小倉悠加×神前暁が語る、映画界でポストクラシカルが示す存在感

小倉悠加×神前暁が語る、映画界でポストクラシカルが示す存在感

インタビュー・テキスト
黒田隆憲
編集:石澤萌(CINRA.NET編集部)

ヨハンとヒドゥル2人は「コラボレーター」というか、対等な関係だったと思いますね。(小倉)

―昨年、『アカデミー賞』に輝いた『ジョーカー』のサントラは、脚本を仕上げたトッド・フィリップス監督が、映像を付ける前にまず脚本からのインスピレーションでヒドゥル・グドナドッティルにスコアを書いてもらい、それを流しながら撮影を行ったと聞きました。普通はまず映像があって、そこに音楽を付けていくと思うのですが、神前さんは『ジョーカー』のようなサントラの作り方をしたことはありますか?

神前:「撮影に入る前に、参考曲としてメインテーマを作ってほしい」と言われたことはあります。実は『いなくなれ、群青』のときも、先にメインテーマをリクエストされたのですが、まだ自分自身が映画サントラの経験が少なかったので、ちょっとそれは怖いなと思って映像を先に撮っていただいたんです。監督の柳明菜さんにとっても長編デビュー作ではあったので、元になるイメージが欲しかったみたいなのですが。なので、あの『ジョーカー』のサントラが、映像よりも先にできていたというのは非常に驚きです。

映画『ジョーカー』トレーラー

作曲を担当したヒドゥル・グドナドッティルによる、『アカデミー賞』作曲賞受賞スピーチ

―だからこそ、ジョーカーの心情と完璧にシンクロした音楽になっていたのでしょうね。小倉さんはヒドゥルと面識はありますか?

小倉:ヒドゥルと初めて会ったのは、まだ彼女が芸術学校の学生だった2004年頃でした。当時は実験的な音楽をやる一方で、チェロの演奏だけでなくポップバンドでボーカルも披露していました。お父様がクラリネット奏者をされているのもあって、ずっと音楽に親しんできたと言っていましたね。

毎年10月に首都レイキャヴィクで開催されているアートフェス『Sequences』では、港にある倉庫の一角にブラスバンドを集めて指揮をとっていたこともありました。『アカデミー賞』などでご覧になった方も多いかと思うんですが、あのとおり人柄はとっても明るくておしゃべりで(笑)、ヨハンと一緒に東京に来たときもずっとお茶を飲んで話していたことを思い出します。

―ヒドゥルはヨハンに師事していたそうですよね。

小倉:彼女は「ヨハンの弟子」と紹介されることが多いですが「弟子」ではないと思います。あの2人は「コラボレーター」というか、対等な関係だったと思いますね。これは、アイスランドに住んでいる人ならみんな認めるんじゃないかな。ヨハンがアイデアに煮詰まっているときは、ヒドゥルが支えたこともたくさんあったはずです。もちろん、ヨハンの方が経験値は上だし人脈もたくさん持っているので、彼から教えられたことはたくさんあるとは思いますが、2人の間には「師弟関係」はなかったと思いますね。

(ヨハンが)不安そうに俯きながら「この間のアルバム聴いてくれた? 日本の人たちは気に入ってくれるかな……」って言うんです。(小倉)

―小倉さんはヨハン・ヨハンソンと個人的に交流も深かったそうですが、彼はどんな人物だったのでしょうか。

小倉:私は2003年に初めてアイスランドを訪れたのですが、最初に知り合ったミュージシャンの1人がヨハンでした。彼は、日本人である私がアイスランドの音楽に興味を持ち、遥々やってきたことにすごく興味を持ってくれたんですよね(笑)。さまざまな人に紹介してくれたし、今ある人脈の多くは彼が繋げてくれたものです。ヨハンにとっては、1stアルバム『Englabörn』(2002年)を4ADからリリースした頃。「これ聴いてくれる? どう思うか感想を聞かせてほしい」と言われて驚きました。

次にヨハンと会ったのは「12 Tónar」(アイスランドにあるレコード屋兼レーベル)だったんですけど、不安そうに俯きながら「この間のアルバム聴いてくれた? 日本の人たちは気に入ってくれるかな……」って言うんですよね。「気に入ってくれるし、きっと10年後には坂本龍一みたいな存在になっているよ!」と励ますように言ったことを、今でも覚えています。

小倉がヨハンと会話した「12 Tónar」店内の様子 / 撮影:黒田隆憲
小倉がヨハンと会話した「12 Tónar」店内の様子 / 撮影:黒田隆憲
1stアルバム『Englabörn』のリマスター版アルバム(2018年 / Apple Musicはこちら)。本作では坂本龍一らによるらとコラボレーションしている

―そんなことがあったんですね。

小倉:それから10年も経たないうちに、世界的な音楽家になりましたね。とても繊細な人でしたが、同時にすごくフレンドリーでもあって。道でばったり会うと「今からご飯を食べに行くけど一緒にどう?」って気軽に声をかけてくれたり、彼の自宅のスタジオを見学させてくれたりもしました。

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リリース情報

『神前 暁 20th Anniversary Selected Works “DAWN”』

2020年3月18日(水)発売
価格:4,290円(税込)
SVWC-70507~70509

プロフィール

神前 暁(こうさき さとる)

1974年9月16日生まれ、大阪府出身の作・編曲家、音楽プロデューサー。京都大学工学部卒。在学中は作曲サークル「吉田音楽製作所」に所属し、同人として活動を行なう。卒業後に株式会社ナムコ(現バンダイナムコエンターテインメント)に入社、サウンドクリエイターとして『鉄拳』シリーズや『太鼓の達人』シリーズ、『THE IDOLM@STER』など多数の作品に関わる。2005年にナムコを退社し、クリエイター集団MONACA(有限会社モナカ)に所属。アニメ『涼宮ハルヒの憂鬱』スタッフ参加をきっかけに注目を浴びる。

小倉悠加(おぐら ゆうか)

1970年代半ば洋楽に目覚め、高校時代アメリカへ留学。大学時代から来日アーティストの通訳に従事し、レコード会社勤務を経てフリーに。カーペンターズの解説・対訳の多くを手がけ、カーペンターズ研究家と呼ばれることも。2002年アイスランド音楽サイトのコンテンツ制作をきっかけに、以来、アイスランド文化を幅広く紹介。2017年からアイスランド在住。アイスランド・ミュージック・エクスポート(アイスランド産業省外郭団体)より、「アイスランド音楽大使」の名誉称号を受ける。

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