才能に負け続けたパンサー向井慧 不向きな世界での戦い方を語る

才能に負け続けたパンサー向井慧 不向きな世界での戦い方を語る

インタビュー・テキスト
宇治田エリ
撮影:大畑陽子 編集:青柳麗野(CINRA)

「自意識が強制的に芽生えた」。松本人志『遺書』が芸人人生に与えた影響

―向井さんは、いつ頃から悩みやすさや繊細さを抱えるようになったのでしょうか?

向井:僕は小学校6年生くらいから「お笑い芸人になりたい」と思っていて、中学生まではクラスのひょうきん者みたいな感じだったんです。でも高校生のときに松本人志さんの著書『遺書』を読んで、そこに「明るい奴は売れない」「暗いやつこそ本当に面白い」って書かれていて、「じゃあ売れないじゃん、俺」ってショックを受けて。

急に見られ方が気になるようになって、明るいと思われないような言動に変えてみたり。そこで自意識みたいなのが強制的に芽生えちゃった。けっこう衝撃的な体験で、いまの自分のスタートはそこからだと思いますね。

―『遺書』の衝撃を経てNSC(吉本興業の養成所)に入所したんですね。

向井:そうですね。「お笑い芸人として、テレビに出て売れるにはどうしたらいいんだろう」って、ずっと考えてきて、逆にお笑い以外の道を考えたことがないんです。それでNSCに入ったときに、同期のチョコプラやシソンヌのネタや一発ギャグを見て、「本当に面白い奴らって、こんなに面白いんだ。じゃあ無理じゃん」って才能の差に気づいて愕然としました。はじめはボケをやりたいと思っていたけれど、それじゃ戦えない。

でも絶対にお笑いの世界にいたいと思ったし、この仕事以外は考えられなくて。やめる勇気もなかったんでしょうね。だから、努力でなんとかなりそうなツッコミをやるしかないな、と。みっともないけど、それくらいこの世界にしがみつきたかったんです。

向井慧

―その後、ボケをやりたいと思うことはありますか?

向井:それはないですね。早々に打ちのめされたので。

―笑いの才能がある人たちと向井さんのあいだで、どんな差があったのでしょうか?

向井:スポーツ選手で言ったら、筋肉のバネとか骨格とか、そもそもの身体能力のポテンシャルが違うっていうのがあると思うんですけど、お笑いも同じ。本当に面白いと思うことを全力で表現してきた人たちと違って、僕は座学でお笑いをやっちゃっていたから、そういう人たちには絶対に勝てない。僕のお笑い論で言うと「面白い人こそ最強」なんです。だからそれのお手伝いならできるかもしれないという視点に切り替わりました。

―ボケを諦めてツッコミになったとはいえ、自信を持ってステージに立たないといけない世界。そのためにどのようなアプローチをしたのでしょうか?

向井:ツッコミにも、例えツッコミをする人や、いじられるツッコミをする人とかいろいろなタイプがいるんですけど、先輩であるピースの又吉さんから「自由でいいけど、向井の場合は『こいつにボケたいな』と思われるようなツッコミになりなさい」と言われたんですよ。

ボケの人がボケて笑いが1になり、そこに例えツッコミという笑いを1つ入れて「笑いの総数」を2にすることもできる。けれど、ボケの人がいつもの1.5倍とか2倍の笑いを出せるようなツッコミができたら、笑いの総数は変わらないですよね。僕の場合は前者ができないので、後者のほうが向いているのかなと。

同時にそれは、ボケの人に最大のリスペクトがあるからなんです。だからボケに張り合ってやろうという気持ちは全くないですね。それはパンサーだけでなく、どこに行っても、相手が誰でも同じことです。

向井慧

―お笑いをやっていて、どんなときにやりがいを感じますか?

向井:もちろん笑いを引き出せたときですけど、結局お笑いの世界の面白い人と仕事ができることこそ、なによりのやりがいなんですよ。面白い人が大好きで、尊敬しかない。だから本当に自分が面白いと思う人たちから、裏で「良かったよ」とか「お前のおかげだよ」と言ってもらえていたから頑張れた。

―先輩から褒められても、謙遜している向井さんをよく見かけます。ここまでの活躍があれば、もう少し自信を持てそうなのに。

向井:僕の場合、才能に負け続けて、道をそれては進んでを繰り返した結果ここにたどり着いているので、謙遜ではなくて本当に心から思っています。自分がやっていることは誰にでもできることなんだと。

でも運だけは強いと思っています。出会った人、声をかけてくれる人たちに本当に恵まれている。あとはお笑いが異常に好き。それが向いていないと思っていても、お笑い芸人を続けられている理由なのかなと。

―ツッコミとして活動するなかで、自分の強みはどこにあると思いますか?

向井:ツッコミの世界は、それはそれでとんでもない人がいて、フットの後藤さんとか南海キャンディーズの山里さんとか「どういう思考回路なんだろう?」と不思議に思うくらいポンポン新しいワードとか例えが出てくる。努力していても、そんな方達にはとても勝てない。だからなんとか自分ができる範囲で戦える状態に持っていかなきゃなと思います。

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プロフィール

向井慧(むかい さとし)

1985年12月16日生まれ、愛知県出身。2005年にNSCに入校。2008年に菅良太郎と尾形貴弘とともに「パンサー」を結成。舞台やバラエティー番組を中心に活躍中。現在は『王様のブランチ』(TBS)、『潜在能力テスト』(CX)、『#むかいの喋り方』(CBCラジオ)などに出演中。

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