芸人・熱波師のマグ万平。疲れた人を癒すサウナと笑いの共通点

いま日本は、空前のサウナブームだ。タナカカツキの『サ道』をはじめ、サウナを舞台にした漫画やドラマが注目されたり、サウナ好きの呼称「サウナー」という言葉が浸透するほど、サウナは今「おじさん」だけの楽しみではなくなった。サウナは、なぜ日本でこれだけ注目を集めるようになったのか?

今回話を聞いたのは、芸人 / 熱波師として活躍するマグ万平だ。お笑い芸人として活動しながら、都内のサウナ施設で熱波師として活動したり、大自然の中でサウナを楽しむためのバスツアーを企画するなど、サウナの伝道師のような人物なのだ。そんな万平に会いに、彼が働くサウナ施設・マルシンスパに向かった。

お笑いライブで盛大に滑った帰り、なんとなく「風呂でも入っていくか」と銭湯に行ったんです。

―今日初めてマルシンスパに入店できて、嬉しいです。ここは男性専用で普段女性は入れないので。

万平:それはよかったです(笑)。今回は取材なので、特別に。

―万平さんはマルシンスパに勤務されながら、お笑い芸人としてもご活躍されていますね。まずは、芸人を目指したきっかけから教えていただけますか?

万平:僕はバラエティ番組全盛期の1990年代に育ったので、小さい頃からお笑いは身近だったし大好きでした。その後、大学時代に唯一できた友達が後にコンビ(地球)を組むことになる相方のマントル一平だったんです。そのコンビはもう解散しちゃったんですけど、一平とはずっと昨日見たお笑い番組の話とか、最近好きな芸人さんの話とか、とにかくお笑いの話をしていました。

そんなある日突然、親父が脱サラしてマジシャンを目指すことになったんです(笑)。マジックって、タネを買うためにお金がものすごくかかるんですよ。大掛かりなイリュージョンともなると100万円とか200万円レベルで……。それで借金まみれになってしまって、自分は大学を中途退学したんです。同じ時期に一平も中途退学して「これからどうしようか」ってなって、2人で芸人を目指すことになりました。

マグ万平
1984年8月7日生まれ、福岡県出身。プロダクション人力舎所属のお笑い芸人。サウナが好きすぎてサウナ施設で働いちゃったり、フィンランドサウナ旅に出かけたり、ロシア人からウィスキングを習得しちゃったり。フィンランドサウナアンバサダー、サウナ・スパ健康アドバイザー。
マグ万平がMCを務めるラジオ番組『マグ万平の のちほどサウナで』

―お父さまがマジシャンで息子が芸人とは、ものすごいエンターテイナーな家系ですね(笑)。

万平:親父のマジシャン名は珍宝(ちんぽう)って言います(笑)。

―芸人として活動しながら、どのようにしてサウナに出会ったのですか?

万平:まだ駆け出しの頃、一平が『テラスハウス』に出演することになったんです。そしたら、一平の仕事が一気に増えて。2人で街を歩いていても「キャー! 一平ちゃーん!」ってなるんですよ。完全に「光と陰」みたいになっていて、「自分もがんばらなきゃ」と思う反面、寂しさも感じていました。

―コンビの難しいところですね。

万平:ライブが終わった後って、たいてい同期とか先輩たちと打ち上げに行くんです。それがみんなのストレス発散の場でもあったりするんですけど、自分はお酒が全く飲めないので、そこで発散することができなくて。

何かいい発散方法ないかなと思っていた時、ライブで新ネタを披露したら、盛大に滑りまして……。落ち込んだ帰り道、なんとなく「風呂でも入っていくか」と思って銭湯に行ったんです。ちょうどその頃タナカカツキさんが書籍版の『サ道』を出された頃で。高校の頃からカツキさんの作品はたくさん読んでいたので、サウナにハマっていたことは知っていました。どこかで興味はあったので、その日はお風呂だけじゃなくてサウナにも入ってみたんです。

―サウナとの出会いですね。

万平:でも、1回目は地獄でしたね。サウナ室は暑くてカラカラだし、鼻も痛いし苦しい、でもって水風呂はアホみたいに冷たくて「殺す気か!」と。我慢してもう1セットやってみようと思い、2セット目にサウナ室に入ったら全然暑く感じなくて。「さっきより苦しくないし息もしやすい。むしろ心地よいぞ」と感じて、そこからだんだんと誤解が解けてきたんです。その後の水風呂もめちゃめちゃ気持ちよくて。それが初めての「ととのい」体験だったんです。

―初めてのサウナで、ととのったんですね。

万平:今でも忘れられないんですが、その水風呂の中で、不思議な体験をしたんです。銭湯って男湯と女湯の間に壁があって上は吹き抜けになっているじゃないですか。普段なら聞こえてこないであろう女湯側の桶を置く「コーン」という音とか、カランの「シャー」っていう音が聞こえてきたんです。

いつもならそんな音気にしたこともないし、手前のおっさんのしゃべり声の方が絶対によく聞こえるはずなのに、壁の向こう側の音がとてもクリアに聞こえてきたものだから「あれ?」と思って、パッと視線をげた途端、視界がグニャ~っと曲がって。「これかぁー‼」って。

―衝撃的なととのい体験だったわけですね。

万平:まさに。風呂から上がって休憩している時に鏡を見たら、鼻水垂れてました(笑)。そのくらい時間が経つのを忘れてととのってしまって。心身共にリラックスできて、寝つきもいいし次の朝の寝起きもいい。それで、「サウナ、めっちゃいいじゃん!」ってハマり始めました。

『SAUNA FES』の様子

サウナ代を稼ぐためにバイトを増やそうと思ったんです。だったら、大好きなサウナ施設で働こうと。

―芸人として活動しながら溜まったストレスを解消するためにサウナに通い始めたと。そこから、サウナ施設で働くに至ったのは?

万平:もともと温泉やお風呂は好きだったんですけど、サウナは苦手で。なんなら、サウナを潰してその分湯船もうひとつ増やしてほしいと思っていたほどでした。だから嫌いだった分、好きになった時の反動がすごかったんですよ。それで、ほぼ毎日いろんなサウナに行っていたんです。最初は近くの銭湯から始まり、スパみたいな大型の施設や、サウナ専門の施設にも行ってみたり。その結果、お金がぜんぜんなくなっちゃって。

「このままではサウナに殺される」と思って、サウナ代を稼ぐためにバイトを増やそうと思ったんです。だったら、大好きなサウナ施設で働きたいと。

―万平さんにとって、天国みたいな職場ですね。

万平:それで調べてみたら、よく行っていたマルシンスパがバイトを募集していて。募集要項の備考欄に赤文字で「従業員はサウナ無料です」って書いてあったのを見て、速攻で電話をかけました。そこから、働かせてもらうに至りましたね。

―その頃から、熱波師という職業に憧れたり目指したいと思っていたのですか?

万平:今でこそサウナがブームになって、熱波師という名前を聞くようになってきましたが、そもそも熱波師という職業って、あってないものというか。ほとんどの温浴施設のスタッフの方って、受付をやり、キッチンにも立ち、タオルをたたんだりする合間に熱波師をやっているんです。なので、熱波師を専門としている方って、ほとんどいないんです。

―熱波師は、温浴施設の業務のひとつということですか?

万平:そうなんです。熱波師ってサウナストーブにいちばん近いところに立ってるし、お客さんに向かって全身運動で風を送っていて、「この人、絶対に客よりととのってる! 気持ちいいに決まってる!」ってずっと思っていたんです。だから憧れていたというよりは「めっちゃととのいそうだな」と思っていました(笑)。

―(笑)。熱波師として一人前になるには、どんなことをされてきたのでしょう?

万平:面接の時に、サウナが好きであることをめちゃくちゃ語ったんですよ。そしたら、「そんなにサウナが好きすぎるやつは君が初めてだ」って、若干引かれまして(笑)。その面接をしてくださった方が当時マルシンスパで熱波師をやっていて、自分も客としてその方の熱波を受けたことがあったんですよね。

それで出勤初日、「このあと15分後にアウフグース(※熱波師が熱波をお客さんに送るサービス)やるから君も受けなよ。受けるのがいちばんわかるから」って言ってくださって。初日から、全裸でニコニコしてサウナ室に入っていましたね。そうやって社員さんの熱波を受けながらいろいろと学んでいきました。

人の心を癒したり満たしたりするのは「緊張と緩和」なのかもしれません。

―サウナブーム前から万平さんはサウナにハマっていたわけですが、そんな万平さんから見て、サウナがここまで認知されたり、若い人や女性の間でもブームになっているのは、なぜだと思います?

万平:僕がサウナに出会って「おっさんたちはこんな気持ちいいことやってたのか!」と気づいたように、サウナ=我慢するもの、っていう誤解が解けてきたんじゃないかなと思います。

あとマジレスしちゃうと(笑)、これまでの高度経済成長期や経済の発展で「テレビを買うぞ!」とか「家を買うぞ!」みたいな物欲とか、自分にない物を手に入れることで自分の心を満たしてきたんだと思うんです。今はある程度経済が発展してきて、みなさん一人一台携帯を持っている時代になった。物に満たされる時代はもう終わって、次は自分と向き合ったり何かを体験したりすることで、自分を満たし始めているんじゃないかと思います。自分を満たすために、心を豊かにする方法を求めているのかもしれません。

―芸人も熱波師も、笑いと熱波で人に癒しを与えるお仕事だと思います。その重要性は、高まってきているのかもしれないですね。

万平:お笑いとサウナには共通点があるんですよ。僕が養成所時代に教わったお笑いの基本は「緊張と緩和」だったんですけど、サウナもまさに「緊張と緩和」。暑いサウナ室と冷たい水風呂は、まさにお笑いの基本と同じなんですよ。人の心を癒したり満たしたりするのは「緊張と緩和」なのかもしれません。

―今後、このサウナブームはどのようになっていくと思いますか?

万平:サウナへの誤解も解けてきたので、これからはいろんな種類のサウナ施設が増えてくるんじゃないかと思っています。昔ながらのカラッカラなドライサウナとか、女性が入りやすい湿度があって暑すぎないウェットなサウナとか、熱波師がすごいパフォーマンスをやるサウナがあってもいい。いろんなサウナの楽しみ方ができるお店が、もっともっと増えてくるといいですよね。

あと日本人って、海外の文化を取り入れてアレンジするのが得意じゃないですか。もともと日本のサウナ施設って、ホスピタリティとエンタメ性が素晴らしくて世界に誇れるレベルなので、今後はさらに世界中のいろんなサウナ文化を取り入れてアレンジしていけば、日本独自のサウナ文化が発展していくんじゃないかなって思いますね。

―今後のサウナに対する夢とかありますか?

万平:このままどんどんサウナの気持ち良さ、面白さに気づく人が増えていって、そのうち医療関係者の方たちが「サウナは身体にいい!」っていう論文を発表して、ゆくゆくはサウナが保険適用内になるのが、僕の夢です(笑)。サウナ入るのが3割負担なんて、めちゃめちゃいいでしょ(笑)。

政治家とか鉄道会社の方がサウナにはまって、各駅にサウナを作ったりすれば、満員電車の殺伐とした空気もなくなると思うんですよ。そんな明るい未来が来るといいなと思いながら、今日もサウナに入っております(笑)。

店舗情報
マルシンスパ

東京都渋谷区笹塚1丁目58-6 マルシンビル10F
営業時間:24時間

プロフィール
マグ万平 (まぐ まんぺい)

1984年8月7日生まれ、福岡県出身。プロダクション人力舎所属のお笑い芸人。サウナが好きすぎてサウナ施設で働いちゃったり、フィンランドサウナ旅に出かけたり、ロシア人からウィスキングを習得しちゃったり。フィンランドサウナアンバサダー、サウナ・スパ健康アドバイザー。



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「幸福度が高い」と言われる北欧の国々。その文化の土台にあるのが「クラフトマンシップ」と「最先端」です。

湖や森に囲まれた、豊かな自然と共生する考え方。長い冬を楽しく過ごすための、手仕事の工夫。

かと思えば、ITをはじめとした最先端の技術開発や福祉の充実をめざした、先進的な発想。

カルチャーマガジン「Fika(フィーカ)」は、北欧からこれからの幸せな社会のヒントを見つけていきます。

スウェーデンの人々が大切にしてい「Fika」というコーヒーブレイクの時間のようにリラックスしながら、さまざまなアイデアが生まれる場所をめざします。

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