オラファー・エリアソンが語る、分断や孤独で揺れる現実への回答

オラファー・エリアソンが語る、分断や孤独で揺れる現実への回答

東京都現代美術館『オラファー・エリアソン ときに川は橋となる』
インタビュー・テキスト
島貫泰介
編集:宮原朋之(CINRA.NET編集部)

私たちはもっと自分自身の内側を見つめるべきだ。人生には深い意味がある。(オラファー・エリアソン)

最後に、展覧会のタイトルにもなっている、世界初公開の新作『ときに川は橋となる』(2020年)について触れておきたい。

空間に垂らした暗幕のなか、床面に設置されているのは水が張られた大きなシャーレ。繊細に動く水面に向けて12のスポットライトが照射され、その反射された写像は上部にある円形のスクリーンに投影される。

映し出された像は、水面に起きるさざなみによって、自在にかたちを変え、心電図のパルスのような幾何学的なパターンを生み出す。それらをじっと眺めているだけで、気づかぬうちに時間は過ぎ去っていく。

『ときに川は橋となる』(2020年) / 『オラファー・エリアソン ときに川は橋となる』展示風景 2020 東京都現代美術館 / Courtesy of the artist; neugerriemschneider, Berlin; Tanya Bonakdar Gallery, New York / Los Angeles Photo: Kazuo Fukunaga © 2020 Olafur Eliasson
『ときに川は橋となる』(2020年) / 『オラファー・エリアソン ときに川は橋となる』展示風景 2020 東京都現代美術館 / Courtesy of the artist; neugerriemschneider, Berlin; Tanya Bonakdar Gallery, New York / Los Angeles Photo: Kazuo Fukunaga © 2020 Olafur Eliasson

エリアソン:作品『ときに川は橋となる』も、私自身の長い探索から生まれた作品です。アナログ的な考えで「波」を見るとき、私たちはそこには単一のパターンのみを見出そうとしてしまいます。

しかし、周波数や波長などのさまざまな要素によって生まれる複雑な現象がそこにはあります。そして、重要なのが「時間」についての思考です。「波」はスローモーションのように見えますが、実際にはまさにこの瞬間に起きている事象なのです。

以下に紹介する展覧会のタイトルについての思索的なコメントは、彼が持つ「時間」や「世界」に対する認識を理解する手がかりになるかもしれない。

エリアソン:『ときに川は橋となる』という言葉には、見えないものを可視化するという意味があります。例えば、ある問いへの答えを見つけようとするとき、私たちは決められた特定の方法に固執し執着してしまいがちです。しかし、実際にはもっと他の解決策も存在するということ、その可能性にこそ目を向けるべきではないでしょうか。

「川」は過去の多くの詩に出てくるように、現実や命、時間を象徴するものです。一方で、「橋」は内面に対する外部。外側を見ること、外側に通じるものです。つまり「川が橋になる」とは、このようなことを示唆しているのです。

なにか答えを探すときには、外側を見るだけではなく、もっと自分自身の内面、人生を顧みなければならない。私たちはもっと自分自身の内側を見つめるべきだ。人生には深い意味がある。

『ときに川は橋となる』(2020年) / 『オラファー・エリアソン ときに川は橋となる』展示風景 2020 東京都現代美術館 / Courtesy of the artist; neugerriemschneider, Berlin; Tanya Bonakdar Gallery, New York / Los Angeles Photo: Kazuo Fukunaga © 2020 Olafur Eliasson
『ときに川は橋となる』(2020年) / 『オラファー・エリアソン ときに川は橋となる』展示風景 2020 東京都現代美術館 / Courtesy of the artist; neugerriemschneider, Berlin; Tanya Bonakdar Gallery, New York / Los Angeles Photo: Kazuo Fukunaga © 2020 Olafur Eliasson

『ときに川は橋となる』の上空に浮かぶ12の波の写像は、波そのものではない。しかしシャーレのなかの水面に目をこらしてみても、その実際の動きや時間を捉えることはほとんどできない。そのとき、じつは私たちはこのようなリフレクション(反映)の現象を通して、世界や社会の多くの実相に接していることに気づかされるのだ。

もちろん、リフレクションを通してしか知覚できないことのもどかしさもある。不可視のウイルスや数値上の存在でしかないカネによって人々の心が千々に乱される現在において、エリアソンの機械的な装置によって代替的に視覚化された光や影の動きやかたちの幻惑は手品師のトリックのように美しいが、私たちを目くらましするような危うさも秘めている。

だが、そのようなリフレクションの両義性は、私たちに「想像する力」を持つ機会を与えてもくれる。不可視のもの。情報だけで知った気になってしまう、遠く離れた別の場所。社会構造によって見えないことにされてしまっている他者の生。そういったものを想像し、そして創造的にコネクトすることの必要をエリアソンは訴えようとしているのではないだろうか。

2020年4月7日、日本では緊急事態宣言が発令され、東京や大阪などの美術館、劇場の休止のさらなる延長が決まった。多くの人々がその再開を待ち望んでいるが、東京都現代美術館のなかに設えられたエリアソンの作品群も、観客の目に触れる瞬間を待ち望んでいるはずだ。

『太陽の中心への探査』(2017年) / 『オラファー・エリアソン ときに川は橋となる』展示風景 2020 東京都現代美術館 / Courtesy of the artist and PKM Gallery, Seoul Photo: Kazuo Fukunaga © 2020 Olafur Eliasson
『太陽の中心への探査』(2017年) / 『オラファー・エリアソン ときに川は橋となる』展示風景 2020 東京都現代美術館 / Courtesy of the artist and PKM Gallery, Seoul Photo: Kazuo Fukunaga © 2020 Olafur Eliasson
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イベント情報

『オラファー・エリアソン ときに川は橋となる』
『オラファー・エリアソン ときに川は橋となる』

未定~2020年6月14日(日)
会場:東京都 清澄白河 東京都現代美術館
料金:一般 1,400円 / 大学・専門学校生・65歳以上 1,000円 / 中学・高校生 500円 / 小学生以下無料
休館日:月曜日、5月7日

※東京都現代美術館では、東京都の方針に則り、新型コロナウイルス感染症の感染拡大を防止する観点から、2020年5月6日(水・祝)まで臨時休館を延長させていただきます。最新の実施情報については、ウェブサイトをご確認ください

プロフィール

オラファー・エリアソン

1967年、コペンハーゲン(デンマーク)生まれ。現在、ベルリンとコペンハーゲンを拠点に活動。アイスランドとデンマークで生まれ育ち、1989年から1995年までデンマーク王立美術アカデミーで学ぶ。1995年、ベルリンに渡り、スタジオ・オラファー・エリアソンを設立。スタジオは現在、技術者、建築家、研究者、美術史家、料理人等、100名を超えるメンバーで構成されている。2014年、建築家のセバスチャン・ベーマンと共同でスタジオ・アザー・スペーシズを設立。光や水、霧などの自然現象を新しい知覚体験として屋内外に再現する作品を数多く手がけ、世界的に高く評価されている。テート・モダン(ロンドン)で発表した『ウェザー・プロジェクト』(2003年)やニューヨークのイースト川に人工の滝を出現させたパブリックアート・プロジェクト(2008年)等、大規模なインスタレーションで広く知られている。近年は、電力にアクセスできない地域に住む人びとに届けられる携帯式のソーラーライト「リトルサン」(エンジニアのフレデリック・オッテセンと共同開発)や、グリーンランドから溶け落ちた巨大な氷を街なかに展示することで人びとに気候変動を体感させる「アイス・ウォッチ」(地質学者のミニック・ロージングとの共同プロジェクト)といった社会的課題をめぐる取り組みにも力を注いでいる。日本での主な個展は原美術館(2005年、東京)、金沢21世紀美術館(2009~10年、石川)がある。(プロフィール提供:東京都現代美術館)

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