『生理ちゃん』小山健の「頑張らない創作」を支えるサウナの存在

『生理ちゃん』小山健の「頑張らない創作」を支えるサウナの存在

インタビュー・テキスト
村上広大
撮影:寺内暁 編集:石澤萌(CINRA.NET編集部)

絶対徹夜とかして体を壊してウツとかになりたくない。仕事も健康も家族との時間も全部手に入れたいです。

―サウナにまつわるトークイベントで「サウナがなかったら『生理ちゃん』も誕生してなかった」とおっしゃっていたと聞きました。

小山:漫画を描くのって本当にしんどいんですよ。僕は今、毎月36ページほど描いてるんですけど、それだけの量を完成させるのはすごく根気が必要で。もともとは喫茶店とかカフェでストーリーを考えてたけど、だんだんと悩む時間が増えてきて。それで気分転換にと思ってサウナに足を運んでみたら、すべての歯車が噛み合うようにアイデアが形になったんです。『生理ちゃん』も誕生くらいはしてたかもしれないけど、20話まで描くのはサウナなしでは無理だったと思います。

―サウナに入ると思考がクリアになるんでしょうね。ちなみに、普段はどのような行程で漫画を完成させているんですか?

小山:お話のもとになる「タネ」みたいなものを考えておいて、担当編集と一緒におしゃべりしながら構成を詰めていくんですけど、そこまでは割と楽しいんです。問題はネーム作りに移行してからで。どうしても辻褄が合わないとか、話していたときはおもしろかったけどいざ描いてみるとうまくいかない部分が出てくるんですね。それが本当に辛くて。ハマったときはすらすら描けるんですけど、ハマらないときはもう全然ダメ。

小山健

―それでサウナに入りたくなる?

小山:そうですね。ネームを仕上げたら担当編集から「こうしたらもっとよくなる」というチェックがあって、それから作画の作業がはじまるんです。1日3ページ描けば12日間で絶対36ページ完成するので、死んでも1日3ページ描くようにスケジュールを組みます。やる気がある日とかない日とか関係ない。絶対3ページ描く。「やりだせばやる」といつも心の中で唱えています。でもページによっては建物とか人をたくさん描かないといけないこともあって、明日4ページやればいいや……とずれ込んだりもします。

『ツキイチ!生理ちゃん』第1話より
『ツキイチ!生理ちゃん』第1話より
実写映画化された『生理ちゃん』は11月8日から公開されている

―とはいえ、小山さんは締切を破ることはあまりないそうで。「頑張りすぎない」ことを心掛けながらも約束は守る。その絶妙なバランスをどのように保っているのでしょうか?

小山:今のところ漫画の連載を落としてないだけで、破ることもあります。

僕の心の師匠はタナカカツキ先生なんですね。いろんなところで漫画家として生きるための知恵をシェアされていて。タナカ先生は朝4時に起きて、昼12時まで仕事したら、あとはサウナに行ったり、ご友人と語り合ったりして21時には寝るそうです。そこまでの境地にはまだ至ってないのですが、なんとか昼の明るいうちに仕事を終わらせて、徹夜をしないようにしています。無理をして体を壊してウツとかになりたくない。仕事も、健康も、家族との時間も全部手に入れたいです。

サウナーたちのバイブルとして知られる、タナカカツキ著『サ道』
サウナーたちのバイブルとして知られる、タナカカツキ著『サ道』(Amazonで購入する

―そのサイクルはいつ頃から確立されたんですか?

小山:『生理ちゃん』を描きはじめた頃はスケジュールもぐちゃぐちゃだったんですよね。それこそ、締切間近になってようやく本腰を入れて完成させる感じで。でも、徹夜は本当にしんどいし、気分も落ち込むから長くは続かないなと思うようになって。

そんなときにタナカカツキ先生の話を聞いて、生活を夜型から昼型にするようにしました。本当は朝型にしたいけど失敗を繰り返しています。あとは子どもが生まれたことも大きな理由になっていると思います。夜遅くまで仕事をしてしまうと、接する時間が減ってしまうし、奥さんにも負担かけることになってしまう。今は子どもと一緒に寝ることがなによりの幸せなので、家族が寝たあとに作業をするみたいなこともしたくないんです。

小山健

サウナーにプロもアマもないだろうっていう。言ってしまえば、みんな同じ快楽の享受者。

―奥さんと一緒にサウナに行かれることは?

小山:行かないですね。あんまり興味がないみたいで。僕自身は、奥さんに限らずみんなサウナに行ったほうがいいと思ってるんですけど、いくら誘っても行かない人は行かないですから。それは生まれ持った探究心みたいなものの違いなのかなって。だから、最近は人におすすめするようなことはしてなくて。自分のタイミングもあるだろうし、気分が乗ったら足を運べばいいと思います。

―サウナ仲間がいるという方もいますよね。そういった存在はいますか?

小山:それがいないんですよ。身近な人は仕事や家庭で忙しそうだったりして。でも、サウナ仲間はほしいですよね。アシスタントを雇うようになったら、一緒に行きたいな。錦糸町にある「ニューウィング」はレストランが雑多な感じですごくいいなと思っているので、何人かで行ってみたいです。

―小山さんはサウナが題材の作品を作ろうと考えたことはありますか?

小山:簡単な日記漫画を描いたことはあるけど、あんまり気が進みませんでした。タナカカツキ先生やまんしゅうきつこ先生がすでに描いていらっしゃるので、僕は僕で別のカルチャーを探すしかないです。実は今回の取材を契機に、サウナについて語ることも最後にしたかったんです。超ロングインタビューの超ロング記事にしてもらって。それはちょっと難しいですよね。でもサウナのことなんて誰に聞いてもいっしょだと思います。そのへんのおじさんに聞いても僕に聞いても。

小山健

小山:全員ただの快楽の享受者で、サウナーにプロもアマもないのに「プロサウナー」ってなんだろうとは思います。週8回行ってても月1回でも、たくさんの施設に行ってても、近所の銭湯に行くだけでも、みんなただの享受者。肩書きもなにもかも脱ぎ捨てられるのが最高なのに、プロサウナーっていう肩書きが持ち込まれて、新しくサウナに行きたいと思う人たちの敷居を上げてしまうのはいやだなって思います。プロはサウナの経営者だけ。

僕自身、本当に疲れすぎてるときにめちゃくちゃ暑いサウナに入ったり、めちゃくちゃ冷たい水風呂に入ったりすると体調が悪くなってしまうので、寝湯でただゆったりすることもありますし。気分がよくなればなんでもいいと思います。

「北欧」のお風呂
「北欧」のお風呂
「北欧」のお風呂
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作品情報

『ツキイチ!生理ちゃん』
『ツキイチ!生理ちゃん』

腹痛、頭痛、眠気、貧血、むくみ。「男はぜんぜん生理のイライラやつらさが分かっていない!」生理痛の原因を擬人化したキャラクターで表現した漫画。第23回・手塚治虫手塚治虫文化賞受賞作。

『生理ちゃん』
『生理ちゃん』

2019年11月8日(金)からヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国で公開

監督:品田俊介(フジテレビジョン)
脚本:赤松新(よしもとクリエイティブ・エージェンシー)
原作:小山健『生理ちゃん』(KADOKAWA)
音楽:河内結衣
主題歌:the peggies“する”
出演:
二階堂ふみ
伊藤沙莉
松風理咲
須藤蓮
狩野見恭兵
豊嶋花
信太昌之
藤原光博(リットン調査団)
中野公美子
鈴木晋介
広岡由里子
笠松伴助
小柳津林太郎
八木橋聡美
安藤美優
竹村仁志
田宮緑子
飯田愛美
岡田義徳
上映時間:75分
配給:よしもとクリエイティブ・エージェンシー

イベント情報

第2回『電影交差点』

2019年11月19日(火)
会場:東京都 渋谷ヒカリエ MADO
出演:
井樫彩
大橋裕之
小山健
料金:1,000円

施設情報

サウナ&カプセルホテル北欧

住所:〒110-0005東京都台東区上野7-2-16
電話:03-3845-8000

プロフィール

小山健(こやま けん)

東京都在住。会社員時代に趣味でブログに描いていたマンガ「手足をのばしてパタパタする」をきっかけにマンガやイラストを様々なところで執筆。2013年に独立以降、雑誌・書籍・ウェブなどで幅広く活動中。

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