戸田真琴が試みる、男女共存の世界 私たちは傷だらけの隣人同士

戸田真琴が試みる、男女共存の世界 私たちは傷だらけの隣人同士

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戸田真琴
撮影・編集:石澤萌(CINRA.NET編集部)

生まれながらに幸福な性などないのかもしれない

女だという理由で馬鹿にし、怒鳴り声や暴力的な言葉遣いで萎縮させ、言うことを聞かせようとする行いは愚行に他なりません。私はたいていの間違いには情状酌量の余地を探そうとする性格ですが、唯一、人としていけないことだと言い切れるのは、「自分のわがままのために、他人を支配したり生き方を歪めようとすること」だと思っています。

彼ら、暴力的な強者男性たちをこんなふうにしてしまったのは、教育、社会、働き方、家庭のあり方、意地やプライド、「男」として生まれたことのプレッシャー……きっと無数の要因が折り重なってのことでしょう。女性としての生きづらさにぶつかるたびに、男性として生まれたかったな、と思うこともありますが、本当に、男性として生まれていたらどうだったのでしょう? 今の生きづらさから解放されて、幸福になれるというのでしょうか。想像してみるけれど、きっと、生まれながらに幸福な性など今のところないのかもしれない、と思わされるばかりです。

パワハラ加害者となってしまう男性は、その怒りの奥に、本当の感情を隠し持っています。上からの物言いしかできない男性とぶつかるたび、その怒鳴り声の中に、本当は何が欲しかったのか、なるべく探すようにしていると、どんどんその悲しい素顔が見えてくることがあります。ただ言うことを聞いて欲しかったり、発言が誤解されて伝わって恥ずかしかったり、誰かに説教をすることで自分が衰えていないのだと実感したかったり、ただ、寂しいだけだったり。

パワハラは許されることではありませんし、誰もが加害者になり得る世の中、面倒臭がらずに目の前の人への想像力を働かせて生きて欲しいものですが、加害者の中にも苦しみや悲しみがあり、そこを分析しないことには本当の社会問題の解決には繋がらない、ということは知っておいたほうがいい大切な事実です。

戸田真琴

たとえば本当に私が男性として生まれたとしたならば、上記で話したような強者男性ではなく、彼らの下で虐げられる男性として存在していたような気がします。きっと恋愛経験と人脈に乏しく、社会的権力の中を生き抜く対人スキルも持てず、男遊びの象徴である酒も飲めずに仲間はずれ、恋人やセックスの獲得を自慢しあう合戦の中でも怯えて不戦敗する他なく、満たされない暮らしの中でも憂さ晴らしの方法もない、強者男性たちのように他人に加害する機会さえない。そんな暮らしを送っていることが容易に想像できます。

男性として生まれ、自分の良くないとすることをしないで生きていると想定すると、まるで自分の性格では、男性社会で居場所を獲得する方法が見当たらないのです。

昨年公開された映画『ジョーカー』では、まさにそんな、お金も権力も健康も人脈も恋人もない弱者男性のなまめかしい絶望が描かれていました。変な話ですが、主人公のアーサーは、私が思春期、男性と女性との違いーーそして、誰かの愛を獲得できる人とその機会が乏しい人との違い——を意識してから何度も何度もしつこく想像してきた、「もしも不器用な男性に生まれていたら」というビジョンの中の、私自身のように見えました。寄る辺のない命が、絶望や悲しみを感じる心を閉ざすこともできずに、野ざらしに生き続けることの苦しみを、どうしてもそういう苦しみがこの世に今もあり続けることを、1秒も忘れずに解って居たくて想像していた、あの、悲しい男の人生の苦しみでした。

「私たちは敵同士ではなく、時代という大きなうねりの中でぼろぼろになった、傷だらけの隣人なのですから」

私たちは、自分以外の人生を生きることはできません。それゆえ、社会全体よりも、自分がより強者でいられるか、あるいは安全に生きることが可能な「認められた弱者」でいられるか、というライフラインのことばかり、どうしたって気にしてしまいます。しかし、強さや弱さなどというものは、ただの振り幅でしかありません。弱きものよりも強きもののほうが立派ということでは決してなく、弱きを知る強者が、強きを知る弱者が、それぞれ立派なのです。

私たちは性別の壁だけでなく、世代の壁としての、時代が育てた性質の違いにも隔たれています。絶対に分かり合えないと感じることも多く、その度に相手をカテゴライズして、主語を大きくして、攻撃を仕掛けたくなる人もいるかと思いますが、それでも、生きる時代が重なり合ったのだから、なるべく理解をするよう努め、それでもダメならなるべく傷つけ合わずにそっと離れ、うまく隙間を縫って共存を試みたいものです。

自分の中の助けを求める強い感情が、つい大きな主語で「男性たちは……」と話し出そうとするときには、心の中で、あの何度も想像した弱者男性としての苦しみを思い出します。フェミニズムという大きな流れの中で「男らしく生きる」という言葉の呪いによって傷つき自己否定を強いられてきた男性たちにも、本当の自由の尻尾を掴むチャンスが巡ってくるように祈るばかりです。私たちは敵同士ではなく、お互いに、時代という大きなうねりの中でぼろぼろになった、傷だらけの隣人なのですから。お金も権力も健康も人脈も恋人もない人たちが自分自身のことを好きでいられる世界になってから、初めて楽園というものは成り立つのだと信じています。

戸田真琴
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書籍情報

『あなたの孤独は美しい』
『あなたの孤独は美しい』

2019年12月12日(木)発売
著者:戸田真琴
価格:1,650円(税込)
発行:竹書房

プロフィール

戸田真琴(とだ まこと)

2016年にSODクリエイトからデビュー。その後、趣味の映画鑑賞をベースにコラム等を執筆、現在はTV Bros.で『肯定のフィロソフィー』を連載中。ミスiD2018、スカパーアダルト放送大賞2019女優賞を受賞。愛称はまこりん。初のエッセイ『あなたの孤独は美しい』を2019年12月に発売。

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