なぜ人はカラオケに惹かれる? 世界の状況から愛され具合を探る

全世界のカラオケの猛者が東京へ。もはや日本のものだけじゃない、カラオケ文化

2019年11月27日から29日にかけて、東京の神田明神ホールで『KARAOKE WORLD CHAMPIONSHIPS 2019(以下KWC)』が開催された。KWCは世界各国の予選を勝ち抜いたアマチュアシンガーたちが歌声を競い合うカラオケの世界大会。2003年にフィンランドのヘイノラで第1回目が開催されて以降、エストニア、タイ、ロシア、スウェーデンなど舞台を変えながら開催されてきた国際的な大会だが、意外にもカラオケ発祥の地である日本で『KWC』が開催されるのは今回が初めてのことだ。

KWC決勝戦の様子。アメリカ、ブラジル、パナマ、デンマークなど世界各国の「歌上手」が集結した

カラオケ世界大会が行われるまでグローバルに愛されているカラオケは、どのようにして日本から世界へ羽ばたいていったのだろうか?

欧米、中国で独自の形で楽しまれるカラオケ。マライア・キャリーもTV番組のカラオケコーナーに参加

1970年代に日本で生まれたカラオケという文化が世界各地へ広がったのは、1980年代後半以降の現象と言える。大竹昭子によるノンフィクション『カラオケ、海を渡る』(1997年、筑摩書房)によると、1980年代後半にはまず台湾で現地版のカラオケボックス「KTV」が流行。アジア各地へとその人気が広がっていくなかで(日本でいうところの)キャバクラに近い風俗店という一面を強めていった。1991年には香港でも日本のカラオケルーム「ビッグエコー」の1号店がオープン。以降、カラオケボックスブームが巻き起こったという。

1988年にオープンしたカラオケルーム「ビッグエコー」1号店。福岡県福岡市から歴史をスタートした。

そのようにアジア各地へと広がっていったカラオケ人気は、やがて日本人や中国人、韓国人の駐在員・移民などを通じてヨーロッパや北米へ。老若男女がカラオケを楽しむアジアに比べると、欧米ではそこら中でカラオケボックスを見かけるほどはないものの、カラオケマシーンを用意したバーやレストランは決して珍しいものではない。筆者が2007年にフィンランドのヘルシンキを訪れた際も、いくつかのバーでカラオケが設置されている光景を見かけたものだった。

ここ数年、そうしたカラオケ文化にも世界的な変化が生まれつつある。アメリカでは人気トーク番組『The Late Late Show with James Corden』のワンコーナーである「Carpool Karaoke」が人気に。このコーナーはさまざまなセレブやスターを車に招いて車内でカラオケを楽しむというもので、プライベート空間で歌を楽しむという意味では、まさに「移動カラオケボックス」。これまでにマライア・キャリーやスティーヴィー・ワンダー、ジャスティン・ビーバーらが出演し、番組屈指の人気コーナーとなっている。

マライア・キャリーが登場しクリスマスソングを歌った「Carpool Karaoke」

カラオケアプリ、電話ボックス風カラオケ……進化する中国カラオケ事情

1980年代からのカラオケ大国といえる中国では、「全民K歌」や「唱吧」といったカラオケアプリが大人気に。さらにはショッピングモールなどに設置された電話ボックスタイプのミニカラオケボックスもブームになっているという。VRと「KTV」を融合する試みも進められており、中国独自のカラオケ文化が確立されつつあるようだ。

中国の街中で見られるミニカラオケボックス

過去の『KWC』にガーナ代表が出場していたことからもわかるように、アフリカでも一部の都心部ではカラオケ文化が浸透。中国人経営の飲食店などにカラオケが設置されているケースもあるらしい。

また、東アフリカのウガンダでは「カリオキ」というパフォーマンスがあるという。人類学者の大門碧によると、これは欧米やアフリカ各地のヒット曲に合わせ、口パクのパフォーマンスを披露するというもので、夜間のレストランやバーのステージでショーの一種として行われている。(参考:ハフポスト日本版『口パクを聴く――ウガンダのショー・パフォーマンスの現場から』)我々が知るカラオケとは別の風習ではあるものの、この「カリオキ」の語源にカラオケがあることは言うまでもない。

ネット世代突入後、カラオケはより開かれた存在に

YouTubeでは世界各国の「歌ってみた」動画がアップされているが、こうした動画もまた、ネット時代に花開いたカラオケ文化の変種と言えるかもしれない。ただし、カラオケボックスやカラオケバーのように気心知れた仲間たちの前だけで歌声を披露するのとは違い、その対象は世界にも向けられている。誰もが知るヒット曲を歌い、その楽しさを異国に住む誰かとシェアすること。ネット時代のカラオケ文化とは、そのように開かれたベクトルも併せ持っている。

もともとカラオケ発祥の地である日本では、カラオケボックスや自宅といったプライベート空間のみならず、集会所のようなミーティングポイントにもカラオケがセッティングされ、人と人を繋ぐツールとなってきた。盆踊り大会の演目のひとつとしてカラオケ大会が開催され、メインイベントである盆踊り以上の盛り上がりを見せている現場を目撃したこともある。異なる世代を繋ぎ、コミュニティーの内部と外部をあっという間に繋いでしまうカラオケの底力は、やはり侮ることができない。

カラオケ世界大会『KWC』をレポ。神田明神に響く“We Are The World”

カラオケの歴史や世界の状況を確かめたところで、今回の『KWC』に話を戻そう。11月29日に行われた決勝大会には、欧米やアジアだけでなく、南アフリカや南米のブラジルやパナマ、さらにはデンマークの自治領であるフェロー諸島など、各地の代表が集結した。

会場に足を踏み入れてまず驚かされたのは、出場者の歌唱力の高さだ。この日は各代表がソロ部門・デュエット部門に分かれて歌声を競い合ったが、出場者の実力はいずれもプロ・レベル。各国の応援チームが国旗を振って声援を送る光景はカラオケの世界大会ならではだが、都内の中型ホールに引けを取らない神田明神ホールの音響・照明もあって、プロフェッショナルなシンガーが揃う音楽フェスにやってきたような感覚に陥った。

ただし、審査の対象となるのは歌唱力など技術面だけではない。出場者がその場を楽しみ、パフォーマンスを通じてそのことを表現しているかという、立ち振る舞いも含めたパフォーマンス面も審査対象となる。通常のコンテストとは違い、舞台上にも会場内にも平和で友好的な空気が流れているのが特徴的だ。出場者のレパートリーはQueenやビヨンセ、マライア・キャリーらによる世界的ヒット曲だけでなく、ドメスティックなものも。モンゴル代表やインド代表が自国の楽曲を歌ったほか、日本代表はSuperflyや久保田利伸を披露した。

ソロ部門の優勝を飾ったのは、ジェニファー・ハドソン“And I Am Telling You I'm Not Going”を圧倒的歌唱力で歌いきったイギリス代表のジェニー・ボール。デュエット部門はドナ・サマー“No More Tears (Enough Is Enough)”で会場を沸かせたカナダ代表のキャンディス・マイルスとケイト・ディオンが優勝を勝ち取った。大会の最後を飾ったのは、出場者全員による“We Are The World”。まさにカラオケ文化の広がりを実感させられるエンディングとなった。

ソロ部門優勝を飾ったイギリス代表のジェニー・ボール

デュエット部門優勝を飾ったカナダ代表のキャンディス・マイルスとケイト・ディオン

最後はこの日の参加者全員で“We Are The world”を熱唱

『KWC』日本大会最後には、2020年度の『KWC』がカナダで開催されることが発表された。歌によって人と人を繋いできたカラオケは、分断の進む世界をふたたび繋ぎ合わせるものとなるだろうか? カナダの大舞台を目指し、今宵も各地のカラオケ愛好家たちが練習に励んでいることだろう。

イベント情報
『KARAOKE WORLD CHAMPIONSHIPS 2019』

日時:2019年11月27日(水)~29日(金)
会場:東京都 神田明神ホール



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「幸福度が高い」と言われる北欧の国々。その文化の土台にあるのが「クラフトマンシップ」と「最先端」です。

湖や森に囲まれた、豊かな自然と共生する考え方。長い冬を楽しく過ごすための、手仕事の工夫。

かと思えば、ITをはじめとした最先端の技術開発や福祉の充実をめざした、先進的な発想。

カルチャーマガジン「Fika(フィーカ)」は、北欧からこれからの幸せな社会のヒントを見つけていきます。

スウェーデンの人々が大切にしている「Fika」というコーヒーブレイクの時間のようにリラックスしながら、さまざまなアイデアが生まれる場所をめざします。

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