小倉悠加×神前暁が語る、映画界でポストクラシカルが示す存在感

小倉悠加×神前暁が語る、映画界でポストクラシカルが示す存在感

インタビュー・テキスト
黒田隆憲
編集:石澤萌(CINRA.NET編集部)

アイスランドの音楽は、押し付けがましくないのに、ちゃんと芯があって美しいんです。(神前)

―コンポーザーである神前さんから見た、アイスランドの音楽の魅力はどんなところにありますか?

神前:「抑制の効いた美しさ」だと思います。例えばジャズやR&Bの影響下にあるロックやポップスは、コードの力で展開させていったり、メロディによって記号的に主張したりすることが多いのですけど、アイスランドの音楽はそこが非常にナチュラルなんですよね。なかなか言葉で表現するのが難しいのですが、押し付けがましくないのに、ちゃんと芯があって美しいんです。

―おそらくそこが、日本人の琴線に触れる部分でもあるのかもしれないですね。

神前:そうですね。日本人の「侘び寂び」の感覚と近いものがある気がしています。

小倉:「押し付けがましくないのに、ちゃんと芯がある」はまさにその通りだと私も思います。アイスランドは北国なので、心がしっかりしてないと押し潰されてしまうんですよ。ちょうど今の季節(取材は5月末に実施)、アイスランドでは1日の日照時間が20時間まで伸びているんですけど、最も短いときは4時間しか陽が当たらない。そうすると道端にちょっとでも緑が生えていたり、小さな花が咲いていたりすると、心の中がふわーっと暖かくなるんです。そういう「静かな心の変化」のようなものは、ヨハンやSigur Rósの音楽の中にも息づいているんじゃないかと思うんですよね。

アイスランドの風景
アイスランドの風景
アイスランドの道端で咲く花
アイスランドの道端で咲く花

小倉:以前の取材でもお話ししたように(「ビョークは、アイスランド国民にとっての国民的歌手ではなかった」)、アウスゲイルくん(アイスランドのシンガーソングライター)が登場するまでアイスランドの音楽家たちは、自分たちがアイスランドの自然から影響を受けているということを否定していました。きっと、あまりにもそこを指摘されすぎて答えるのに辟易していたのでしょうね(笑)。でも、例えばビョークの音楽にはアイスランドの民謡や童謡の要素があるように、生まれ育った土地からの影響はやはり逃れられないものがあると思います。

―なるほど。

小倉:以前、アイスランド人の知人のがSigur Rósの音楽を聴いたときに「彼らの音楽はアイスランドの『風』だね」って言っていて。本人たちはもしかしたら気付かないところを、外から言われて気付くのかもしれない。神前さんが先日リリースされた、デビュー20周年記念盤を聴かせてもらったときには、やはり日本的なものを感じたんですよね。自分にとってすごく懐かしい感覚というか。

神前 暁『神前 暁 20th Anniversary Selected Works “DAWN”』全曲視聴メドレー

神前:聴いてくださってありがとうございます。小倉さんがおっしゃるように、僕自身も自分では気づかないところで日本の風土や季節から影響されて音楽を作っているのかもしれません。それを、外から言われて初めて客観視できるというか。

ポストクラシカルが持つ「テクスチャー」は、特に実写映像とは相性がいいと思っていて。(神前)

―実際に神前さんが、ポストクラシカル的なアプローチでサントラを作ったときのプロセスを教えてもらえますか?

神前:僕はいつもサントラを作るとき、ストーリーそのものというよりは、映像を観たときの「色」や「温度感」のようなものを重視しているんです。それに対し、音色やコード展開、演奏をいかに一体化させることができるか、馴染ませられるかを考えていますね。そういう意味でポストクラシカルが持つ「テクスチャー」は、特に実写映像とは相性がいいと思っていて。それはさっき小倉さんがおっしゃっていた、アイスランドの音楽家たちが自然からインスパイアされながら曲作りをしているということともつながるのかなと。

神前が作曲を手がけた実写映画『いなくなれ、群青』

小倉:そういった作り方は、普段のアニソンでのプロセスとは違いますか?

神前:アニソンでやっている派手なメロディやアレンジとは全く違いますね。もう少し引き算をしていって、必要な要素だけをじっくり配置していくような感じです。

―音数が少ないからこそ、映像と合わさったときに相乗効果が生まれるのでしょうね。ポストクラシカルの音楽が、サントラと相性が良い理由もそこにあるように気がします。

神前:おっしゃる通りです。基本的に実写の映像は、絵自体に情報量がものすごく多いので、それに対して音楽が雄弁に語り過ぎると喧嘩してしまうんですよ。逆にアニメの場合、絵なので限界がありますし、そこにお話が入ってきて成立する部分が大きい。さらに音楽や声優さんの演技で補強するというか。その違いはあると思います。

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リリース情報

『神前 暁 20th Anniversary Selected Works “DAWN”』

2020年3月18日(水)発売
価格:4,290円(税込)
SVWC-70507~70509

プロフィール

神前 暁(こうさき さとる)

1974年9月16日生まれ、大阪府出身の作・編曲家、音楽プロデューサー。京都大学工学部卒。在学中は作曲サークル「吉田音楽製作所」に所属し、同人として活動を行なう。卒業後に株式会社ナムコ(現バンダイナムコエンターテインメント)に入社、サウンドクリエイターとして『鉄拳』シリーズや『太鼓の達人』シリーズ、『THE IDOLM@STER』など多数の作品に関わる。2005年にナムコを退社し、クリエイター集団MONACA(有限会社モナカ)に所属。アニメ『涼宮ハルヒの憂鬱』スタッフ参加をきっかけに注目を浴びる。

小倉悠加(おぐら ゆうか)

1970年代半ば洋楽に目覚め、高校時代アメリカへ留学。大学時代から来日アーティストの通訳に従事し、レコード会社勤務を経てフリーに。カーペンターズの解説・対訳の多くを手がけ、カーペンターズ研究家と呼ばれることも。2002年アイスランド音楽サイトのコンテンツ制作をきっかけに、以来、アイスランド文化を幅広く紹介。2017年からアイスランド在住。アイスランド・ミュージック・エクスポート(アイスランド産業省外郭団体)より、「アイスランド音楽大使」の名誉称号を受ける。

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