オラファー・エリアソンが語る、分断や孤独で揺れる現実への回答

オラファー・エリアソンが語る、分断や孤独で揺れる現実への回答

東京都現代美術館『オラファー・エリアソン ときに川は橋となる』
インタビュー・テキスト
島貫泰介
編集:宮原朋之(CINRA.NET編集部)

展覧会『ときに川は橋となる』でオラファー・エリアソンが試みた、自然環境に対する2つのこと

本来は2020年3月14日に東京都現代美術館でスタートする予定だった彼の個展『オラファー・エリアソン ときに川は橋となる』も、他の展覧会やコンサート同様に、あらゆる準備が整っているにもかかわらず、凍結状態の憂き目に遭っている。そんな中、個別に行われた取材をもとにその内容を紹介していく。

『オラファー・エリアソン ときに川は橋となる』 会期:未定~2020年6月14日(日) 会場:東京都現代美術館 ※東京都現代美術館では、東京都の方針に則り、新型コロナウイルス感染症の感染拡大を防止する観点から、2020年5月6日(水・祝)まで臨時休館を延長させていただきます。最新の実施情報については、ウェブサイトをご確認ください
『オラファー・エリアソン ときに川は橋となる』 会期:未定~2020年6月14日(日) 会場:東京都現代美術館 ※東京都現代美術館では、東京都の方針に則り、新型コロナウイルス感染症の感染拡大を防止する観点から、2020年5月6日(水・祝)まで臨時休館を延長させていただきます。最新の実施情報については、ウェブサイトをご確認ください(サイトを見る

今回展示されるのは、主に2010年代後半に発表された作品で、新作も多く含まれている。例えば『クリティカルゾーンの記憶(ドイツ−ポーランド−ロシア−中国−日本)no.1-12』は、この展覧会の性質を明快に象徴している。

木枠に収められた12点の円形の紙の上には、ボールペンによるドローイングが描かれている。12種類の描線は、それぞれの密度やかたちを少しずつ異にしている。

『クリティカルゾーンの記憶(ドイツ-ポーランド-ロシア-中国-日本)no. 1-12』部分(2020年) / 『オラファー・エリアソン ときに川は橋となる』展示風景 2020 東京都現代美術館 / Courtesy of the artist; neugerriemschneider, Berlin; Tanya Bonakdar Gallery, New York / Los Angeles Photo: Kazuo Fukunaga © 2020 Olafur Eliasson
『クリティカルゾーンの記憶(ドイツ-ポーランド-ロシア-中国-日本)no. 1-12』部分(2020年) / 『オラファー・エリアソン ときに川は橋となる』展示風景 2020 東京都現代美術館 / Courtesy of the artist; neugerriemschneider, Berlin; Tanya Bonakdar Gallery, New York / Los Angeles Photo: Kazuo Fukunaga © 2020 Olafur Eliasson

この作品、じつは作家が描いたものではなく、さらには人間が描いたものですらない。木枠の内側に紙とドローイングマシンをセットして梱包し、作家のスタジオのあるドイツから東京へと輸送される過程で起こる「振動」によって描かれた、ノンヒューマンな絵画なのだ。個別取材中に行われた遠隔での質疑応答で、エリアソンはこのように語る。

エリアソン:今回の展示の大きなトピックは「自然の探索、自然との関係性」です。ソーラー電池やリサイクル素材を使ったもの、発泡スチロールやプラスチックを使わない方法、自然現象からインスパイアされた作品など、さまざまな方法を通じて環境問題を定義しようと試みています。

そしてもう1つのトピックは、いかに環境に配慮した展覧会にするか、です。そのなかの試みとして飛行機を使わない作品輸送があります。これは、私たちのスタジオにとっても、そして運送会社や(作品の保険を担う)保険会社にとっても新しいチャレンジでした。

『クリティカルゾーンの記憶(ドイツ-ポーランド-ロシア-中国-日本)no. 10』(2020年) / 『オラファー・エリアソン ときに川は橋となる』展示風景 2020 東京都現代美術館 / Courtesy of the artist; neugerriemschneider, Berlin; Tanya Bonakdar Gallery, New York / Los Angeles Photo: Kazuo Fukunaga © 2020 Olafur Eliasson / 「クリティカルゾーン」とは、土壌や水、大気、生物などの複雑な相互作用の循環がある地球の表層部分を指す言葉
『クリティカルゾーンの記憶(ドイツ-ポーランド-ロシア-中国-日本)no. 10』(2020年) / 『オラファー・エリアソン ときに川は橋となる』展示風景 2020 東京都現代美術館 / Courtesy of the artist; neugerriemschneider, Berlin; Tanya Bonakdar Gallery, New York / Los Angeles Photo: Kazuo Fukunaga © 2020 Olafur Eliasson / 「クリティカルゾーン」とは、土壌や水、大気、生物などの複雑な相互作用の循環がある地球の表層部分を指す言葉

エリアソン:この『クリティカルゾーンの記憶』というタイトルが示しているように、この作品はベルリン、ロシア、中国を経由して輸送されました。また、展覧会に関わる人員の移動も最小限にする予定でしたが、結果としてスタジオから日本に出張するスタッフの数もゼロになったのは思わぬ成果です。

これは、現在のウイルス流行によるものではありますが、長年私たちが模索していた「(我々は)いかにして自然と共同制作者になれるか?」という問いの、1つの回答がこの展覧会であると思っています。

『クリティカルゾーンの記憶(ドイツ-ポーランド-ロシア-中国-日本)no. 1-12』(2020年)のための試作 / Courtesy of the artist; neugerriemschneider, Berlin; Tanya Bonakdar Gallery, New York / Los Angeles Photo: Jens Ziehe © 2020 Olafur Eliasson / 作品は最初にトラックでベルリンからハンブルクへ、次に列車でポーランドのマラシェビツェにある貨物港の駅、ロシアのザバイカルスク、そして中国の太倉市の港に移動し、そこで日本への船に積み込まれた
『クリティカルゾーンの記憶(ドイツ-ポーランド-ロシア-中国-日本)no. 1-12』(2020年)のための試作 / Courtesy of the artist; neugerriemschneider, Berlin; Tanya Bonakdar Gallery, New York / Los Angeles Photo: Jens Ziehe © 2020 Olafur Eliasson / 作品は最初にトラックでベルリンからハンブルクへ、次に列車でポーランドのマラシェビツェにある貨物港の駅、ロシアのザバイカルスク、そして中国の太倉市の港に移動し、そこで日本への船に積み込まれた

エリアソンの言う「自然との共同制作」の「自然」が意味するのは、もちろん森や水といった具体的な自然のことだ。

エリアソン:私が生まれ育ったアイスランドは、豊かな自然に恵まれ、私自身に多くの意味を与えてくれました。アイスランドには氷が多く、他の土地と比べて生物はゆるやかに育っていきます。

それゆえに小さな変化にも敏感で、現在の気候変動の影響を最初に受けるのはアイスランドではないかと言われてもいる。こういった自然の豊穣さと脆弱さへの感性が、私を形成しているのです。

アイスランドでの過去20年間の氷河の大きな変化が目に見えるかたちで示される『溶ける氷河のシリーズ 1999/2019』(2019年) / 『オラファー・エリアソン ときに川は橋となる』展示風景 2020 東京都現代美術館 / Courtesy of the artist; neugerriemschneider, Berlin; Tanya Bonakdar Gallery, New York / Los Angeles Photo: Kazuo Fukunaga © 2020 Olafur Eliasson
アイスランドでの過去20年間の氷河の大きな変化が目に見えるかたちで示される『溶ける氷河のシリーズ 1999/2019』(2019年) / 『オラファー・エリアソン ときに川は橋となる』展示風景 2020 東京都現代美術館 / Courtesy of the artist; neugerriemschneider, Berlin; Tanya Bonakdar Gallery, New York / Los Angeles Photo: Kazuo Fukunaga © 2020 Olafur Eliasson

一方で、おそらく彼は自然の意味するところを、もう少し広い視野で捉えてもいるようだ。もう1つの故郷であるデンマークや、現在の拠点としているドイツについて、このように付け加える。

エリアソン:福祉国家としてのデンマーク、そして作家として25年間を過ごしてきたドイツのEUの連帯を結びつける役割。前者の包摂性、市民活動、公的セクターの活躍や、後者が持っている変化する力もまた、私に大きな影響を与え続けています。

日本のアニミズムやスピリチュアリティーにも通じるような自然に共感する力を、彼のこれまでの作品から見出すことは難しくないだろう。特筆すべきは、そういった自然への感覚が今日的な社会や政治の問題に接続され、とくにこの数年の活動において中軸的な役割を果たしていることだ。

日本でも刊行された書籍『スタジオ・オラファー・エリアソン キッチン』にあるように、彼は自身のスタジオに野菜を中心とする共同キッチンを開いた。スタジオのスタッフにゲストを加えた約100人がともに食事をする共時性・共同性自体が、ある種の社会の縮図のようにも思える。そこで8年間働いたアーティストで料理人でもある岩間朝子は下記のように語っている。

スタジオにはたくさんの人がいて、ひとりひとりが創造的なアーティスト。彼らのインスピレーションやアイデアがどのようにオラファーに吸収され、作品になっていくのかがとても興味深かった。私にはそれもある種「食べられる」ことのように感じられた。資本主義の仕組みにはそういう要素がすごくある(「岩間朝子による食のワークショップ・レポート 食材の自己採集から考える、「食べる」ということ」、AXIS Web Magazineより

そこに生起する「食べる」「食べられる」のサイクル自体が、資本主義のネットワークが張り巡らされた現代における自然を再考するための場でもあるかのようだ。

『スタジオ・オラファー・エリアソン キッチン』美術出版社刊
『スタジオ・オラファー・エリアソン キッチン』美術出版社刊(Amazonで見る

エリアソンは、自身のスタジオを構築していくなかで、アーティストだけでなく、歴史家、建築家、エンジニア、料理人など、「アート」を専門としない人々を積極的に採用してきた。彼にとって多種多様な人々が集う生態系自体が「自然」なのであり、そして「社会」なのだろう。

エリアソン:私は、自分のことを第一にアーティストだと思っています。それは私の職業ですからね。しかし一方では市民社会の一員であって、まったく特別な存在ではないのです。みなさんと同じく、私には世界に生きるものとして責任がある。

だからこそ、政治や建築、社会や政策の安定、グローバリティ、社会福祉などへの興味を持ち続けています。そして、それがアーティストとしての私を形成しているんです。

『サステナビリティの研究室』 / 『オラファー・エリアソン ときに川は橋となる』展示風景 2020 東京都現代美術館 / Courtesy of the artist / Photo: Kazuo Fukunaga © 2020 Olafur Eliasson
『サステナビリティの研究室』 / 『オラファー・エリアソン ときに川は橋となる』展示風景 2020 東京都現代美術館 / Courtesy of the artist / Photo: Kazuo Fukunaga © 2020 Olafur Eliasson
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イベント情報

『オラファー・エリアソン ときに川は橋となる』
『オラファー・エリアソン ときに川は橋となる』

未定~2020年6月14日(日)
会場:東京都 清澄白河 東京都現代美術館
料金:一般 1,400円 / 大学・専門学校生・65歳以上 1,000円 / 中学・高校生 500円 / 小学生以下無料
休館日:月曜日、5月7日

※東京都現代美術館では、東京都の方針に則り、新型コロナウイルス感染症の感染拡大を防止する観点から、2020年5月6日(水・祝)まで臨時休館を延長させていただきます。最新の実施情報については、ウェブサイトをご確認ください

プロフィール

オラファー・エリアソン

1967年、コペンハーゲン(デンマーク)生まれ。現在、ベルリンとコペンハーゲンを拠点に活動。アイスランドとデンマークで生まれ育ち、1989年から1995年までデンマーク王立美術アカデミーで学ぶ。1995年、ベルリンに渡り、スタジオ・オラファー・エリアソンを設立。スタジオは現在、技術者、建築家、研究者、美術史家、料理人等、100名を超えるメンバーで構成されている。2014年、建築家のセバスチャン・ベーマンと共同でスタジオ・アザー・スペーシズを設立。光や水、霧などの自然現象を新しい知覚体験として屋内外に再現する作品を数多く手がけ、世界的に高く評価されている。テート・モダン(ロンドン)で発表した『ウェザー・プロジェクト』(2003年)やニューヨークのイースト川に人工の滝を出現させたパブリックアート・プロジェクト(2008年)等、大規模なインスタレーションで広く知られている。近年は、電力にアクセスできない地域に住む人びとに届けられる携帯式のソーラーライト「リトルサン」(エンジニアのフレデリック・オッテセンと共同開発)や、グリーンランドから溶け落ちた巨大な氷を街なかに展示することで人びとに気候変動を体感させる「アイス・ウォッチ」(地質学者のミニック・ロージングとの共同プロジェクト)といった社会的課題をめぐる取り組みにも力を注いでいる。日本での主な個展は原美術館(2005年、東京)、金沢21世紀美術館(2009~10年、石川)がある。(プロフィール提供:東京都現代美術館)

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