オードリー若林「生きづらさ」の答え。あるべき論から自由になる

オードリー若林「生きづらさ」の答え。あるべき論から自由になる

インタビュー・テキスト
黒田隆憲
撮影:前田立 編集:青柳麗野(CINRA)、川浦慧(CINRA.NET編集部)

世の中のシステムは、人生を「長期的なデザイン」として考えさせようとしてくる

―若林さんにとっては、2016年4月にお父様がお亡くなりになったことも、生き方や価値観の変化に大きなきっかけを与えたのではないかと。

若林:そうですね。病院に毎日通ったり、自宅に戻ってきて一緒に過ごしたりしながら亡くなっていく過程を見ていたことは、かなり強烈な印象として残っています。1日というものに対する感覚が変わりましたね。

―それは、どんなふうに変わったのでしょうか。

若林:やっぱり世の中のシステムは、人生を「長期的なデザイン」として考えさせようとしてくるというか。例えば「スペック」を身につけるためには「このときに、ここにたどり着いていないと」みたいな考え方があると、いまの自分と比較したときに自己肯定できなくなってしまう。それを、僕自身もずっと繰り返してきたのですが、これからは「いま、この瞬間を楽しもう」と思うようになりました。それで夜中に一人、3ポイントシュートを打ってるのかもしれないですね(笑)。

テレビの収録一本に対する気持ちも変わりました。親父が寝たきりになったとき、最後に残ったのがテレビだったんですよ。本のページをめくると息が上がってしまう、歯磨きもできない状態になっても、テレビはスイッチを押せば見れますからね。それで笑っている親父の姿を見ていて、やっぱりテレビってすごいなあと。

若林正恭

noteを開設し文章を書き始めたわけ。テレビでは伝えられない「整えていない言葉」をいまのうちに届けたかった

―ところで最近、noteでの執筆活動を始めたのはどんな経緯だったのですか?

若林:自分は言葉を発するとき、テレビでは非常に言葉を整えて話すことがあって。頭がよくない割に言いたいことはあるので、少しでもダメージを食らわないように喋ってしまうんです。まあ、単純に叩かれることに怯えてるわけですが。

お笑い芸人として、あと何年くらいテレビでお仕事させてもらえるのかなと思うと、せめてラジオのリスナーやライブを観にきてくれている人には「整えていない言葉」をいまのうちに届けておきたい、そういう思いで始めました。

―反響はいかがですか?

若林:芸能人や有名人がSNSで叩かれたり悩んだりしていると、よく「応援してくれるサイレントマジョリティーのことを想像しましょう」なんて言われるじゃないですか。でも、そんなの想像できないですよね、サイレントなわけだから(笑)。

―確かにそうですね。

若林:僕はライブやラジオをやっていたりするので、応援してくれる人がいることはわかっていたんですけど、noteのコメント欄を見ると、その人たちが「生活」をしているんだなということが、手に取るようにわかったんです。普段の生活をしている人が、ラジオを聴いてくれたりテレビを見てくれたりしているんだなと思うと非常に励みになります。「サイレントが可視化された」ということだと思うんですけど、本当にやってよかったなと思います。

―若林さんにとって文章を書くことは、どんな位置づけなのでしょうか。

若林:時間制限がないのが文章の世界なんですよね。バラエティーはテンポが速いし、長く話す人はやりにくい。マスに向けているものではあるので、わかりやすくなければいけないし、明快でなきゃいけない。もしかしたら「正論じゃなきゃいけない」みたいなプレッシャーも感じているのかな。

―若林さん自身はいかがですか?

若林:僕自身、「正論」がなかなか言えない人間なんですけど。正論で、コンパクトで、わかりやすくあればあるほど、その言葉は価値が高いとされているのがテレビの世界。

でも「書く」ということはすごく不思議なんです。例えば僕がドトールに入って何かを書こうと思ったら、締め切り以外の制限はないんですよ。「セカンド7番」という言葉が『ワイドナショー』(フジテレビ系)まで飛び火したのはどういうことなのか? を延々と考えていられる(笑)。

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書籍情報

『表参道のセレブ犬とカバーニャ要塞の野良犬』
『表参道のセレブ犬とカバーニャ要塞の野良犬』

2020年10月7日(水)発売
著者:若林正恭
価格:792円(税込)
発行:文春文庫

プロフィール

若林正恭(わかばやし まさやす)

1978年9月20日生まれ、東京都出身。同級生である春日俊彰とお笑いコンビ、オードリーを結成。その後、『激レアさんを連れてきた。』『スクール革命』『あちこちオードリー』など数多くのバラエティー番組に出演。彼らの主戦場であるニッポン放送『オードリーのオールナイトニッポン』が2019年に10周年を迎え、同年3月には日本武道館でライブを行った。著書に『社会人大学人見知り学部 卒業見込』『ナナメの夕暮れ』がある。2020年7月からnoteにて「若林正恭の無地note」を開設。月2本のペースで更新中。

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