ジャームッシュが新作ゾンビ映画で描くお気楽な人間の終末

ジャームッシュが新作ゾンビ映画で描くお気楽な人間の終末

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小野寺系
編集:矢澤拓(CINRA.NET編集部)

なぜいま、ゾンビを撮ったのか? パロディ化されがちなゾンビ映画を、創始者ロメロの意思へと回帰させる試み

それにしても、なぜジャームッシュは、いまになってゾンビ映画を撮ったのか。それは、本作の細かな描写を見ていくことで、徐々に分かってくることになる。

本作には、映画界にゾンビ映画をジャンルとして確立させるまでに至ったジョージ・A・ロメロ監督の『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』(1968年)や『ゾンビ』(1978年)との精神的つながりを示す要素が、いくつも見られる。例えば、『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』に登場した同型の乗用車が登場し、若者に「クラシックだよ」と言わせるように、ジャンル化されパロディとして扱われがちな現在のゾンビ映画でなく、「ロメロのゾンビ」への敬意を表明しながら、そこに回帰しようとする意志を示しているように感じられるのだ。

『ゾンビ ─日本初公開復元版─』 ©1978 THE MKR GROUP INC. All Rights Reserved.
『ゾンビ ─日本初公開復元版─』 ©1978 THE MKR GROUP INC. All Rights Reserved.

『ゾンビ』における、意志を失ったゾンビたちが、生前の習慣から、なんとなくショッピングモールに押し寄せてくるシーンが、大衆の心理やコマーシャリズムに乗せられている状況の皮肉として描かれていたのと同様、本作のゾンビたちも、商品名を唱えながら町を徘徊するなど、物欲の強さを見せつけている。

そもそも、本作におけるゾンビ発生などの超常現象の原因になっていたのは、企業による資源採掘によって地軸が傾いてしまったという、地球規模の重大事件が基にある。では、このゾンビの傾向と、採掘事業における事故という、2つの事態をあわせて考えてみよう。

人間が無理にでも資源を採掘しようとする理由は、産業革命以来、資本家による大量生産・大量消費のシステムを拡大させ、そのために大量の物質や燃料を必要とするという構図があるためだ。そのサイクルはエスカレートし、資本家は人間が生きるために必要とする物資の量をはるかに超えて、本来は必要ないような商品を開発・宣伝し、需要を生み出してきたところがある。そんな物質主義に踊らされて物を欲し続ける、自分の頭で考えられないゾンビのような大衆が増えることで、地球の資源は枯渇し、環境は破壊されていく。劇中では、そのような輪から逃れ得ている者として、トム・ウェイツが演じている、森に住み自給自足の生活を送っている男を登場させている。

トム・ウェイツ ©2019 Image Eleven Productions Inc. AllRights Reserved.
トム・ウェイツ ©2019 Image Eleven Productions Inc. AllRights Reserved.

このようなメッセージは、大筋では『ゾンビ』ですでに暗示されていたものだ。しかし、40年以上経った現代において、この種の問題は騒がれながらも、具体的に解決される見通しを人類は持ってはいない。さらに気候変動など深刻な事態を引き起こしているばかりか、市民の意識が後戻りしているところさえある。

それを象徴しているのが、スティーヴ・ブシェミ演じる、「トランプ支持者」を模した人物の存在であろう。周知の通り、環境問題においてドナルド・トランプは科学者の定説に反する意見を繰り返し、化石燃料を使用して積極的に経済活動を行うことを奨励している。ジャームッシュは、本作がトランプ支持者に嫌われるだろうという意味の発言をしているように、かなり政治的な意図を持って、本作を作り上げているのだ。

お気楽で悠長な内容だからこそ、コメディのような人間の終末を想起させる「恐怖映画」なのだ

本作の要素の一つとなっている環境問題はもちろん、国や人種、宗教の違う者たちの争いや、政治問題への対応など、人間が知恵を結集させれば回避することのできる悪夢のような未来は、そこまでやってきているかもしれない。そう、アダム・ドライバーに言わせているように、「悪い結末になりそう」な予感が、濃く漂っているのである。

このように、人類は身勝手な目先の欲望や無関心によって、自ら滅亡へと突き進んでいるように見える。そんな人類の姿は、見方によっては喜劇に感じられるところがある。『デッド・ドント・ダイ』は、いかにもなジャームッシュ映画のとぼけた雰囲気で、一見してお気楽に感じられる悠長な内容を描いているからこそ、じつは真に観客を戦慄させる恐怖映画になっているといえるのではないのか。このばかばかしい光景こそが、リアルな「終末」なのかもしれないのだ。

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作品情報

『デッド・ドント・ダイ』
『デッド・ドント・ダイ』

監督:ジム・ジャームッシュ
出演:
ビル・マーレイ
アダム・ドライバー
クロエ・セヴィニー
トム・ウェイツ
ティルダ・スウィントン
スティーヴ・ブシェミ
イギー・ポップ
製作国:スウェーデン・アメリカ

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