コムアイと北欧神話の専門家が語る。人々はなぜ自然を信仰する?

コムアイと北欧神話の専門家が語る。人々はなぜ自然を信仰する?

インタビュー・テキスト
黒田隆憲
撮影:垂水佳菜 編集:飯嶋藍子

自然界には他者の概念はないし、コントロールできない時間の流れの中を進んでいる。(コムアイ)

―森の中にいる動物たちは、木を「木」と認識していないからこそ森の一部でいられるけど、私たちは「木」や「動物」と名づけてしまったがために、自然と切り離されてしまったとも言えますよね。

コムアイ:そうなんです。自然界には他者の概念はないし、自分でコントロールできない時間の流れの中を、ワーッと進んでいるんじゃないかなって。善悪の判断を自分で下し、行くべき方向へ進もうとしたり、逆に悪のほうに惹かれてしまったりするのは、人間だけじゃないですか。

そういう概念のない世界が自然にはあって、私が森の中に入って木に触れている時に感じるのは、そういう世界の入口なのかなと。それと同時に、人間であることを忘れてしまうような場所へ、連れて行かれるようなちょっと怖い感覚もあるんですよね。

コムアイ

杉原:その感覚はわかります。屋久島でいちばん有名な木は「縄文杉」と名づけられていますが、木の立場からしたら名前なんてなくて。ただ森の中で特別大きかっただけの話なんですよね。その巨大な木に圧倒され、人間より遥かに長い年月を生きる生命に私たちが崇拝の念を抱くのは自然のことのように思います。

コムアイさんがおっしゃるように、人間も木も動物も、みんな繋がってこの世の中に生きていたのだと思います。縄文杉のような名前のある木を目指してその場所に行ったとしても、その周囲にある「名もない木」に心惹かれるかもしれません。先入観をなるべく捨てて歩き、自分の心に響く木を見つけられたらいいですね。

被爆樹木は御神木とは全く違う佇まいというか、悲しみを背負っているようにも見えて。(杉原)

―杉原さんは、広島で原爆を生きのびた木々「被爆樹木」を観に行くこともあるそうですね。

杉原:はい。被爆の傷痕を残す木々に会いに行き、木のそばで生きてこられた人々のお話を聴いています。これは広島城跡にあるユーカリの木の写真で。投下直後は枝も全て吹き飛ばされて、幹は焼け焦げてしまったのですが、そこから再生して、その後2度の台風で倒れながらもまた芽吹いて、ここまで、大きくなっています。ユーカリは、本来は空に向かってまっすぐ幹を伸ばす木なのですが、これは本当に……。

コムアイ:捻れていますよね。木が焼けるとこんなふうになるんだ。広島には、他にも被爆樹木はあるのですか?

広島城跡のユーカリの木(写真提供:杉原梨江子)
広島城跡のユーカリの木(写真提供:杉原梨江子)

杉原:この木のすぐ近くにマルバヤナギがありますよ。普通の柳と違って、葉が丸いのでマルバヤナギ。これは樹皮だけを残して幹の内側が空洞になっています。包帯のようなものを巻いているのは、これがないと割れてしまうからなんです。

こうした被爆樹木は、御神木や森の中の大樹とは全く違う佇まいというか、悲しみや恐怖を背負っているようにも見えて。もちろん、それは「被爆樹木」と名づけて、人間が勝手に感じていることであり、木は何事もなかったように毎年スクスクと育っているんですけどね。

被爆したマルバヤナギの木(写真提供:杉原梨江子)
被爆したマルバヤナギの木(写真提供:杉原梨江子)

―長崎にもやはり被爆樹木はあるのでしょうか?

杉原:長崎で有名なのは、山王神社の境内に立つ樹齢500年を超える2本のクスノキです。御神木としても祀られていて、地元でも愛されています。宮司さんたちがクスノキの姿を通して被爆の恐ろしさを伝えようとなさっていて、木のそばに階段がつけられ、被爆によってできた幹の空洞がのぞけるように工夫してあるんですよ。木と人間とが一緒に歴史を伝承していっているということだと思います。

被爆当時は「75年は草木も生えない」と言われていたんです。「もうこの土地には住めないんじゃないか」とみなさん不安に思われましたが、焼け焦げた木の幹から元気に芽吹いたり花を咲かせたりしている様子を見て「私たちもここで頑張ろう」と思い復興に尽力したという方々がたくさんいらっしゃいました。

山王神社のクスノキ(写真提供:杉原梨江子)
山王神社のクスノキ(写真提供:杉原梨江子)

長い生命を持つ巨大な木の姿を建物に取り入れることで、自分たちの健康や長寿を願ったのかも。(杉原)

―樹木崇拝は、北欧や日本だけでなく世界各国にもあるのでしょうか?

杉原:あります。たとえばインドネシアのバリ島では、ガジュマルが神様なんです。日本の神社と同じように、バリ島でも御神木の周りに祠があり、だんだん装飾物が増えて大きな建造物になっていったような寺院を多く見かけました。バリでは街路樹もガジュマルが多く、御神木には日本のしめ縄のように布が巻かれているんですよ。

杉原梨江子

―「ポレンの布」ですよね。白黒のギンガムチェック柄は、光と闇、善と悪、生と死を意味しており、世界はそのバランスで成り立っているというバリの人たちの世界観を象徴していると聞きました。

コムアイ:インドに行った時に、寺院が木を囲うように立てられているのを見ました。木のウロ、コブのような部分がペイントされていて、そこに触ろうと物凄い行列ができていて。ブッダも菩提樹の下で悟りを開きましたけど、ヒンドゥーの女神も、木の下でヴィーナという楽器を演奏している姿が描かれていて、そういうストーリーを通して「木」が聖なる存在になっているのかなとも思うんです。

杉原:確かにそうかもしれませんね。菩提樹は、その下でお釈迦様が悟りを開いたから聖樹になったのではなく、もともと崇拝の対象であった菩提樹だからこそ、お釈迦様はそこへ行って悟りを開いたのではないかと。今の私たちが想像する以上に自然がたくさんあって、自分たちが生まれる前から存在し、自分たちが死んだあとにも存在し続ける木に対して畏敬の念は、今よりも遥か昔にあったのではないかなと思います。

左から:コムアイ、杉原梨江子

―考えてみれば、木は自然界で最も背が高く大きな生物であり、建築物を生み出すはるか昔の人間が木に対して畏敬の念を抱くのは当然のことだったのかもしれないですね。

杉原:元をたどれば教会も木の形に似せて作られたと言われていて。巨大な木の周辺は自然の中で神聖な場所となり、そこに次第に神殿や教会が造られていった。長い生命を持つ巨大な木の姿を建物に取り入れることによって、自分たちの健康や長寿を願ったのかもしれないですよね。

たとえば北欧の森に多いモミや松などの針葉樹も、長く厳しい冬の間も木々が緑を絶やさないで、雪の中で堂々と立つ姿は命の輝きのように見えたと思うんです。家や家具を作ったり、食料や薬にもなるなど、木は生活に欠かせないものですし、畏敬の念を感じると同時に、家族の健康と幸せを守る存在として信頼していたと思います。

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書籍情報

『いちばんわかりやすい 北欧神話』
『いちばんわかりやすい 北欧神話』

2013年1月19日(土)発売
著者:杉原梨江子
価格:838円(税込)
発行:実業之日本社

プロフィール

コムアイ

歌手・アーティスト。1992年生まれ、神奈川育ち。ホームパーティで勧誘を受け歌い始める。「水曜日のカンパネラ」のボーカルとして、国内だけでなく世界中のフェスに出演、ツアーを廻る。その土地や人々と呼応してライブパフォーマンスを創り上げる。好きな音楽は世界の古典音楽とテクノとドローン。好きな食べ物は南インド料理とグミとガム。趣味は世界各地に受け継がれる祭祀や儀礼を見に行くこと。音楽活動の他にも、モデルや役者など様々なジャンルで活動している。

杉原梨江子(すぎはら りえこ)

文筆家。広島生まれ。日本の木の文化、世界の聖樹、花、薬草にまつわる伝承や神話、思想を研究。ライフワークとして、原爆、戦争、震災を生きのびた木々を訪ねて撮影し、当時の記憶がある人々から話を聴き取り、後世に伝える執筆、講演活動を続けている。日本文藝家協会会員。著書に『いちばんわかりやすい 北欧神話』『被爆樹巡礼~原爆から蘇ったヒロシマの木と証言者の記憶』(共に実業之日本社)、『自分を信じる 超訳「北欧神話」の言葉』(幻冬舎)、『神話と伝説にみる 花のシンボル事典』(説話社)等多数。

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