近年、日本でアウトドアを楽しむ人が増え、とくにブームとなっているのがキャンプ。一般的には春から秋がベストシーズンだが、コアなキャンパーは「冬キャンプ」を好む人も多いそうだ。寒いなかで過ごすキャンプには、どんな醍醐味があるのだろうか。
冬が長い北欧では、古くから冬キャンプを楽しむ文化もあり、快適に過ごすためのヒントがあるかもしれない。そこで、今回お話をうかがったのは、アパレルブランド「F/CE.®」のデザイナーとして活躍し、インストゥルメンタルバンド「toe」のベーシストでもある山根敏史。デンマーク発のアウトドアブランド「NORDISK(以下、ノルディスク)」の世界初となるコンセプトショップを2店舗運営しており、北欧のアウトドア文化に精通している。また、自身も冬のソロキャンプが大好きだという。
今回は実際にノルディスクの製品を使ってキャンプを楽しみながら、冬のソロキャンプの醍醐味からノルディスクの魅力、さらには北欧と日本のキャンプに対する考え方の違いなどについて教えてもらった。アウトドアをこよなく愛する山根が語る、かっこいいギア(キャンプ道具)にこだわる理由とは?
普段は思いつかないアイデアが湧くことも。あえて「冬のソロキャンプ」を選ぶ理由
―山根さんは、いつからキャンプをするようになったのでしょうか?
山根:もともと小学生のときにボーイスカウトに入っていたので、その頃からよくキャンプをしていたんです。大人になってからは、仲間とキャンプに行くだけではなく、ソロキャンプにも行くようになりました。
でも、子どもができてからは家族でキャンプに行くことも増えましたね。今日は取材ではありますが、久々の冬キャンプを楽しみたいと思っているので、テンション上がっています(笑)。
―キャンプといえば、春から秋にかけて、みんなで楽しく過ごすのが主流のような気もしますが、冬のソロキャンプも楽しいのでしょうか?
山根:個人的には、冬のソロキャンプは大好きです。たしかに外は寒いですが、だからこそ活躍するギアもたくさんあって。熱を外に逃がしにくいコットン生地のテントや、軽くて暖かい羽毛のシュラフなどで、テント内を快適な環境にする楽しみがあります。また、暖かい格好をして外で焚き火をしながら読書をするのも、集中できて最高ですよ。
あと、冬はキャンプ場も混み合っていないから周りも気にならないし、自然のなかで自分と向き合う時間がつくりやすいと思います。日常に疲れていたり、悩んでいたりするときは、ソロキャンプに来てひたすら考え事をすることもあります。基本的にソロキャンプ中はスマートフォンの電源を切って、電話も出ないで過ごしていますね。
―なぜそこまで徹底して「ひとりの環境」をつくるのでしょうか?
山根:ファッションデザイナーという職業柄、街中を歩いていると無意識にいろんなものを観察してしまい、つねにアンテナを張っている状態なんです。テレビとかはあまり観ないのですが、普通に生活しているだけでも、情報過多で疲れちゃうので、意識的に情報をシャットアウトして切り替えることも大事だなと思っていて。そのための手段として、ソロキャンプは最適だと思っています。
ソロキャンプ中はデザインのこと、会社のこと、音楽のことなどを考えたりするのですが、普段は思いつかないようなアイデアが湧いてくることもあります。日常や直近の課題と意識的に距離を置くことで、新たに気づける部分があるのかもしれません。
アウトドアは、なくても死なない。でも、自己満足こそ追求すれば、幸せを得られる
―キャンプをするうえで、いちばんこだわっていることは何ですか?
山根:ギアやスペックの高いアウトドアウェアは、昔から好きですね。せっかくならこだわったものを使いたいと思い、20代後半から本格的にギアやウェアを収集するようになって。キャンプで使えるグッズはもちろん、70年代のヴィンテージのアウトドアウェアなど、とにかく自分が感銘を受けるアウトドア関連のアイテムを集めてきました。
―山根さんが感銘を受けるアイテムの共通点や定義があれば、知りたいです。
山根:もちろん、プロダクトのデザインや佇まいの好き嫌いはありますが、アイテムによってそれぞれ惹かれるポイントも違うので、デザイン性においてのかっこよさは一概に言えません。ただ、しいて挙げるとすれば、「誰かに魅力を伝えたくなるもの」かも。
―自分が感じるかっこよさを、思わず人に伝えたくなると。
山根:はい。アウトドアって、なくても死なないし、こだわらなくても生活は成り立つ。けれど、自己満足なことこそ、マニアックに追求すれば自分の幸せにつながります。そして、その好きなことの魅力を誰かに伝えて、分かち合えた瞬間って最高に幸せだと思うんです。ぼくがやっているファッションブランドも、キャンプも、音楽活動も、そこは一貫して共通していますね。
完成度の高いものが世の中にたくさんあるなかで、なぜそれを選んだのか語れる自分でいたいです。お金と時間を使って、いつまでも好きなことを追求しているおっさんになりたいんですよ。幸せに生きるために何かを諦めるのはいやだし、自分目線で定義づけた「かっこよさ」に信念を持つことの大切さは、子どもにも伝えていきたいです。
100年以上の歴史を持つ、ノルディスクの魅力。ものづくり精神から感じる美学とは
―今回、設営されたテントもかっこいいですね。コンパクトですし、ソロキャンプにちょうど良いサイズ感です。
山根:今回は、デンマーク発のブランド・ノルディスクの「Telemark2(テレマーク2)」という山岳レース用につくられたテントを持ってきました。特徴は、総重量が880gという1kgを切る軽さと、両側サイドから出入りできる機能的なデザイン。加えて、簡単に設営できるので、ソロキャンプに適しています。
ちなみに、ノルディスクが誕生した北欧では、テント泊が必要な耐久レースやアウトドアスポーツも盛んなので、こういった1〜2人用テントの需要が高いんです。だから、ノルディスクに限らず、北欧のアウトドアブランドは、日本でのソロキャンプなどに適したテントやギアが豊富な印象ですね。
―山根さんはご自身のファッションブランドを持つ傍ら、東京都・世田谷区に「NORDISK CAMP SUPPLY STORE SETAGAYA」、京都府に「NORDISK CAMP SUPPLY STORE KYOTO」というノルディスクのコンセプトショップを2店舗営んでいますが、あらためて「ノルディスク」の魅力を教えてください。
山根:100年以上の歴史を持ち、伝統の技術力と最先端の感性を磨き続けているブランドとして、世界各国のキャンパーたちから愛されています。デザインが無駄なく洗練されているうえに、機能面のクオリティーも高いので、プロダクトづくりに美学を感じます。
そうしたものづくり精神を支持いただいているからか、お客さまの層も、クリエイティブな業界で働かれている方や、ファッション感度の高い方が目立ちますね。プロダクトを製造する際にはフィールドテストを何度も行いますし、製品管理も徹底しているので値段もそれなりに高額ですが、だからこそ、こだわりを持ってノルディスクを選ぶ方が多い印象です。
―ノルディスクといえば、シロクマのロゴがプリントされたコットン生地の白いテントが有名ですよね。キャンプ場やフェスなどでノルディスクの白いテントを見かけると、ナチュラルな色味とデザインなのに、ひときわ目立っているのが印象的です。
山根:コットン生地のテントは、レガシーシリーズといってノルディスクの代名詞ともいえます。保温性・透湿性・耐水性・耐久性に優れた「テクニカルコットン」という厚みのあるオリジナルの素材が使われていて、冬場でも暖かく過ごせます。機能性だけでなく、見た目のモダンな印象もキャンプ好きの方には人気です。
なかでも、人気の型は「Asgard(アスガルド)」という、中央と入口にポールを設置するだけで建てられる大きめのテント。通気の穴もあるので冬はストーブをテント内に持ち込めますし、換気をきちんと行えば、とても心地良く室内で過ごせます。加えて、フロアのシートはジップでつなげるタイプなので、外気の侵入を防げるのも大きなメリット。冬のキャンプでは寒い時期だけの特別感を味わえますし、もちろん通年でも使える万能型のテントです。
あと、ノルディスクのテントは、大きさの表記が平米数で記載されているので、日本人からすると非常にイメージしやすい点も特徴だと思います。
手前の白いテントが「Asgard19.6」という最大8名で使用可能なモデル。ちなみに、「Asgard」とは、「北欧神話に登場する神々が住む世界」を意味する単語こちらは「Asgard12.6」というモデルで、最大6名での使用が可能
クリエイティブなキャンプ屋をやりたかった。世界初ノルディスクのコンセプトストアを任された背景
―2017年に東京都・世田谷区にオープンした「NORDISK CAMP SUPPLY STORE SETAGAYA」は、ノルディスクとして世界初のオフィシャルコンセプトストアだったそうですね。なぜ山根さんが手がけることになったのでしょうか。
山根:もともと、好きなブランドやギアに特化したキャンプ用品店を開きたいと思っていて、自分自身が愛用していたノルディスクを取り扱いたいと考えていたんです。そしたら、2012年頃のある日、共通の知人がノルディスクのCEOであるエリック・モーラーを紹介してくれて。
会話をすると、日本のアウトドアやキャンプ用品店に対する考え方が合致して、すぐに意気投合しました。そこで、ぼくが厳選したアイテムやノルディスクを取り扱う、クリエイティブなキャンプ用品店のアイデアを彼に話してみたら、すごく気に入ってくれたんです。じつはエリックも、いずれ日本にお店をつくりたいと思っていたそうで、一緒にできたら良いねという流れになりました。
―そこから、お店を立ち上げることになったと。
山根:ただ、そのときは、ぼくの会社も小さかったですし、すぐに実店舗をつくれる状態じゃなかったから、エリックが日本に来るたびに話し合って……というのを4年くらい続けていました。そうしていくうちに、店舗のMDや資金の目処も固まってきた。ようやくオープンできたのが2017年3月です。
そこから、ぼくらはデンマーク本国から日本でのリテールビジネスのパートナーとして業務提携し、ノルディスクの世界観や理念をお客さまに伝える役割を担っています。
「NORDISK CAMP SUPPLY STORE SETAGAYA」の外観
―ノルディスクのコンセプトストアをつくるうえで、どのようなところにこだわりましたか?
山根:「クリエイティビティーが高い人に向けたコンセプトストア」という方向性で、ファッションとプロダクトにこだわる方に向けたお店の構想を固めていきました。ノルディスクは、ファッションが好きなファンも多いですし、ぼくらもF/CE.というファッションブランドをやっているので、いわゆるアウトドア専門店ではなく、ファッションがベースにあるキャンプ用品店にしたかったんです。
それで、ノルディスクが持つ温かみのある世界観や、クラフトマンシップの精神に共通する他ブランドのアイテムも取り揃えたコンセプトショップにしました。
本場デンマークで、毎年キャンプへ。北欧と日本のアウトドア観の違いとは?
―ところで山根さんは、ノルディスクの本拠地でもあるデンマークでキャンプをされたことはありますか?
山根:プライベートではないですが、本社があるデンマークのシルケボーで、毎年5月にキャンプをしながらセールスミーティングを行っています。さすがに今年は新型コロナウイルスの影響で中止でしたけどね。例年だと、世界各国からノルディスクのディストリビューター(卸売業者)が80人くらい集まり、森のなかで新製品などに関する講習を受けるんです。
ビジネスの話だけではなく、みんなでマウンテンバイクやカヤックなど、アクティビティーを楽しむ時間もあります。そして夜は、それぞれが好きなノルディスクのテントで眠る。一応、仕事の一環なのですが、いろんな国の方とノルディスクを通じてコミュニケーションをとるのは最高に楽しいですよ。
シルケボーには美しい湖があって、景色が素晴らしいですし、キャンプ場も多いので北欧でキャンプをしてみたい人にはおすすめです。現地の人も、アウトドアに普段から親しんでいる印象がありますね。
シルケボーで開催された、ノルディスクのセールスミーティングの様子シルケボーのセールスミーティングにて。アクティビティーのマウンテンバイクを楽しむディストリビューターたち
―北欧と日本のキャンプを比べて、何か違いを感じますか?
山根:日本やアジア圏の場合は、ファッションやギアのデザイン性にこだわる人が多いですよね。見た目や快適さを求めてギアを集める傾向が強いと思います。
一方で、北欧や欧米の人たちは、ファッション性はあまり気にしない人が多いかも。どちらかというと、使いやすさや機能性を重視しています。
おそらく、キャンプのスタイルが違うからだと思います。日本は、ライフスタイル的な位置づけとしてキャンプをする方が多い印象ですが、海外はアクティビティーやアウトドアスポーツも盛んなので耐久性なども大事になる。どちらが良い悪いではなく、それぞれ自分に合った過ごし方を見つけられたら良いのではないでしょうか。
日本で重要視される「キャンプ飯」。手軽に楽しめる北欧のソウルフードとは?
―なるほど。とはいえ、主流の過ごし方が違うと、国によって求められるギアのニーズも変わりそうですね。
山根:そうですね。キャンプ用品店を運営する側としては、自国の時流に合ったアプローチをする必要があります。日本は「ファッショナブルでかっこいいキャンプ」を目的にする人が多いため、大型のギアだけでなく、カラトリーや小物も需要があります。
ですから、ノルディスクのデンマーク本社に小物の商品化をよく相談していますし、実際にいくつか商品化にもつながりました。欧米で需要があまりなくても、日本で需要があるものは、積極的に本社へ商品提案しています。
―たしかに、日本では「キャンプ飯」もおしゃれな盛りつけにこだわる人が多そうなので、カラトリーや食器などの小物は需要が高そうです。実際に何度もデンマークに行かれている山根さんですが、北欧らしさを感じられるようなキャンプにぴったりのおすすめ料理はありますか?
山根:手軽に挑戦できる、ホットドックはおすすめですね。デンマークでは、伝統的な食文化として豚料理を食べるのですが、とくにホットドッグはソウルフードとして親しまれています。駅前の広場に出ると、ワゴンでホットドッグを売っている屋台がいくつもあって、人気の店舗だと行列ができるほど。
ちなみに、うちのお店でも、ホームメイドの無添加ソーセージを使用したデンマークスタイルのホットドッグと、ノルウェー発の豆を使ったコーヒーを販売しています。ホットドックは、参宮橋のレストラン「LIFE son」の相場正一郎さんに監修してもらい、コーヒーは代々木公園の「FUGLEN TOKYO」の豆なので、めちゃくちゃおいしいですよ。ぜひ食べに来てください(笑)。
「NORDISK CAMP SUPPLY STORE SETAGAYA」で提供している、北欧の味を再現してつくられたホットドックとコーヒー
家族との時間を大事にしたい。ノルディスクとデンマーク文化に通じる「ヒュッゲ」の精神
―日本ではキャンプの人気が年々高まってきていますが、今後もこの傾向は強まっていくと思いますか?
山根:はい。アウトドアギアもここ数年で選択の自由度がグッと上がりましたし、幅が広がりました。さらには、コロナ禍の影響もあり、人の多い都会にいるメリットが薄れ、自然のなかで過ごすことの価値が高まってきた。ますます、アウトドアはより身近になっていくでしょう。
そんななかで、ほかの人と比べて「ひと味違うかっこよさ」を求める方に今後もノルディスクを選んでいただけるよう、その魅力をもっと広めていきたいと思っています。
―山根さんご自身は、今後どのようにキャンプを楽しみたいですか?
山根:引き続きソロキャンプを楽しみつつ、今後は家族とのキャンプももっと充実させていきたいです。自然のなかでコミュニケーションをとると、いつも以上に家族と向き合うことができますから。
―ノルディスクの大型テント「Asgard」などは、家族とのキャンプに向いてそうですね。大きなテントのなかで快適に過ごせる空間は、自宅とはまったく違う、家族との特別な時間になりそうです。
山根:はい。ノルディスク自体、大切な家族や友人と過ごす時間をものすごく大切にしているブランドなんですよ。だから、長年にわたり大人数向けの居住性の高いテントを発売していますし、キャンプでの本部ミーティングもみんなとコミュニケーションしやすい環境のなかで行うのだと思います。
―ほっとくつろげる心地よい空間や、そこから生まれる幸福な時間をデンマークでは「Hygge(ヒュッゲ)」と言いますが、その精神とも共通するところがありますね。
山根:まさに、そうですね。ノルディスクのアウトドアギアは、縮小と拡張の自由度が高くて、1人でコンパクトにキャンプを楽しむこともできれば、ギアをいくつか追加して、大人数でキャンプを楽しめる仕様にもできる。
そして、温かみのある雰囲気や居心地の良い空間を演出するためのギアという点は、1人用も大人数用も一貫しています。独身時代から家族ができたときまで長く使えるので、ノルディスクのギアをとおして、キャンプを一生の趣味として多くの人に楽しんでいただきたいですね。
- サイト情報
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- 「ROOT GARMENTS and CAMP SUPPLY STORE」
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NORDISKやF/CE.などのアイテムを取り揃えるオンラインサイト
- プロフィール
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- 山根敏史 (やまね さとし)
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1975年、愛知県生まれ。1997年、ファッションデザイナーとして某アパレルに7年在籍後、2003年にクロックスの日本支社創立メンバーとなる。デザイナーの仕事の傍ら2000年に結成したインストゥルメンタルバンドのtoeではベースを担当し、現在も活動中。2010年、OPEN YOUR EYES INC.を設立。同年、F/CE.を立ち上げる。2014年、ヘッドショップ「ROOT」をオープン。2017年、東京都・世田谷区に「NORDISK CAMP SUPPLY STORE SETAGAYA」、2019年には京都府に「NORDISK CAMP SUPPLY STORE KYOTO」をオープン。