
浪曲師・玉川太福の話芸「日常は生き別れ親子の再会に劣らない」
- インタビュー・テキスト
- 町田ノイズ
- 撮影:寺内暁 取材協力:西浅草 黒猫亭 編集:矢澤拓(CINRA.NET編集部)
浪曲界の未来は。次の時代へと進展させる玉川太福の反抗
―これは太福さんにこそお訊きしたいのですが、「これからの浪曲界はこういったものが必要になる」と思うことはありますか。
太福:いっぱいありすぎます(笑)。たとえば定席でいえば、ご常連にだけ向けた意識になっちゃって、「浪曲を知らない人が来てるかもしれない」という意識が失われているんですよね。寄席なんだから、不特定多数の浪曲に馴染みのない方も来てるという意識を持てばいろんなことが変わると思います。あとは番組全体、その日の出演者がチームプレーでお客様を満足させるっていう意識が寄席には必須なんですが、(浪曲は)控えめな芸ではないので「自分が! 自分が!」っていう風にどうしてもなっちゃう。
―私は先日神田伯山先生の披露興行に行ったんですけど、伯山先生きっかけで初めて寄席に来たお客さんが大多数なので、最初はどうしても慣れてないというか、反応が静かで。
太福:そう、そうなのよ。
―でもそこで若手や中堅どころの出演者さんたちが風穴開けて空気をかき回して、後半に出てくる大御所の方々はトリの伯山先生のために引きの高座に徹して。落語・講談は究極の個人芸だけど、主任の演者さんのために全員で襷を繋いでいく寄席という形に感動しました。
太福:芸質の違いはあるんですが、浪曲の場合は、トリの前にがっつり重いものをやって、持ち時間も守らない、みたいな光景がしょっちゅうで。私が木馬亭の番組を作っていた時なんですが、総会で全会員に向かって「持ち時間を守ってください!」って言ったら、「その通り!」「よく言った!」みたいに拍手が起きました(笑)。寄席全体で見て良かったらまた来てくれるし、その中で「この人もうちょっと聴きたいな」と思ったら独演会に来てくれるだろうし。寄席ってショーケースですからね。
―太福さんのような若手でいろんな場所に出向いて頑張っている方の、これからの活躍もより重要になっていきますね。
太福:浪曲をまだ聴いたことがないお客さんの前に出て行く機会をいただいているっていうのはすごく感じています。今の自分の実力とか、芸の力とか、元々持ってる指向性とかでいうと、やっぱり私はまずは新作をぶつけていくでしょうね。その一方で、新作に負けない強度と間口を備えた古典を身に付けたい。自分ができる精一杯の浪曲のアピールは、自分しかできない形でやっていこうと思います。
講演情報
プロフィール

- 玉川太福(たまがわ だいふく)
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1979年生まれ、新潟出身の浪曲師。2007年に玉川福太郎に入門し、2013年に名披露目。2015年に『第1回渋谷らくご創作大賞』、2017年に『第72回文化庁芸術祭』大衆芸能部門新人賞を受賞した。2017年から創作話芸ユニットのソーゾーシーに参加。2019年からJFN『ON THE PLANET』火曜パーソナリティーを担当。サウナ・スパ健康アドバイザー。