フォロワー100万人超のミスターヤバタンが追い求める笑いの高み

「本当にびっくりしたー!」のセリフでおなじみ、ミスターヤバタンは、ノルウェー出身のコメディアン。テンション高めのキャラクターで日本各地に出向いては、街中の人々と触れあい、日本のカルチャーや風物詩を面白おかしく紹介する動画をSNSに投稿している。

これまでSNS上で公開した動画は100本以上。現在、Instagramのフォロワーは46万6000人、TikTokでは100万人以上ものフォロワーを抱え、街を歩けば若者から「あ、ヤバタン!」と声をかけられるほどの人気ぶりだ。

ミスターヤバタンの動画は、いつも笑顔にあふれ、そして見た人をまた、笑顔にする。このように愛されるキャラクターと、彼の「笑い」のスタイルは、一体どのようにして生まれたのだろうか? そもそもなぜ彼は、日本を活動の地に選び、日本語でお笑いをやり始めたのか。「日本の芸人になりたい」と語る彼の想いを聞いた。

私の目標は日本人を笑わせること。他の国でバズってもあまり満足はできませんでした。

―そもそも、ヤバタンさんはなぜ日本に興味を持ったんですか?

ヤバタン:まだノルウェーにいた高校生の時、たまたま、『ガキ使』(『ダウンタウンのガキの使いやあらへんで!』)の「笑ってはいけないシリーズ」の動画を見たんです。昔から演技などを勉強していたので世界中のコメディを見ていましたが、こういうお笑いは見たことがなくて「何これ!? すごい面白い!」と思って興奮したんです。構成がしっかり練られたお笑いが新鮮で。

ミスターヤバタン

―その後、実際に日本にいらっしゃったんですね。

ヤバタン:『ガキ使』をきっかけに、日本の音楽、映画などにも興味を持つようになって、2012年に初めて日本を2週間旅行したんです。そこで、お笑い以外にもいろんな文化や人に実際に触れて、「ああ、やっぱり日本が好きだ!」と思ったので、2013年に改めて日本に来て、半年ほど日本語学校に通いました。

―その時から、日本でお笑いをやろうと考えていたんですか?

ヤバタン:はい。いつか日本でお笑いをやりたいと思ってました。それで2014年から、Instagramに動画を投稿し始めたんです。その時はまだ、今のヤバタンのキャラクターはなくて、モノマネとか『ガキ使』の真似みたいなことをしていて。

―そこからヤバタンさんがSNSでブレイクするまで少し時間があいていますが、どんな活動をしていたのですか?

ヤバタン:日本語学校に行ったあとは、一度ノルウェーに帰ったんですけど、2017年春にワーホリで、また日本に来て。最初は芸能のフィールドに入るために役者のオーディションばかり受けていたんですけど、全然受からなくてお金がなくなってしまったんです。

だから、英会話の先生と保育園の先生の仕事をかけもちして、仕事のあとに動画を作る、という生活でした。けっこう忙しくて大変で、動画を作っていても、見てくれる人が全然いなかったから、もう辞めようと思うこともありました。

―そうだったんですね。そんな状態からなぜ動画に力を入れて取り組むようになったんでしょう?

ヤバタン:当時住んでいたシェアハウスの外国人の友だちが、私の動画を見て「すごい面白いよ!」と言ってくれたんです。それでちょっと自信を持つことができて。

―「面白い」と言ってもらえたのは、どんな動画だったんですか?

ヤバタン:イギリス人のモノマネをした動画です。これは実は2017年の8月に、オーストラリアですごいバズったんです。それはもちろん嬉しかったけど、私の目標は日本人を笑わせることだったから、他の国でバズってもあまり満足はできませんでした。

緻密なお笑いに慣れている日本人を笑わせることに挑戦したかったんです。

―世界でバズっても、なぜ日本人を笑わせたいと思っていたんですか?

ヤバタン:日本のお笑いの特別なポイントは、アメリカやヨーロッパに比べて、下ネタが少ないことだと思っていて。下ネタで笑わせるのは簡単ですけど、日本のお笑いは、下ネタなしでどうやってみんなを笑わせるか、ちゃんとネタを練って考えないといけない。

私はそこが好きなんです。そういった緻密なお笑いに慣れている日本人を笑わせるのは、私にとってとてもハードルの高いことだから、あえてそこに挑戦したかったんです。

―そこからどのようにして日本人にウケる動画にたどり着いたのでしょうか?

ヤバタン:イギリス人の動画がバズったことで、「じゃあいろんなキャラクターをやってみよう」と思い、フランス人とイタリア人の動画を続けて作りました。私、もともとモノマネが好きで、日本語学校の頃に、いろんな国のクラスメイトたちのモノマネをしてたんです。みんなの発音がユニークで特徴があって、僕は面白いと思ったから。

そしたら、奈良公園で撮ったフランス人の動画が、イギリス人の動画よりももっとウケて。だから、このキャラクターで色々やってみよう、と思いました。

―それが現在の「ミスターヤバタン」につながるんですね。その後公開された「イルミネーションに感動する外人!」という動画は、2017年12月にSNS上で大きな反響を呼びました。

ヤバタン:これはずっと前からあたためていたネタで。イルミネーションの場所はたくさんの人で賑わっていて、私がカメラに向かって「本当にびっくりしたー!」と言ったら、周りの人がすごい笑ってくれたんです。この時初めて、動画を撮影しながら日本の人たちと会話をしたら、日本の方たちのリアクションとかもすごく面白くて。

11月に撮影したあと、イルミネーションのネタだし、これはクリスマス向けの動画だと思ったので、12月まで待ってからInstagramにアップしたんですけど……何も起きなかった。

―え? 何も?

ヤバタン:何も。でもそのあと、突然Instagramで日本人のフォロワーがめっちゃ増えたんです。「すごい面白いです」とか「大好きです」とかDMもめっちゃ来て。で、DMをくれた人に、どうやって私の動画を見つけたのか聞いたら、「Twitterでバズってますよ」と教えてくれました。

「私、Twitter全然やってない、動画もアップしてないけど……」と思ったんですが、どうやら誰かが私の動画を勝手にアップして、それがバズってたんです(笑)。Twitterでも日本人のフォロワーがいっきに15,000人増えて、世界中のメディアから動画の使用申請が来て、ノルウェーのニュースメディアでも取りあげられました。

―すごい爆発力ですね。

ヤバタン:ね、本当にびっくりした(笑)。そのあと、1月に「雪が好きすぎる外国人」という動画をあげたら、またすごくウケて。Twitterの日本人のフォロワーはさらに10万人増えました。でも、当時はウケる動画ってよくわからなかったから、とにかくいろんな人と会っていろんな動画を撮って、その中で、日本人にウケるポイントを学んでいった感じです。

昔のヤバタンはもっと声も低いし、ゆっくり喋っていたけど、今は、声が高くて、速く喋るし、ハイテンションでしょ。そっちのほうがみんな好きなんだなっていうのは、やっていくうちにわかっていきました。

―「あ、こういうのがウケるんだ」と印象的だった発見はありますか?

ヤバタン:ヤバタンが日本語を間違えると、みんな、すごく楽しいみたいですね。たとえば、おみくじで「吉」を引いた時、私が「キッチン」って勘違いしたやりとりが、すごくウケました。あとは、ヤバタンの笑顔とハイテンションが、見ていていつも楽しいと言われます。

―はい、笑顔の絶えないヤバタンさんの動画を見ると、ハッピーな気持ちになります。

ヤバタン:あ、それは良かった。まさにそれが私の狙いなんです。私の家族のクリスマス動画見ました? みんな明るいでしょう。

―はい、みなさんとてもノリが良いです。ノルウェーの国民性としては、シャイで静かだと聞いたことがありますが、ヤバタンさんのご家族はそうではない?

ヤバタン:そうですね。実は父もコメディアンなんですよ。もともとミュージシャンで、音楽と笑いを融合させたパフォーマンスですごく人気があったんです。そのあと、テレビのプロデューサーになってノルウェーで初めてスタンドアップコメディを始め、今は芸人のプロデュースもしています。いとこもお笑い芸人で、ノルウェーではとても人気があるんです。

―人を笑わせるのが好きな家系なんですね。

ヤバタン:そうなんですよ。でも、ノルウェー人がシャイなイメージは、たしかにありますよね。日本人に少し似てるかな。ノルウェー人はパーソナルスペースがすごく広いから、バス乗り場では、めっちゃスペースを空けて並びます(笑)。

「日本の芸人」になりたいから、日本人になるつもりで文化に寄り添わないといけない。

―ノルウェー人の国民性、ちょっと日本人に通ずるところがありそうですね(笑)。逆に、日本の価値観や文化に関して、戸惑ったり苦労したりすることはありますか?

ヤバタン:いちばん大変なのは、動画を撮る時です。私は「日本の芸人」になりたいから、日本人になるつもりで文化に寄り添わないといけない。つまり日本の文化もちゃんと守りたいんです。でも、動画を撮る時のヤバタンは、うるさいし、みんなのパーソナルスペースに侵入するから、それを不快に思う人もいるのが表情からわかります。そういう時は、私、すごく弱くて、「すみません……」ってなっちゃいますね。昔はあまり気にしなかったけど、最近はすごい気にしてしまって。

―日本人の気持ちを理解しようとするからこそ、大胆に振る舞えなくなってしまった?

ヤバタン:そう。本当は、いちばん面白いのは、突然、私が誰かにカメラを向けてハイテンションで話しかけた時の相手のリアクションです。でも当然、それをやったら嫌な人もいる。だから何回もトライして、最後にやっと、良かったと思えるものが撮れる。そこにたどり着くまでが大変です。

―相手は一般の人ですから、どんな反応をされるかわからないですよね。

ヤバタン:そうなんですよね。テレビロケの時は日本人スタッフがいるからスムーズなんですけど、私ひとりで撮っている時は、「変な外国人」「何やってるの?」と思われてしまいます。でも、もし最初に「動画を撮っていいですか?」と説明したら、みなさんのリアクションが自然じゃなくなってしまいますよね。ヤバタンの動画では、あくまで自然なリアクションがほしいんです。それが最近、悩ましい……。

―難しいですね。

ヤバタン:難しい。でも、しょうがない! 私は、日本の文化を全部ちゃんと勉強したいんです。だから日本のルールをきちんと理解して守ることは、本当に気をつけています。そのために、ネタをちゃんと考える。たとえば、お寺では絶対に動画は撮らないと決めています。

―かなり気を配りながら撮影をしているんですね。

ヤバタン:編集したあとも、日本人にとって不快になるものではないか、異文化を間違ったかたちで伝えることにならないか、周りの日本人にチェックしてもらっています。面白いと思ってやっていることが、間違っているということもあり得ますからね。そういう問題が起こらないようにしっかり確認します。

―そこまで入念にされているから、ヤバタンさんの動画は安心して笑えるのかもしれません。

ヤバタン:そうだといいなと思います。日本語もすごく勉強しているんですけど、「ヤバタンが日本語上手になったら面白くないよ」ってよく言われていて……。

日本ではSNSからテレビ業界に入るのがすごく難しい。

―その葛藤はどう乗り越えていくんですか? ヤバタンのキャラクターは、今後さらに変化していくのでしょうか?

ヤバタン:どうでしょう……でもやっぱり、私は「芸人」になりたいので、日本語を話さないと。ゆくゆくは、ヤバタンではなく、本名のクラウドとして芸人になりたいんです。でも、私はSNSから人気になったから、事務所にも所属していないですし、でも、日本では事務所に所属していないとテレビに出ること自体が難しい。やっぱり「SNSの人」とか「外国人」として声をかけられてしまいます。

―そういうオファーは実際多かったんですか?

ヤバタン:そうですね。ヤバタンが人気になってから、「ヤバタン」という名前は置き去りに、単純に外国人としてコメントするテレビのオファーがたくさんあったんですけど、それをやったら普通の外国人タレントになってしまうから全て断っていたんです。周りはみんな「何でもいいからテレビ出たほうがいいよ!」と言っていたんですけど、私はあくまで芸人としてテレビに出たいので、やりませんでした。

そうやってずっと待ってたら、ついに『スッキリ』から、ヤバタンとして出演してほしいとオファーが来て。その時はとても誇らしかったです。でも、まだまだ。日本ではSNSからテレビ業界に入るのが個人的にはすごく難しいと思うからこそ「やってみよう!」と思います。

―ヤバタンさんにとって、テレビに出ることはどんな意味を持つのでしょうか?

ヤバタン:今の時代、やろうと思えば誰でも自由に動画を作ってインターネットにアップできますし、YouTuberになるチャンスは誰にでもありますけど、でもやっぱり、テレビに出ている芸能人は本当にプロフェッショナルだと思っていて。だから私もテレビに出たい、ちゃんとプロになりたいんです。

―常にチャレンジしていたいという気持ちが強いんですね。

ヤバタン:そうですね。母国語以外の言葉でお笑いをやること自体が、すごいチャレンジじゃないですか。でも、満足せずにチャレンジしている状態が、いつもすごく面白いし、大好きなんです。もちろん、テレビに出るようになってもInstagramの動画は毎週やり続けます。

あと、ヤバタンの旅行番組も作りたいですし、Netflixの番組にも出たい、YouTubeももっと頑張りたい。この「ミスターヤバタン」というキャラクターをたくさん使いながら、「クラウド」としても見てもらえるように、これからもいろんなチャレンジを、ずーっとしていきたいです。

プロフィール
ミスターヤバタン

コメディアン / 動画クリエイター。ノルウェー出身、日本在住。日本のお笑い文化に惚れ込み、来日。Instagramを中心にSNSで、日本各地をレポートするコメディ動画などを投稿し話題に。現在、NHK WORLD『Kawaii International』などにも出演中。



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「幸福度が高い」と言われる北欧の国々。その文化の土台にあるのが「クラフトマンシップ」と「最先端」です。

湖や森に囲まれた、豊かな自然と共生する考え方。長い冬を楽しく過ごすための、手仕事の工夫。

かと思えば、ITをはじめとした最先端の技術開発や福祉の充実をめざした、先進的な発想。

カルチャーマガジン「Fika(フィーカ)」は、北欧からこれからの幸せな社会のヒントを見つけていきます。

スウェーデンの人々が大切にしてい「Fika」というコーヒーブレイクの時間のようにリラックスしながら、さまざまなアイデアが生まれる場所をめざします。

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