楽天の異端者。仲山進也は、組織のレールを外れても楽しく働く

楽天の異端者。仲山進也は、組織のレールを外れても楽しく働く

テキスト
唐川靖弘
写真:高橋直貴 編集:木村健太

楽しそうに、うろうろと歩き回る人材がイノベーションには不可欠

うろうろアリ・インキュベーターの唐川靖弘です。

アリの世界では、うろうろと歩き回ることで新しい餌場を見つけるアリが、巣の繁栄と存続の鍵を握っています。同じように人間の世界でも、変化のスピードと不確実性が増す現代においては「うろうろアリ」(Playful Ant)の存在が不可欠なのではないかと僕は考えています。

目標に向かって直線的に効率良く進むのではなく、内面から湧き出る「何か」に突き動かされ、楽しげに歩き回る。歩き回ることで得たさまざまな気づきを自らの中で熟成し、外の世界とつなげることで、新たな価値を創りあげていく。社会に変革をもたらすイノベーションをリードするのは、こんな「うろうろアリ」たちではないでしょうか。

北欧の「クラフトマンシップ×最先端技術」をテーマにしたウェブマガジン「Fika」でお送りする本コラム。「うろうろアリ」が体現する最先端の働き方に迫るインタビューの2回目ゲストは仲山進也さんです。

仲山さんは、設立間もない楽天に1999年より参画。楽天市場出店者が互いに学び合う場を提供する「楽天大学」を立ち上げ、学長を務めています。一方で、楽天社内でたった一人の、「兼業も勤怠も自由な正社員」という立場である仲山さんは、2008年に自身の会社「仲山考材」を設立。公私の境を軽やかに越え、幅広く活躍し続けています。

いまや、世界中に1万人以上の社員を抱える大企業となった「楽天」。その組織の一員でありながら、うろうろアリ的な最先端の働き方をかたちにしている仲山さんの歩みをうかがっていきたいと思います。

楽天が社員20人の時代から、ずっと「出店者と遊ぶ係」をやっていた

—仲山さんは、楽天でただ一人、兼業と出退勤自由な働き方が認められた正社員として活躍されています。大企業において、そういった特例が認められるというのは極めてレアなことだと思うのですが、どのような経緯で現在のポジションに辿り着かれたのでしょうか?

仲山進也(以下、仲山):楽天に入社して以来19年間、僕は楽天市場に出店している中小企業の経営者や店長さんたちと「遊ぶ係」をやってきました。

─遊ぶ係?

仲山:講座や合宿を企画して、みんなでどうすれば良い商売ができるか、良い会社ができるかを一緒に考える係です。それを一貫してやり続けてきただけなんですけど、そのうちに組織における自分の位置づけの方が変わっていった感じです。

仲山進也(楽天株式会社楽天大学学長 / 仲山考材株式会社代表取締役)
仲山進也(楽天株式会社楽天大学学長 / 仲山考材株式会社代表取締役)

—「自分」が変わるのではなく、「自分の位置づけ」が変わっていくとは、どういうことでしょうか?

仲山:就職してからの「組織における居場所」の変遷をお話ししてみます。

組織におけるポジションの変還の図

新卒で大手家電メーカーに入社して、本部長室という経営企画の部署に配属になったのですが、会社の規模が大きすぎて全体像がわからずモヤモヤしていました。お客さんとの接点もなく、お客さんの姿を想像することすらありませんでした。そんななかで、楽天と縁があり、「小さくて面白そう」と思って1999年に転職しました。

当時の楽天は創業2年目、社員数は20人で、部署も未分化、出店店舗さんからかかってくる電話を全員で取って対応していた時代です。ほどなく現場も全体像も把握できて、仕事が楽しいと思えるようになりました。

—小さい会社ならではの充実感を経験されたのですね。

仲山:激しく忙しくて、毎日夢中でした。そして入社半年後の2000年1月、三木谷さん(三木谷浩史・楽天株式会社代表取締役会長兼社長)の発案で、出店者さん向けの学びの場として楽天大学の立ち上げに携わりました。部署の人数が増えて成り行きでマネジメント業務もやるようになりましたが、マネジメントというものをまったく理解しておらず、うまくいかなくて。上司に相談して「マネージャー白旗宣言」をして、プレイヤーに戻してもらうことになりました。

そこからは部下を持つこともなくお客さんと遊んでいたのですが、どんどん会社が大きくなり、「ちゃんとした組織」っぽくなるにつれて、社内では浮いた感じになっていきました。「窓際」ポジションという感じでしょうか(笑)。全国各地を回って出張講座や合宿をやることなどが増えたことでさらにはみ出して、いつのまにか「出島」みたいになりました。ほとんどの時間を店舗さんと過ごしている状態です。

楽天大学での講座の様子
楽天大学での講座の様子

会社から、特例的な待遇を用意してもらえた理由とは?

仲山:次の転機は、三木谷さんがJリーグのサッカーチーム、ヴィッセル神戸のオーナーになったとき。「サッカー好きです。神戸いきます!」と気軽に発言したら、本当に手伝うことになりました。2004年の1年間は、1週間おきに東京と神戸を往復していて。「出島」から「離島」になった感じです。このインタビューが掲載されるのは北欧がテーマだと伺いましたが、言ってみれば、「ムーミン」に出てくるスナフキンみたいな感じかもしれません(笑)。

—スナフキンですか。自由と孤独を愛する旅人の?

仲山:会社の人たちからすると「あの人どこに行ってるんだっけ?」というのが日常になり、僕がいなくても誰も困らない状態が確立したんです。リモートワークのスタイルも自然とできていきました。その頃から店舗さんと人や組織の問題をテーマに話すことが増えていったのですが、ふと「まわりの人はみんな中小企業の経営者なのに、自分だけサラリーマン」という状態に違和感を覚えて、自分でも経営者をやってみたいと思うようになりました。そう会社に伝えたところ、2008年に、兼業自由・勤怠自由の正社員という契約形態になりました。これは制度があるわけではなくて、イレギュラーです。

Page 1
次へ

書籍情報

『組織にいながら、自由に働く。仕事の不安が「夢中」に変わる「加減乗除(+−×÷)の法則」』
『組織にいながら、自由に働く。仕事の不安が「夢中」に変わる「加減乗除(+−×÷)の法則」』

著者:仲山進也
価格:1,620円(税込)
発行:日本能率協会マネジメントセンター

プロフィール

仲山進也(なかやま しんや)

北海道生まれ。慶應義塾大学法学部法律学科卒業。シャープ株式会社を経て、1999年に社員約20名の楽天株式会社へ移籍。2000年に「楽天大学」を設立し、Eコマースのみならず、チームづくりや理念づくりどの講座を提供。2007年に楽天で唯一のフェロー風正社員(兼業自由・勤怠自由の正社員)となり、2008年には仲山考材株式会社を設立。著書に『今いるメンバーで「大金星」を挙げるチームの法則』、『あのお店はなぜ消耗戦を抜け出せたのか』などがある。

唐川靖弘(からかわ やすひろ)

1975年広島県生まれ。外資系企業のコンサルタント、戦略プランニングディレクターを経て、2012年から米国コーネル大学ジョンソン経営大学院 Center for Sustainable Global Enterpriseマネージングディレクターとして、多国籍企業による新規ビジネス開発プロジェクトや新市場開拓プロジェクトをリード。自身のイノベーションファームEdgeBridge LLCを拠点に、企業の戦略顧問や人材育成プログラムディレクター、大学の客員講師としても活動。フランスの経営大学院INSEADにおいて臨床組織心理学を研究中。

連載『イノベーションを生む「うろうろアリ」の働き方』

変化のスピード増す現代において、既存の価値観や会社という枠組みに囚われないない「うろうろアリ」こそがイノベーションをリードする。自由な発想で新たな価値を生み出し続ける彼らの、最先端の働き方を紹介するインタビュー連載です。

Category カテゴリー

Backnumber 過去の記事

What's "Fika" ? フィーカとは

「Fika」はCINRA.NETとVOLVOが送る、北欧カルチャーマガジンです。北欧デザインの思想の基盤を「クラフトマンシップ×最先端技術」と捉え、そこに学びながら、これからのカルチャーやライフスタイルにまつわるコンテンツをお届けします。