他者を断罪しないダルデンヌ兄弟が示す、排他せず混じり合う尊さ

他者を断罪しないダルデンヌ兄弟が示す、排他せず混じり合う尊さ

インタビュー・テキスト
相田冬二
監督写真:クリスティーヌ・プレニュス  編集:久野剛士(CINRA.NET編集部)

私たちは、映画から愛される存在なのか。ダルデンヌ兄弟の語る映画と観客のあり方

前代未聞のウイルスによって、私たちは世界的に「隔離」されている。こんなときこそ、文化の出番のはずだが、カルチャーに触れる自由はいま、確実に制限されている。これから先の未来は、これまで以上に、心が重要な時代になるだろう。そこで、あえて問いかけみた。「映画にできることって、なんですか?」と。

弟リュックはいった。「人の心が硬直化するのを防ぐことはできると思います」。では、「心を開く」ためにはどうしたらいいのだろうか? 兄ジャン=ピエールは答えた。

ジャン=ピエール:映画を観ることで、人はより大きくなれる。あなたの言葉を借りれば、映画は人の「心を開くことができる」と思います。アメッドの心が話しかけているんですよ。でも、私自身、映画にそんなことが可能かどうかはわかりませんでした。でも、この映画を観た観客から感想を聴いて、私自身の心も開かれました。きっと、映画というものを観たあとに、人は元の自分よりもっと人間的になっているはずで、観る前の自分から変わっているはずなんです。

『その手に触れるまで』場面写真 © Les Films Du Fleuve – Archipel 35 – France 2 Cinéma – Proximus – RTBF
『その手に触れるまで』場面写真 © Les Films Du Fleuve – Archipel 35 – France 2 Cinéma – Proximus – RTBF

そして彼は、ダルデンヌ兄弟の作品の、映画という創造物の、目も覚めるような真実を伝えてくれた。

ジャン=ピエール:映画監督なら、映画を作ったとき、この映画をみんなが好きになってくれたら嬉しいと思うでしょう。私たちはそうではなく、「この映画が、観客を好きになってくれるか?」を問います。観客がこれまで持っていた先入観を捨てることができるかどうか、映画そのものが観客を見て判断しているというわけです。

そして、このことに成功した日本人監督を私は知っています。小津安二郎監督です。彼の映画を観ると、観客は、人生に対して、愛に対して、人の優しさに対して「開かれた気持ち」になります。それはつまり、映画が観客のことを好きになった瞬間なのです。

はたして、私たちは「映画に愛される」存在だろうか?

このことを、いま一度考えなければいけない。映画を愛するだけではなく、映画に愛されるようになること。この認識と覚悟こそが、これからの世界を生きていく上で必要となるはずだ。

『その手に触れるまで』場面写真 © Les Films Du Fleuve – Archipel 35 – France 2 Cinéma – Proximus – RTBF
『その手に触れるまで』場面写真 © Les Films Du Fleuve – Archipel 35 – France 2 Cinéma – Proximus – RTBF
Page 3
前へ

公開情報

『その手に触れるまで』
『その手に触れるまで』

2020年6月12日(金)からヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館ほか全国で順次公開
監督・脚本:ジャン=ピエール&リュック・ダルデンヌ
出演:
イディル・ベン・アディ
オリヴィエ・ボノー
ミリエム・アケディウ
ヴィクトリア・ブルック
クレール・ボドソン
オスマン・ムーメン
上映時間:84分
配給:ビターズ・エンド

プロフィール

ジャン=ピエール&リュック・ダルデンヌ

ベルギー出身の兄弟、映画監督。兄のジャン=ピエールは1951年4月21日、弟のリュックは1954年3月10日にベルギーのリエージュ近郊で生まれる。リエージュは工業地帯であり、労働闘争のメッカでもあった。ジャン=ピエールは舞台演出家を目指して、ブリュッセルへ移り、そこで演劇界、映画界で活躍していたアルマン・ガッティと出会う。その後、ふたりはガッティの下で暮らすようになり、芸術や政治の面で多大な影響を彼から受け、映画製作を手伝う。原子力発電所で働いて得た資金で機材を買い、労働者階級の団地に住み込み、土地整備や都市計画の問題を描くドキュメンタリー作品を74年から製作しはじめる。同時に75年にはドキュメンタリー製作会社「Derives」を設立する。
78年に初のドキュメンタリー映画“Le Chant du Rossignol”を監督し、その後もレジスタンス活動、ゼネスト、ポーランド移民といった様々な題材のドキュメンタリー映画を撮りつづける。86年、ルネ・カリスキーの戯曲を脚色した初の長編劇映画「ファルシュ」を監督、ベルリン、カンヌなどの映画祭に出品される。92年に第2作「あなたを想う」を撮るが、会社側の圧力により、妥協だらけの満足のいかない作品となった。
第3作『イゴールの約束』では決して妥協することのない環境で作品を製作、カンヌ国際映画祭国際芸術映画評論連盟賞をはじめ、多くの賞を獲得し、世界中で絶賛された。第4作『ロゼッタ』はカンヌ国際映画祭コンペティション部門初出品にしてパルムドール大賞と主演女優賞を受賞。本国ベルギーではこの作品をきっかけに「ロゼッタ法」と呼ばれる青少年のための法律が成立するほどの影響を与え、フランスでも100館あまりで上映され、大きな反響を呼んだ。第5作『息子のまなざし』で同映画祭主演男優賞とエキュメニック賞特別賞を受賞。第6作『ある子供』では史上5組目(他4組はフランシス・F・コッポラ、ビレ・アウグスト、エミール・クストリッツァ、今村昌平、12年にミヒャエル・ハネケ、16年にケン・ローチが2度目の受賞)の2度のカンヌ国際映画祭パルムドール大賞受賞者となる。第7作『ロルナの祈り』で同映画祭脚本賞、第8作『少年と自転車』で同映画祭グランプリ。史上初の5作連続主要賞受賞の快挙を成し遂げた。第9作『サンドラの週末』では主演のマリオン・コティヤールがアカデミー賞®主演女優賞にノミネートされた他、世界中の映画賞で主演女優賞と外国語映画賞を総なめにした。アデル・エネルを主演に迎えた第10作『午後8時の訪問者』もカンヌ国際映画祭コンペティション部門に出品。そして、第11作『その手に触れるまで』も同映画祭コンペティション部門に8作品連続出品という前人未到の快挙を達成し、さらに監督賞も受賞。本受賞により、審査員賞以外の主要賞受賞の偉業を成し遂げた。
近年では共同プロデューサー作品も多く、マリオン・コティヤールと出会った『君と歩く世界』の他、『ゴールデン・リバー』『プラネタリウム』『エリザのために』などを手掛けている。他の追随をまったく許さない、21世紀を代表する世界の名匠である。

Category カテゴリー

Latest Articles 最新の記事

What's "Fika" ? フィーカとは

「Fika」はCINRA.NETとVOLVOが送る、北欧カルチャーマガジンです。北欧デザインの思想の基盤を「クラフトマンシップ×最先端技術」と捉え、そこに学びながら、これからのカルチャーやライフスタイルにまつわるコンテンツをお届けします。