたんですか?

那須:私は2歳でろうになったので、物心がついた頃には手話で話していたんですよ。大人たちの手話を通じていろんな表現を学びました。それから小学校5年生くらいになると、友人たちと手話表現の上手さを競うようなこともしていましたね。ただ、私が通っていたろう学校では手話が禁止されていたので、授業中は先生の目を盗みながら机の下で手を動かして「昨日観た映画、すごく面白かったよ」なんて会話をしていました。

―ろう学校なのに手話を禁止されていたんですか?

那須:昭和8年に国がろう学校に、手話を禁止する訓示を出しました。学校を卒業したら一般社会に出るわけじゃないですか。だから、手話を使わないで意思疎通を取れるようにしろって言われていたんです。その方針に反いて学校で手話を使うと、手を叩かれたり、バケツを持って廊下に立たされたりしました。

那須英彰

那須:とはいえ、私のように生まれてすぐにろう者になった人間には唇の動きから言葉を推測することってすごく難しいんですよね。だから、隠れて手話を使っていました。ただ、帰りの電車やバスに先生たちが同乗していることがあったのですが、そのときは手話を使っても怒られなかったので、先生たちも上から指示されていたのかなと思います。

―今はその状況から変わってきているんですか?

那須:詳細はわからないのですが、今はだいぶ改善されていると思います。手話を認めているろう学校も増えてきているのではないでしょうか。

現在日本では、2011年8月に成立した「改正障害者基本法」により、「全て障害者は、可能な限り、言語(手話を含む。)その他の意思疎通のための手段についての選択の機会が確保される」と定められている。しかし、「可能な限り」とされているため、手話への理解はまだまだ浸透していない状況ではないだろうか。

バイリンガルろう教育の必要性。日本語に接しているから聞こえなくても理解できる、というものでもない

―「FIKA」は北欧の文化を発信しているメディアなのですが、スウェーデンは手話と書記言語のふたつを習得させる「バイリンガルろう教育」の先進国でもあるんですね。そういう教育の方がコミュニケーションは取りやすくなるのでしょうか。

那須:年配のろう者の中には、日本語を読むことも書くこともまともにできない人がけっこういます。だから、手話を第一言語として学びながら、日本語を書く練習をするのはすごく良いと思います。特に現在は、パソコンを使えれば日本語が喋れなくてもメールでやりとりできますから。

那須英彰

―第一言語が手話である日本のろう者にとっては、第二言語として日本語を勉強するのと英語を勉強するのは違うものですか?

那須:どうなんでしょう。私が通っていたろう学校では、アメリカ人の生徒と文通ができる取り組みがあったのですが、それが楽しくて熱心に取り組んでいました。でも英語の授業は全然面白くなくて(笑)。だから、家にあった英語で書かれたスポーツ雑誌やメジャーリーグの記事を読んで学びました。写真と文字を照らし合わせながら読んでいると、なんとなく頭に入ってくるんですよ。

憧れの気持ちから第二言語を習得した小学生時代。日本語を学ぶ気になったきっかけ

―自分が興味を持てるかが重要だということでしょうか。

那須:そうですね。もともと私は日本語の読み書きが苦手で、先生が何を喋っているのかわからなかったんですよ。その状況を変える出来事が小学5年生くらいのときにありました。バスの中で出会った女子高校生に女優の岡田奈々さんによく似た人がいて、中学部や高等部の先輩の間で憧れの的だったんですよ。しかもあるとき、乗っていたバスでたまたま居合わせて、窓を息で曇らせて筆談をしたんです。もうそれだけで中学部や高等部の先輩から羨ましがられる状況だったのですが、それがきっかけでその女子高校生と交換日記をすることになりました。

ただ、自分は日本語を書く文章が得意ではなかったので、最初は妹に訳してもらって、それを丸写しで日記に書いていたんですね。でも、妹と喧嘩をしたときにそのことを母親にバラされてしまって、いよいよ自分で日記を書かなければいけなくなってしまったんです。それで意を決して女子高校生にも事実を白状し、それからは本を読んだり、日本語の文章を女子高校生に添削してもらったりしながら日記を書くようになりました。そしたら、自然と国語の点数も伸びていって。そういうきっかけがあると強いですよね。

那須英彰
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プロフィール

那須英彰(なす ひであき)

1967年3月、山形県生まれ。2歳の時に両全ろうとなる。幼い頃から映画と演劇に興味を持ち、大学時代に青森の劇団、後に日本ろう者劇団で計15年間、舞台出演。1995年NHK手話ニュースキャスターに抜擢され、現在NHK Eテレ「手話ニュース845」の毎週金曜日夜8時45分~9時に出演中。著書に「手話が愛の扉をひらいた」、「出会いの扉にありがとう」(写真エッセイ)がある。2006年、カナダのトロント国際ろう映画祭2006で大賞・長編部門最優秀賞受賞した『迂路』という映画に主演。2009年、(財)全日本ろうあ連盟創立60周年記念映画「ゆずり葉」に出演。現在、講演、1人芝居活動中。

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