海外ドラマの固定概念を解きほぐす、北欧ドラマ考

等身大の「おばさん」の物語。日本にない寛容さで日常や恋愛を描く北欧ドラマ『私はペルニ』

各種さまざまな映像配信サービスによって、海外ドラマに触れることが多くなった昨今。なかでも注目を集めるのは英米作品ばかりだが、膨大なライブラリのなかで、それ以外の作品を見過ごしてしまうのはもったいない。

そこでこの連載では、「海外ドラマ=英米ドラマ」という固定観念を解きほぐすための「北欧ドラマ考」として、世界中で愛される北欧作品から、現地で愛される人気作までを幅広く紹介していく。今回はノルウェー発の心温まるコメディドラマ『私はペルニ』について、西森路代が綴る。

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阿佐ヶ谷姉妹の作品など、日本でも増えてきた「おばさん」世代を描くドラマ

ドラマについて、同業のライターをはじめ、脚本家やプロデューサーなどと話すときにかなりの確率で出てくるのが、「人間の理想や輝かしい一面を描いたドラマもいいけれど、もっと生活に根ざした、リアルに生きているおばさんの物語が見たい」という話題である。

最近の日本のドラマにもそんな作品はいくつかある。『阿佐ヶ谷姉妹ののほほんふたり暮らし』(NHK)は阿佐ヶ谷姉妹のエッセイをドラマ化したもので、阿佐ヶ谷に暮らすふたりの文字通り、「のほほん」とした同居生活を描いていた。

『その女、ジルバ』(東海テレビ、フジテレビ)は、第23回手塚治虫文化賞マンガ大賞受賞の原作をドラマ化。池脇千鶴演じる40歳の主人公が、熟女ばかりが働くBARの扉を開いたことから、高齢の女性たちの生き生きした姿を見て、自分自身も変わり始める物語だ。

また、柴門ふみ原作の『恋する母たち』(TBS)は、息子を名門学校に通わせるアラフォーの女性3人の悩みと恋を描く作品だ。

『恋する母たち』(TBS)予告映像

このように、最近は「おばさん」世代を描くドラマが日本でも増えてきたが、北欧の配信サービスViaplayでつねに上位にランクインしているという『私はペルニ』を見て、遠い街で暮らす女性たちも、我々と同じような悩みや葛藤を抱えながら、日常を生きているということを知れるドラマがあることを知った。

『私はペルニ』トレーラー

ソーシャルワーカーの仕事をしながら、父や娘、甥と暮らすシングルマザーの忙しい毎日

本作の脚本も執筆しているヘンリエッテ・ステーンストルプが演じる主人公はシングルマザーのペルニだ。彼女はソーシャルワーカーの仕事をしながら、自身の父親、二人の娘、そして甥っことともに暮らしている。ペルニにはアンネという妹がいたが、彼女の夫が起こした事故により他界。そのことで甥っ子を預かっているのだった。

ペルニの毎日はいつも忙しい。父が脳腫瘍であると診断されたかと思ったら誤診であったことが発覚するし、末娘のシグリは学校で問題を起こしてばかり。上の娘のハンナは、バイトをやっても続かないし、進路についても、いまだ決めかねていて、お金のかかる要求ばかりしてくる。

甥のレオは母親を亡くしたばかりな上に思春期でうまくコミュニケーションがとれない。ペルニは膝が悪く手術をしないといけないほどなのに、口喧嘩をしたシグリにそこを蹴られてしまうことも。おまけに児童福祉の仕事では親権を求める親たちに逆恨みされるなど、泣きっ面に蜂状態だ。

ペルニが唯一くつろげるのは、自宅のガレージの車の中。つらいことがあるたびに、亡き妹アンネが肉声で残した留守番電話に電話しては、泣き言や愚痴を語りかけるのだった。

そんななかでも、ペルニにも恋の予感が。シグリの担任の教師からはライブに誘われ、仕事で出会った双子の父親で13歳年下のビョルナルからもアプローチがあり、デートをする間柄に……。

どこにでもいそうな等身大の40代女性を描く。そこに通じる、北欧の「寛容さ」

このドラマを見ていて思ったのは、ペルニは何も特別ではなく、どこにでもいそうな40代の女性であるということである。

普段見ている日本のドラマにも「どこにでもいそうな」役柄の中年女性は登場する。しかし、それは役柄の設定のみで、実際にはヘアメイクはばっちりで、雑誌から抜け出たようなスレンダーな体形のままで、生活に疲れ、葛藤のある役柄をしているということは多い。ドラマに出てくる人物は、実際の中年女性とは似ても似つかないけれど、「ドラマだからそんなもの」と、慣れっこになっていたのではないかと思ってしまう。

もちろん、キラキラした女性であるために頑張っている人のドラマがあってもいいし、それを演じてしっくりくる俳優もいてしかるべきだとも思う。けれど、そうではないドラマや俳優がもっといることが、ドラマにおいての多様な姿なのではないか。

その点、ペルニは子育てや仕事に疲れているときには、身なりにかまう時間もないし、体型だってワークアウトをして完璧というわけではない。本当にすぐ近くにいそうな40代の女性だ。

もっと言うと、「周囲に合わせないといけない」「1人だけ浮いてはいけない」という圧の強い日本にいると、もしかしたら、ペルニの「どこにでもいる」姿すら、どこにもないのかもしれない。

私は普段は日本のドラマやアジアの映像作品を観ていることが多いが、この「周囲に合わせないといけない」「1人だけ浮いてはいけない」という圧は、アジアでは共通であると感じる。だから『私はペルニ』を見て、北欧の(と、一作品を見たくらいでざっくりと語ってはいけないとは思いつつも)寛容さというか、おおざっぱさに救われるような気持ちもあった。

それは、恋愛を描いた面でも感じる。ペルニのように日本で娘の担任の教師からライブに誘われれば、日本ならば問題になるだろうし、仕事で知り合った相手に誘われても、同様に最初はちょっと身構えてしまうだろう。

そのあたりの考え方や感じ方は、かなり差があるので、日本で同じことがあっても奨励できるわけではないけれど、ペルニを含め、同年代の友人たちが人間関係の中で気軽に恋愛をはじめようとしている姿は、見ていて悪い気がしなかった。もちろん、ペルニの友人が恋愛と年齢のリミットを語ったり、恋愛と隔絶した女性たちを揶揄するような場面もあったし、若い女性たちにペルニが年齢でバカにされたりする場面はあるにせよ、それはどこにいても存在することなのだろう。

恋愛に完璧さや潔癖さを求めすぎず、合うか合わないかわからない、好きか好きでないかはわからない、短い期間で終わるかもしれないけれど、それでもいいからこの人のことを知ってみようとするフランクさが描かれていることは新鮮であった。もちろん、そこには性感染症にならないためにコンドームを使う、自分がそうなったときは、診断を受けて広がらないようにするといったことも必要で、ペルニは同世代の友人たちにも、うるさいくらいにその点を徹底して伝えていたのもよかった。

大人であるということは、人より「失敗」している分「失敗」をおおらかに受け止めてあげられるということなのかもしれない

寛容な空気は、ペルニと自身の子どもたちやソーシャルワーカーとして出会う子どもたちに対しての関係性でも見てとれた。先述のとおり、ペルニの2人の娘は問題だらけで、シグリは友人のものを拝借してしまうこともあったし、ハンナは何をやっても続かない。娘の友人は望まない妊娠をしてしまったことをペルニに打ち明ける。ペルニが子どもたちの問題を知ることができるのは、彼女がソーシャルワーカーだからということもあるだろうが、若い世代の「失敗」を叱責するのではなく受け止めることができるからだろう。

ドラマのなかに、ペルニが仕事で関わった相手が、自分の姉の子どものことを、「行儀のいい子で文句も一切言わない」から「安定している」と言うと、ペルニは「安定してる子は、不機嫌で下品でウザくて反抗的よ」「トラウマを抱えた子どもを知らないのね」と返す場面があった。その台詞を聞いて、ペルニが子どもたちから、気持ちをぶつけられる理由がわかった。

彼女が子どもたちを受け止められるのは、彼女自身も40代半ばにしても、まだまだ「失敗」ばかりしているということも関係しているだろう。ペルニが「失敗」して落ち込んだときは、妹の留守番電話に悩みを吐露することはまだまだやめられそうにないが(亡き妹の存在は、イマジナリーフレンドのような役割もあるように思う)、父親が彼女にとっての唯一無二の「友人」であるというのも大きそうだ。

大人であるということは、人より「失敗」している分、「失敗」をおおらかに受け止めてあげられるということなのかもしれない。人の「失敗」を受け止めるなんて、ちょっとしんどそうにも思えるが、誰でも多かれ少なかれ「失敗」するものだし、受け止めるからといってそれを背負いこんでしまわないとけないわけではない。

このドラマを見ていると、自分も少し肩の力が抜けてくる感じがするし、見終わったときにはすがすがしさが残った。私は、こんな中年女性=おばさんのドラマを待っていたのである。

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