巨匠オリヴィエ・アサイヤスの勇気。時代の変化を恐れない

巨匠オリヴィエ・アサイヤスの勇気。時代の変化を恐れない

インタビュー・テキスト
常川拓也
撮影:垂水佳菜 編集:久野剛士(CINRA.NET編集部)

深いところでは映画そのものは変わっていないと思っています。

オリヴィエ・アサイヤス

―以前レベッカ・ズロトヴスキ(フランスの映画監督)にインタビューした際、彼女は、自身の映画『プラネタリウム』(2016年)と『パーソナル・ショッパー』が、どちらも幽霊とつながるためにテクノロジーが媒体になっているのが興味深いという風に語っていました。

アサイヤス:そのお答えになっているかわかりませんが、私自身はもう少し複雑な視点を持っているかもしれません。幽霊や死者たちとつながる降霊術のようなものは完全にファンタジックな世界ですが、かつては写真や映画も呪術的なものが介入して私たちに届けられていると考えられていました。

しかし、例えば医学におけるX線や超電磁波の治療法など、科学の解明や発展によって、映画も霊感を必要とせず、実はもっと科学的にアクセスできるようなものだということを、人間はようやく実感してきたのだと思います。

―彼女は、その変化は映画制作のデジタル化やフェイクニュースを作れてしまう時代とも関連があるのかもしれないと認識していました。

アサイヤス:私は、それはあまり関係がないかと思います。映画の音のデジタル化は20年前から始まりました。その後、編集もデジタルで作業するようになり、デジタルカメラができ、いまではチェーン体制の映画館のほとんどはデジタル上映を行っています。

しかしだからといって、様々な映画が作られ上映されるプロセスの中で、映画そのものは変わったのだろうかといえば、私自身の印象では根本的に映画そのものは変わっていないと思っています。やはりレンズや役者は必要であり、出来上がった作品は映画館で上映します。それらは変わっていません。

またフェイクニュースに関しては、かつて「プロパガンダ」と呼んでいたものを現在そう呼び始めたのだと思います。名前を変えているだけで、そうした大衆心理操作は21世紀に始まったことではなく、19世紀からありました。全然新しいものだと思っていません。

自分と映画の関係性のあり方を、個人の責任で決定しないといけない時代になったと思います。

―デジタル化によって映画の消費方法も大きく変わりつつあります。Netflixなどストリーミングでの映画鑑賞についてはどのように考えていますか。

アサイヤス:ふたつのことがいえるかと思います。まず、昔は観ることができなかった作品がストリーミングで観ることができるメリットがあります。私が育った時代は、アクセスできない映画のほうが多かった。公開された新作か、シネマテークで上映される古典作品を観られるぐらいでした。小さい頃は田舎に住んでいたのでシネマテークには全然行くことができず、テレビで昔の映画を観ていましたが、画質は最悪でした(笑)。でもそういう風にして映画史を学んでいったのです。

ストリーミングの時代に育つみなさんは、映画史のさまざまな古典を観ることができる。大衆映画もあれば、シネマテークにアーカイブが保存されていないような映画もあります。私自身は映画に近づこうとしたときに方法がひとつしかなかったけれど、いまの人たちは様々な選択肢を与えられているように思います。

今日の映画において、「どのような形態で観るか」、これは大きな変化です。自分と映画の関係がその人個人の責任になってきたといえます。本当の意味で映画と深い関係性を持ちたいと思えば、一番最良の条件で、つまり大きなスクリーンで観たいと思うだろうし、娯楽としてちょっと気晴らしで観ようと思うならスマートフォンで観たって構わない。それぞれの人が映画との関係性を自分の責任を持って全うすればいいんです。

左から:セレナ役のジュリエット・ビノシュ、レオナール役のヴァンサン・マケーニュ/ 『冬時間のパリ』場面写真 ©CG CINEMA / ARTE FRANCE CINEMA / VORTEX SUTRA / PLAYTIME
左から:セレナ役のジュリエット・ビノシュ、レオナール役のヴァンサン・マケーニュ/ 『冬時間のパリ』場面写真 ©CG CINEMA / ARTE FRANCE CINEMA / VORTEX SUTRA / PLAYTIME

―『冬時間のパリ』では、妻たちは夫が不倫をしていることに勘付いていながらも責め立てる素振りは見せません。唯一不倫していたことをパートナーに告白するレオナール(ヴァンサン・マケーニュ)にいたっては、最後に恩寵が訪れます。

アサイヤス:そう、忠実でなくても罰はありません(笑)。

―むしろ、あなたの提示する世界では、「忠実でないこと」は深刻な罪ではなく、むしろ関係を長続きさせる可能性のある行為のように見えます。

アサイヤス:私はそう思っています(笑)。いまの時代は道徳観に凝り固まり過ぎていると思うので、少し不道徳な作品を作りたかったのです。そういう作品があってもいいですよね。

オリヴィエ・アサイヤス
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作品情報

『冬時間のパリ』
『冬時間のパリ』

2019年12月20日(金)からBunkamuraル・シネマほか全国で順次公開

監督・脚本:オリヴィエ・アサイヤス
出演:
ジュリエット・ビノシュ
ギョーム・カネ
ヴァンサン・マケーニュ
クリスタ・テレ
パスカル・グレゴリー
上映時間:107分
配給:トランスフォーマー

プロフィール

オリヴィエ・アサイヤス

1955年1月25日、パリに生まれる。画家・グラフィックデザイナーとしてキャリアをスタートし、フランスの映画批評誌「カイエ・デュ・シネマ」の編集者として文化とテクノロジーのグローバル化への興味を追求しながら、1980〜1985年、自身の短編映画製作を始める。長編初監督作『無秩序』(1986年)がヴェネツィア国際映画祭で国際批評家週間賞を受賞。これまで、世界的な認知をもたらす、豊かで多様な作品を一貫して発表してきた。『夏時間の庭』(2008年)はニューヨークタイムズ紙による「21世紀の映画暫定ベスト25」に選ばれている。また、映画に関するエッセイ、ケネス・アンガーの伝記、イングマール・ベルイマンとの対談を含む数冊の本も出版している。

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