手話という表現の世界。NHK手話ニュース那須英彰が語る

手話という表現の世界。NHK手話ニュース那須英彰が語る

インタビュー・テキスト
村上広大
手話翻訳・動画テキスト翻訳:犬塚直志 写真撮影:上原俊 動画撮影・動画編集:安藤亮 企画・リード文・編集:矢澤拓(CINRA.NET編集部)
2021/01/25
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たまたま流れていた『NHK手話ニュース845』を見ていて衝撃を受けた。字幕を読んでいないのに、画面に引き込まれる。

その日手話を担当していたのは、2歳の頃に全ろうとなったものの、幼い頃から映画と演劇に興味を持ち、現在も手話を自身の第一言語としてだけでなく、手話を用いた舞台や映画への出演など表現活動も行なう那須英彰。口から言葉を発する以上に、顔が、手が、物語る。

存在は知っているのに、実は「聞こえる」私たち(=聴者)が全く知らない手話の世界について、実際に表現をしてもらいながら教えていただいた。

手話という自由な言語表現。意味や表現は、その人によって異なるもの

那須英彰(なす ひであき)<br>1967年3月、山形県生まれ。2歳の時に両全ろうとなる。幼い頃から映画と演劇に興味を持ち、大学時代に青森の劇団、後に日本ろう者劇団で計15年間、舞台出演。1995年NHK手話ニュースキャスターに抜擢され、NHK Eテレ「手話ニュース845」の毎週金曜日夜8時45分~9時に出演中。著書に『手話が愛の扉をひらいた』『出会いの扉にありがとう』(写真エッセイ)がある。2006年、カナダのトロント国際ろう映画祭2006で大賞・長編部門最優秀賞受賞した『迂路』という映画に主演。現在、講演、1人芝居活動中。
那須英彰(なす ひであき)
1967年3月、山形県生まれ。2歳の時に両全ろうとなる。幼い頃から映画と演劇に興味を持ち、大学時代に青森の劇団、後に日本ろう者劇団で計15年間、舞台出演。1995年NHK手話ニュースキャスターに抜擢され、NHK Eテレ「手話ニュース845」の毎週金曜日夜8時45分~9時に出演中。著書に『手話が愛の扉をひらいた』『出会いの扉にありがとう』(写真エッセイ)がある。2006年、カナダのトロント国際ろう映画祭2006で大賞・長編部門最優秀賞受賞した『迂路』という映画に主演。現在、講演、1人芝居活動中。

―那須さんの手話を拝見して、顔の表情がすごく豊かだなという印象を受けました。「手話」というと、手だけでなく表情も用いて伝えるのでしょうか?

那須:そうですね。もっと言えば、顔だけでコミュニケーションを取ることもできますよ。たとえば満員電車に乗っていて、しかも荷物で両手が塞がっている場合には、「次の駅で降りる」という意思表示を目や口の動きで表現します。

―目や口の動きですか?

那須:「行く」という動詞がありますよね。これを否定する場合には、「行かない」とか「行く必要がない」みたいに2つ3つ単語を並べて表現することになりますが、ろう者の場合は「行く」という手話に加えて、顔の表情でYESかNOの意思を表現できます。つまり、顔の表情には手話の文法があるわけです。みなさんも首を横に振ったら否定のニュアンスが読み取れますよね。

表情も手話の一部
表情も手話の一部

―確かに。手話には上手い下手というものはあるんですか?

那須:世の中には歌が上手い人と下手な人がいるじゃないですか。それは音程の取り方はもちろん、トーンだったり、表現だったり、いろんな要素が合わさって判断されるわけですが、それと同じように手話の世界でも「これはとてもまねできないな」ってこちらが思わされるような表現をする人がいるんです。

那須英彰

―手話は表現がルール化されていると思っていたのですが、想像以上に自由な世界が広がっているんですね。

那須:もちろん、普通に会話をするだけなら、そこまでの表現は求められないんですけどね。ただ、先天性のろう者、つまり私みたいに言語を獲得する前にろう者になった場合、第一言語として、日本語ではなく手話を覚えるので、日本語を第一言語として習得している難聴者や中途失聴者とは感覚が違うと思います。たとえば、これまで見た中でほとんどそうでしたが、手話コーラス(歌詞を手話で表現しながら行なう合唱)なんかは日本語がベースになっているので、曲を聞いたことがない私が見てもよくわからない部分があるんですよ。

―そもそも「ろう者の手話(=日本手話)」と「日本語をベースにした手話(=日本語対応手話)」は異なるということですよね。

那須:ある高齢のろう者が、日本語をベースにした手話ではなく、「日本手話」で“蛍の光”を演じているのを見たことがあるのですが、とても素敵で。それを「日本語対応手話」で表すとなんの感動もなく、せっかくの美しい曲が台無しになってしまうんです。

表現の例ですが、カップルでスキューバダイビングをしているとしますよね。海底を優雅に泳ぎ餌をついばむ魚、カニ、水面で揺れる光。そして海面に出ると、沈む夕日が辺り一面を照らし出す。夕日に消えていく海鳥に視線を向けた後、互いに見つめ合い口づけする。こういう情景描写は「日本手話」独自のものなので、日本語をベースにした手話ではおそらく表現できないと思うんです。

手で表現する「スキューバダイビング」の映像的情景描写。本文で語っている、スキューバダイビング中の魚、カニ、水面や夕日を表現している。(撮影:矢澤拓)

那須:日本語を読んで手話に変換するのは翻訳としての作業なので、プロじゃないとなかなかできません。それに、同じことを手話で表現するにしても、私と他のろう者では表現が異なります。だから、手話には話す人によってそれぞれの独特の表現があることを知ってほしいですね。

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プロフィール

那須英彰(なす ひであき)

1967年3月、山形県生まれ。2歳の時に両全ろうとなる。幼い頃から映画と演劇に興味を持ち、大学時代に青森の劇団、後に日本ろう者劇団で計15年間、舞台出演。1995年NHK手話ニュースキャスターに抜擢され、現在NHK Eテレ「手話ニュース845」の毎週金曜日夜8時45分~9時に出演中。著書に「手話が愛の扉をひらいた」、「出会いの扉にありがとう」(写真エッセイ)がある。2006年、カナダのトロント国際ろう映画祭2006で大賞・長編部門最優秀賞受賞した『迂路』という映画に主演。2009年、(財)全日本ろうあ連盟創立60周年記念映画「ゆずり葉」に出演。現在、講演、1人芝居活動中。

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