ゆーみん&きうてぃ、ユーロヴィンテージと北欧ミリタリーの魅力

いま注目のユーロヴィンテージ。意外と人気の北欧ミリタリーの魅力にも迫る

元来、古着といえばアメカジが王道といえるが、近年のファッションシーンでは、ヨーロッパ製のヴィンテージ古着が注目を集めている。いわゆる「ユーロヴィンテージ」だ。製造年数が古く、生産数も少ないアイテムは、古着屋やフリマアプリなどでも驚くほどの高値で取引されている。

なかでも、「ミリタリー」は人気のジャンルのひとつ。戦時中につくられたヴィンテージのミリタリー製品は、現存するアイテム数にも限りがあるので、名作と呼ばれる型の価値がおのずと高騰する。意外かもしれないが、第二次世界大戦の主要国とされるドイツ軍、イギリス軍、フランス軍などと並び、根強い人気を博しているのがスウェーデン軍をはじめとする北欧各国軍のアイテム。歴史的な世界大戦を振り返ると、他国に比べて強烈な印象はないが、なぜ北欧のミリタリーは定評があるのだろうか。

今回は、北欧にまつわるミリタリー古着の奥深さや、ユーロヴィンテージ全般の魅力を探るべく、人気ファッションYouTuber「ゆーみん&きうてぃ」のもとを訪ねた。主にユーロヴィンテージの魅力について丁寧に伝えるYouTubeチャンネルを2018年に開設し、わずか2年でチャンネル登録者数は3万3000人(2020年10月現在)を突破。いま話題の二人は、近年のユーロヴィンテージの高騰の要因についてどう分析しているのか。

ゆーみん&きうてぃ。左から:ゆーみん、きうてぃ
ヴィンテージ古着のオンラインショップ「from_antique」を経営している「ゆーみん」と、高円寺にあるユーロヴィンテージ専門店「militaria」「encore」のショップスタッフ「きうてぃ」の二人組で活動する、ファッションYouTuber。高校時代から友人だった二人は、大学卒業後に入社したそれぞれの会社を退職し、現在の古着業へ。2018年8月にYouTubeチャンネルを開設し、主にヴィンテージ古着の魅力を定期的に発信するようになる。2020年10月現在、チャンネル登録者数は3万3000人を突破。ファッション雑誌やウェブメディアで取り上げられるなど、注目を集めている。

数年前まで2万円だったパンツが10万円!? ユーロヴィンテージ市場の勢い

YouTuberとして活動しながらも、ゆーみんさんはヴィンテージ古着のオンラインショップ「from_antique」を経営しており、きうてぃさんも高円寺にあるユーロヴィンテージ専門店「militaria」「encore」のショップスタッフとして働いている。それぞれ古着業を行うなかでも、ユーロヴィンテージ・ユーロミリタリー市場の盛り上がりを肌で感じているそうだ。

ゆーみん:人気のアイテムは、卸値も販売値も、ここ数年でどんどん跳ね上がっていますね。去年の相場では2、3万円で売られていた型の軍服が、今年は4、5万円で売られていることもザラにあって。

ゆーみん:その現象として象徴的なのは、フランス軍が1947年に製造したM-47のミリタリーパンツの高騰ですね。たとえば、50年代以前に製造された前期モデルで、なおかつ状態も良く、最小サイズであるとすれば、いまの相場だと10万円くらいにはなります。

―10万円!?

きうてぃ:めちゃくちゃ高いですよね(笑)。ヴィンテージはデッドストックでない限り、同じ状態のものはないので、基本的に一点物。M-47のように型のあるアイテムも現存数に限りがありますし、需要があるサイズなら、同じ型でも数倍の値の開きが出ることは珍しくないです。とはいえ、M-47は数年前まで1、2万円で買えたので、異常な高騰の仕方だと思いますけど。

M-47が高騰した理由を考察した動画(ゆーみん&きうてぃ official YouTube)

近年、ユーロヴィンテージが急騰している理由には、さまざまな要素が絡み合っている。ひとつはフリマアプリの浸透などによって古着に対する抵抗感が薄れ、幅広い層の人にとって「ヴィンテージ」はより身近な存在になり、需要が拡大したこと。

そして、もうひとつは、多くの世界的なデザイナーズブランドの逸品が、ユーロヴィンテージ・ユーロミリタリーを参考にしてきた事実である。

ゆーみん:実はM-47も、マルタン・マルジェラが1990年代に発表したパンツのサンプリング元になっているんです。この話も、ファッションオタクの間では以前から周知されていたのですが、ファッション系のウェブメディアやYouTuberなどの発信者が増えたことで、そういう情報がコアな層からマスにも届くようになった。それで、需要と供給のバランスが崩れて高騰につながったのかなと。

きうてぃ:いままでは、デザイナーズブランドでしか買い物をしていなかったような人でも、「元ネタ」であるユーロヴィンテージを探しに、古着屋を訪れるようになっていますからね。

あと、ブランドの話でいうと、最近はCOMOLIやYAECAなど、どこかユーロヴィンテージを彷彿とさせるような中性的で柔和な雰囲気のブランドも人気ですよね。その要因として、人々の価値観が変容していることもある気がして。

いまは世の中の価値観として、ジェンダーや人種の平等性が大切にされていますし、多様性を受け入れる柔らかい思想が浸透している時代。丸みのあるデザインや、アンニュイな雰囲気を放つユーロヴィンテージが若者から人気を得ているのも、そうした時代背景がもしかしたら影響しているのかなと。

北欧のミリタリーはさらっと着るだけで、様になるアイテムが多い

「無骨な男らしさ」を感じるアメカジとは対象的に、柔らかく中性的な雰囲気が漂うユーロヴィンテージ。たしかに、いまの時代にもマッチしているのかもしれない。

とはいえ、「ミリタリー」というジャンルにおいては、男らしくてワイルドなイメージもある。事実、ユーロミリタリーもアメリカ軍のミリタリー同様に、無骨さが魅力的なアイテムは多い。ただし、北欧の各国軍のアイテムに関しては、「柔らかい雰囲気を感じる」と二人は語る。

きうてぃ:他国の軍服と比べても、北欧の各国軍はデザインの細部にこだわりを感じます。曲線的なディテールを採用しているパターンが多く、無骨さを感じさせない。ぼくがいま着ているスウェーデン軍のホスピタルコートも、おそらく戦時中の病院内などで着られていた院内着で、ミリタリーに分類されます。一見、ミリタリーっぽくないですよね。

当時の病人や怪我人の体に負荷を与えないよう、体に優しいデザインを意識してつくられたホスピタルコート(きうてぃさん私物)

きうてぃ:メタルボタンが使われているので、おそらく40年代のものですが、病院の院内着ですら、現代に私服として着てもかっこいい。北欧のミリタリーはさらっと着るだけで、様になるアイテムが多いと思います。

ゆーみん:北欧って、もともと建築やインテリアのデザイン性が優れている地域じゃないですか。憶測ですが、当時のミリタリーウェアを縫製していたデザイナーたちも「デザインには、こだわるべき」という考えがあったのかなと。そういう土壌が、ミリタリーの服づくりにも表れている気がします。

また、スウェーデン軍は第一次世界大戦のときに「中立」を宣言していたんですよね。そういった意味でも、柔和な価値観がスウェーデン軍の温かみのあるデザイン性につながっているのかも。

語り継がれる名作アウター、M-90。一枚袖でつくられた、デザインのこだわり

軍服から各国の戦争に対する価値観が垣間見えたり、ものづくりへの情熱を考察できたりするのが、ミリタリーの面白さ。なかでもスウェーデン軍のものづくりへのこだわりが、もっとも顕著に表れた名作がある。1990年につくられたM-90のモッズコートだ。

このモッズコートの元ネタは、おそらくアメリカ軍のM-65。1965年につくられ、ベトナム戦争などで重宝されていたモデルである。デザイン性や機能性の高さから、その後、モッズコートの参考元として世界各国に摸倣された。

そのM-65の誕生から、25年の時を経てつくられたのがスウェーデン軍のM-90。2020年になったいまも、ユーロヴィンテージ・ミリタリー好きのあいだで語り継がれる名品だが、その理由は他国にはまねできない裁縫と着心地にある。

M-90の後期モデル。ダブルジップなので、着こなしの選択肢も広がる(ゆーみんさん私物)

ゆーみん:ぼくが思うM-90の最大の特徴は、一枚袖でつくられていること。普通のコートは、袖生地と身頃の生地の縫い目が、肩から脇にかけて入っていますよね。「セットインスリーブ」というのですが、それがない。加えて、背中と袖のつなぎ目がどこにも見当たらないんです。

つまり、ほとんど1枚の生地だけでコートの表地をつくっていることになります。生地も余るし、かなりコスパが悪いはず。それでもこのつくり方を採用したのは、やっぱりデザインにこだわった結果でしょうね。

袖と後身頃の切り替え位置が見当たらないM-90の背中

きうてぃ:一枚袖によって丸みが生まれるから、モッズコートなのに「いかつくない」よね。

ゆーみん:そうそう。しかも、見た目だけじゃなくて、機能面もすごく良くて。北欧の冬を超すためにつくられたコートなので、めちゃくちゃ暖かい。そのうえ、軽くて動きやすいんですよ。

真冬でも過ごせるモッズコートって、重たくて肩が凝るタイプも多いですが、このM-90はそういうストレスがまったくない。デザイン性からも着心地からも、スウェーデン軍ならではの「優しさ」を感じます。

スウェーデン軍「M-90」の魅力を詳しく解説した動画(ゆーみん&きうてぃ official YouTube)

ミリタリーなのに「かわいらしさ」がある。スウェーデン軍のもうひとつの名品

すでにファッション好きの間で認知が広がっているM-90に続き、スウェーデン軍の名品としてユーロミリタリー好きのあいだで密かに注目されているのが、モーターサイクルジャケットだ。戦時中の伝達係などを担うバイク兵が着用していた軍服だが、やはり他国軍のものに比べてもフォルムに丸みを感じる。

1960年代製のスウェーデン軍のモーターサイクルジャケット(きうてぃさん私物)

きうてぃ:スウェーデン軍のモーターサイクルジャケットは、アシンメトリーなつくりが特徴。ボタンのかけ方次第で、いろんな着方ができますし、ミリタリーなのに「かわいらしさ」がありますよね。

あと、ボアライナーもついているから防寒性もばっちり。やっぱり、スウェーデン軍に限らず、デンマーク軍やフィンランド軍などの北欧軍のアウターは、寒さをしのぐライナーつきのタイプが多い。向こうの冬を超すためにつくられているから、日本の冬なら余裕で越せます(笑)。

デザイナーズブランドがユーロヴィンテージを元ネタにしたり、M-90のモッズコートがM-65をサンプリングして生まれたり、名品は参考にされるのが宿命ともいえる。実は、このスウェーデン軍のモーターサイクルジャケットも「元ネタ」にされることが多い逸品だ。

ゆーみん:きうてぃのモーターサイクルジャケットの素材はコットンですが、実は同じかたちでレザー版も当時つくられていたんですよ。そのレザー版のレプリカとして、1990年頃に生産されたのがこのレザージャケットです。

フランスの民間メーカーから、レプリカとして1990年代に生産されたモーターサイクルジャケット。素材はカーフレザー(ゆーみんさん私物)

ゆーみん:1960年代のものが、数十年経ったあともレプリカとしてわざわざつくられるということは、そのデザインが現代でも通用すると認められている証拠。スウェーデン軍製のデザイン性の高さがうかがえますよね。

また、レプリカは価格も比較的お手頃ですし、タウンユースしやすい。なによりデザインの良さがそのままなので、製造年が新しい年代でも古着市場で人気があります。

本場より、日本のほうがアツい? 北欧製ヴィンテージの流通事情

日本国内の需要が年々高まっている北欧製のヴィンテージ・ミリタリーだが、本国ではどうなのだろうか。ゆーみんさんは、実際にスウェーデン、ノルウェー、フィンランド、デンマークでもユーロヴィンテージの買い付けや古着屋巡りを試みたが、日本ほど古着市場の盛り上がりが見られなかったそうだ。

ゆーみん:いろいろ回りましたが、ビビッとくるヴィンテージ古着はほとんどなかったです。北欧にも少しだけ古着屋はありましたけど、リサイクルが目的の古着屋さんが多くて。多分、「古着を着たい」っていう価値観や文化が、そこまで根づいていなのかなと。

ゆーみんさんがスウェーデンの街を巡った際の動画(ゆーみん&きうてぃ official YouTube)

ゆーみん:まあ、ぼくはサウナが大好きなので、旅行としては最高でしたけどね(笑)。北欧製のヴィンテージやミリタリーが欲しいなら、日本の古着屋のほうが断然ありますよ。ぼくがいま着ているスウェーデン製のドレスシャツも、都内の古着屋でたまたま見つけたやつですし。

ドレスシャツのタグに書かれているのは、「ストックホルム市立劇場」(ゆーみんさん私物)

ゆーみん:それこそ、きうてぃが働いている高円寺の古着屋「militaria」は、北欧のヴィンテージやミリタリーが結構置いてあるよね。

きうてぃ:そうだね。一応、独自の買い付けルートがあって。結構、他店に比べても品揃え良いほうだと思うので、北欧製のものが欲しい方は、ぜひうちのお店に一度お越しください(笑)。

ゆーみん:うわぁ。その買い付けルート、うらやましいな(笑)。

本場よりも、日本のほうが盛り上がりを見せているかもしれないユーロヴィンテージ。その魅力や奥深さに気づく人は今後も増え続けると同時に、柔和な価値観が重視される時代もきっと続くだろう。

だからこそ、どこか「かわいらしい」雰囲気を放つ、北欧製のヴィンテージ・ミリタリーの注目度も、ますます高まっていくはず。いまのところ、都内の古着屋で見かけるケースもあるとのことなので、ふらりと立ち寄ってみては? 素敵な北欧製のヴィンテージ・ミリタリーに出会えるかも。

プロフィール
ゆーみん&きうてぃ

ヴィンテージ古着のオンラインショップ「from_antique」を経営している「ゆーみん」と、高円寺にあるユーロヴィンテージ専門店「militaria」「encore」のショップスタッフ「きうてぃ」の二人組で活動する、ファッションYouTuber。高校時代から友人だった二人は、大学卒業後に入社したそれぞれの会社を退職し、現在の古着業へ。2018年8月にYouTubeチャンネルを開設し、主にヴィンテージ古着の魅力を定期的に発信するようになる。2020年10月現在、チャンネル登録者数は3万3000人を突破。ファッション雑誌やウェブメディアで取り上げられるなど、注目を集めている。



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「幸福度が高い」と言われる北欧の国々。その文化の土台にあるのが「クラフトマンシップ」と「最先端」です。

湖や森に囲まれた、豊かな自然と共生する考え方。長い冬を楽しく過ごすための、手仕事の工夫。

かと思えば、ITをはじめとした最先端の技術開発や福祉の充実をめざした、先進的な発想。

カルチャーマガジン「Fika(フィーカ)」は、北欧からこれからの幸せな社会のヒントを見つけていきます。

スウェーデンの人々が大切にしている「Fika」というコーヒーブレイクの時間のようにリラックスしながら、さまざまなアイデアが生まれる場所をめざします。

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