原田知世が見つめる現在 年齢に合った美しさを大切に

1990年代スウェディッシュポップブームの立役者といわれるトーレ・ヨハンソンは、スウェーデン在住の音楽プロデューサー。1994年に手がけたThe Cardigansの楽曲が世界的に大ヒットすると、その後はBONNIE PINKやカジヒデキ、レミオロメン、つじあやのといった、数々の日本人アーティストもプロデュースしてきた。とりわけ印象に残っているのは、女優としても活躍する原田知世。

2017年には原田自身がセルフカバーを発表、2018年には“ロマンス”を含む「トーレ・ヨハンソン3部作」と呼ばれるアルバム『clover』『I could be free』『Blue Orange』がLP化するなど、20年経っても色褪せない魅力が再注目されている。

10代の頃は大人の敷いたレールの上をひた走ってきた彼女が、20代になり自分の足で歩もうとした当時から、現在に至るまで、インタビューで振り返った。女優として、歌手として、一人の女性として輝き続ける彼女の魅力に迫る。

生活と仕事が地続き。原田知世が体験したスウェーデンのレコーディングスタジオ

―10代のデビュー時からドラマや映画の主題歌も歌われていた原田さんが、トーレ・ヨハンソンさんをプロデューサーに迎えられたのは30代を目前にしたタイミングです。トーレ・ヨハンソンさんに依頼しようと思ったのはどうしてですか?

原田:ちょうどその頃、The Cardigansの曲がいろんなラジオで流れていました。スウェーデンのアーティストなのに、日本人の心に引っかかるメロディーだったり、懐かしさや温かさを感じたりして。

「このサウンドが原田さんの声と合うと思うから、トーレ・ヨハンソンさんにオファーしてみませんか」と当時のレコード会社のディレクターの方が勧めてくれたこともあり、自分のアルバムを送ったのがはじまりです。そしたら、すぐにOKをいただけて、スウェーデンのスタジオに行くことになりました。

原田知世(はらだ ともよ)
長崎県出身。自ら主題歌を歌った1983年の初主演作『時をかける少女』でスクリーンデビューし、多数の映画賞の新人賞を受賞。以降、女優、歌手の両方で活躍する。2019 年は日本テレビ系日曜ドラマ『あなたの番です』で田中圭とW主演を務めた。そのほか、ドキュメンタリー番組等のナレーションを担当するなど幅広く活動している。

―すぐに快諾していただけたんですね。本人にその理由を聞いたことはありますか?

原田:私の声を気に入ってくださったということでした。あと、まだ彼が日本のアーティストを手がけたことがなかった時期なので、興味を持ってくださったのかと思います。

トーレ・ヨハンソンがプロデュースしたThe Cardigans “Carnival”を聴く(Apple Musicはこちら

―スウェーデンのスタジオはどんな場所でしたか?

原田:「タンバリンスタジオ」といって、トーレさんやミュージシャンの方々が自分で運営している場所でした。アパートメントの1室をリノベーションしたスタジオでしたが、置いているものも一つひとつにこだわっていて、自分の中にある北欧のイメージとぴったり重なるようなおしゃれな空間でした。

スタジオに行くと、キッチンには誰かが前の日に食べたものがまだ置いてあったりして(笑)。当時、日本では無機質なスタジオでレコーディングしていたので、人のお宅にお邪魔したような、アットホームな雰囲気が新鮮でしたね。The Cardigansのメンバーもふらっと遊びに来たり、時々、みんなでパーティーをやっていたり。

初めて訪れたときに車で迎えに来てくださった方もミュージシャンでしたし、事務的なこともすべて自分たちでやっていました。本当に全部、みんなで手作りしているんだなって。自分たちの生活と、音楽、仕事の境界線がない、そんなスウェーデンならではの環境で生まれているサウンドだったんです。

トーレ・ヨハンソンがプロデュースした原田知世“ロマンス”のセルフカバー

―聞いているだけで楽しそうです。生活と音楽が密接している空間でのレコーディングを経験し、その後の原田さん自身の音楽活動に影響を与えるものはありましたか。

原田:そうですね、あの空間がすごく素敵だったので、それ以降はアットホームな雰囲気の中で音楽を作るようになっていきました。もちろん大きいスタジオでレコーディングすることもありますけど、好きな仲間同士で「楽しみながら音楽をやってる」っていうのがなによりいいですね。

トーレ・ヨハンソンとの出会い以降、自分もファン層にも生まれた変化

―原田さんは10代の頃、自分の声があまり好きじゃなかったそうですね。そこから好きになっていったきっかけは?

原田:それこそ、トーレさんがタンバリンスタジオで録音してくれた自分の声で、すごく好きになれたんです。音圧というか声の厚みがあって、「ああ、すごく理想の声を作ってくれた」って思ったんですよね。

―それはボイストレーニングなどを受けたということですか?

原田:いえ、トーレさんの技術です。スタジオで録って、ミックスして。ちょっと息の要素を多く出すような感じで、これまでと違った声に聞こえたんですね。

その声がすごく好きだったので、それから自分でも無意識に近づけていった気がします。あとは、若い頃は細い声だったのが、歳を重ねるごとに、息が深くなっていくような感じがあって。なのでいまは自分の声が好きになりました。

―ちょうど2018年の12月にトーレ・ヨハンソンさんがプロデュースの『clover』(1996年)『I could be free』(1997年)『Blue Orange』(1998年)という3部作がLP化しています。20年くらい経っていますが、あらためていま聴いてどんな魅力を感じますか。

原田:「20年」と聞いて自分が一番びっくりします(笑)。つい最近のような気がしていますけどね。あらためて聴いてみて、トーレさんのところに行ってよかったとすごく思います。

少し下の世代の人たちが、女優としてではなく歌手として私のことを知ってくれるきっかけになった『I could be free』は、自分の中でもすごく特別な作品です。この仕事を長くやっていると、歌手だと思っている人と、女優だと思っている人がいるみたいで、いろんな出会い方ができるんだなって思いますね。だから両方とも大事にしたいです。

トーレ・ヨハンソンがプロデュースした原田知世『I could be free』を聴く(Apple Musicはこちら

35年以上のキャリアを振返って感じた、一つひとつの時間を丁寧に過ごすスタンス

―原田さんは10代で女優デビューし、アイドル的な人気を得ます。20代からは、歌手活動にも力を入れていらっしゃる印象ですが、パブリックイメージを更新していく意図もあったのでしょうか。

原田:10代の頃は、周囲のスタッフの方たちが全部レールを敷いて、「次はこれ、その次はこれ、来年の春はこの作品」って決めてくれたレールの上をひたすら走っていました。芝居と歌を同時にはじめることができたので、いま考えると本当に恵まれたデビューだったと思います。

当時は学業と両立することに夢中でしたが、高校を卒業して仕事一本になったときに、「ああ、これからどうしよう」と考えたんですね。「これからは自分でレールを敷いていかなきゃいけないな」と。

原田知世のデビュー曲“時をかける少女”のセルフカバー

原田:10代の頃にしっかりとパブリックイメージを作っていただいた上で、自分は年齢を重ねています。そういう変化に対して、20代の頃は「どうすればいいのかな」って迷うことはありました。いまになって振り返ると、そこまで深く思い悩まなくても大丈夫だったのにって思いますけど(笑)。

―思い返すとどうしてあんなに悩んでいたんだろうってこと、ありますよね。

原田:そうですね。年齢を重ねて変わらない部分もあるだろうし、変わる部分ももちろんあるでしょうけれど、深く悩まずに自然の流れに身を任せるのが一番いいのかなっていまは思っています。年齢ごとの美しさや魅力ってあると思うので、そっちに目を向けるのはすごく大事なんです。

お仕事でもプライベートでもそうですが、そのときにしかできないことって、きっとあるから。「いま」を大事にして日々を重ねるのが一番大切なんだと思います。

―柔らかい雰囲気の中に芯があるのが、原田さんの変わらないところなのかなと思いました。

原田:あまり器用にいろいろなことをできるタイプではないので、「これ!」と自分が思ったものに丁寧に向き合うようにしてきました。

仕事量自体はそれほど多くはないと思いますが、一つひとつをすごく大切に、濃い時間を過ごせてきたと思っています。そうして作った作品や仕事を誰かがちゃんと見てくれていて、またそれが数年後に繋がっていって、次の新しい仕事に出会えたりする。あんまり詰め込みすぎず、自分ができる範囲で丁寧にやるということを心がけています。そこは変わらないですね。

狭くても、長く深く。人間関係も「濃さ」を大切にする

―原田さんというと、魅力的な人に囲まれている印象を持っている人も多いと思うんですけど、出会いとか関係で大切にされていることってありますか? 仕事に限らず、友人関係でも。

原田:人と長く深く付き合いたいと思っているので、交友関係があまり広いほうではないんです。もちろん仕事柄、たくさんの人と会ってコミュニケーションをとりますけど、プライベートで仲のいい人は限られていて、何十年も一緒に歳を重ねてきてる方が多いです。

プライベートで年に2、3回しか会わないけど、昨日までずっと会っていたみたいに、朝まで話せるような友達。お互い違う仕事をしていて、距離も離れているんだけど気持ちは近くて。「どうしてるかな?」って、お互いに思いあえるような人がいるだけで頑張れますよね。

―原田さんが心惹かれる人たちに共通するものってありますか?

原田:素朴で明るい人が多いかもしれない。一緒にいてホッとする人が好きですね。

―その特徴って、そのまま原田さんに当てはまっているようですね。

原田:仕事では刺激をもらうような素敵な人にたくさん会うので、プライベートではもっと気を抜ける人を求めているのかもしれません。

―ときに人間関係は難しさを感じることもあると思いますが、原田さんにもそういう経験はあるのでしょうか。

原田:私はとても緊張しやすいので、一度に大勢の人に会うと、いっぱいいっぱいになってしまうところがあります。

今年放送されたドラマ『あなたの番です』(日本テレビ / 4月~9月に放送された)も出演者がとても多くて。クランクイン直後に住民会のシーンを撮影したときは、初めてお仕事する役者さんばっかりだったから本当に緊張で逃げたかったんですよ(笑)。でも、あとから聞くとみなさん同じように緊張していたみたいで。実際にやってみると「取り越し苦労だった」ということがすごく多いですね。

―緊張しやすいのは、何歳くらいまでがピークでしたか?

原田:ずっとですよ(笑)。何年やっても慣れないです、この仕事は。新しい仕事に入る前は、本当に悪夢にうなされたりします。

―え! 原田さんくらいキャリアがある方でもそうなんですね。

原田:プレッシャーなんでしょうね……。撮影がはじまるのに全然セリフを覚えてないとか、ライブ前だと歌詞を覚えてないとか、そういう悪夢を見ることが、「そろそろはじまる時期」っていう合図になっています。「失敗しちゃいけない」「迷惑をかけちゃいけない」って考えすぎちゃうと、悪循環になってしまうんですよね。

―どう切り替えられるんですか?

原田:いざ現場に入って芝居をやってみるとペースがつかめてくるんですけどね。私の場合は音楽をやっていて、また芝居に戻る、という感じなので、ドラマの撮影と撮影の間に期間がかなり空くこともあって。役者さんって割と切れ目なく撮影してらっしゃるのでリズムができていると思うのですが、私はそれを取り戻すのにちょっとだけ時間が必要なんです。

まるで自分のように作詞をしてくれた。高橋久美子との共同作業

―10月16日にバラードセレクション『Candle Lights』が発売されました。元チャットモンチーの高橋久美子さんが新曲“冬のこもりうた”を作詞されています。もともと、高橋さんに依頼されたのはどういった経緯だったのでしょうか。

原田:レコード会社のディレクターさんが、「高橋さんの歌詞がすごく素敵なので、知世さんや作曲家の伊藤ゴローさんの世界観に合うんじゃないか」と勧めてくれたのがきっかけです。2018年に出したアルバム『ルール・ブルー』では“銀河絵日記”と“2月の雲”の2曲を書いてくださいましたが本当に素敵だったので、今回の作品でも新曲を入れるなら、ぜひ高橋さんにお願いしたいと思いました。

原田知世『ルール・ブルー』を聴く(Apple Musicはこちら

―新曲を聴かれたとき、どんな感想を持ちましたか。

原田:レコーディングが、『あなたの番です』の撮影が終わった直後だったのですが、最終的にできあがった曲を聴いたときに、2番のサビの<さよなら また会おう 今頃 好きだよ>っていう歌詞がすごく切なくて。私が演じていた菜奈ちゃんに重なって、本当にグッときました。

―本当ですね。重なってしまう……。

原田:それで高橋さんに「そのラインが一番心に響いた」という話をしたら、高橋さんもドラマを見てくれていて、「実は菜奈ちゃんと翔太くんのことを思って書いたんです」とおっしゃいました。

―とても粋なことをされますね。

原田:ちょうど最終回のオンエアー前日にボーカル・レコーディングだったので、高橋さんには「犯人いわないでくださいね」っていわれながら(笑)。

私も詞を書くことがあって、お芝居をしたあとだと、これまでその役の気持ちが歌詞に現れることが多かったんです。でも今回は自分が書いていないのに、高橋さんを通して役の気持ちが現れたことにとても驚いたし、うれしかったです。ですから大好きな曲になりました。

―すごくいいお話を聞けました。今回のアルバムは、なぜバラードセレクションにされたのでしょう?

原田:「こういうアルバムはどうですか」というお話をいただいて、すごく素敵だなって思いました。『あなたの番です』を見た後にざわついた心を、この作品で落ち着けるように、という選曲になっています(笑)。『Candle Lights』っていうタイトルからもわかるように、寝る前にゆったり聴けるようなアルバムに仕上がりました。

原田知世のバラードセレクション『Candle Lights』を聴く(Amazonで購入する

―今後の活動としては、このまま女優業と音楽活動を行ったり来たりしながらやっていかれるのでしょうか?

原田:そうですね。女優の仕事は「待つ仕事」というか、なにに出会えるかわからないので、いい作品との出会いがあればぜひやりたいです。

音楽も、すごく信頼できる人たちと仕事ができているので、少しずつ新しいものを届けられたら。来年のことも全然わからないですが、自然の流れに身を任せていけたらいいのかなって思っています。

リリース情報
原田知世
『Candle Lights』(CD)

2019年10月16日(水)発売
価格:3,300円(税込)
UCCJ-2171

1. Love Me Tender - Haruomi Hosono Rework
2. 冬のこもりうた
3. ソバカス
4. 2月の雲 - Hiroshi Takano Rework
5. 夏に恋する女たち
6. イフ・ユー・ウェント・アウェイ
7. ハーモニー
8. 銀河絵日記 - Goro Ito Rework
9. いちょう並木のセレナーデ
10. ベイビー・アイム・ア・フール
11. SWEET MEMORIES
12. 夢のゆりかご

イベント情報
原田知世『L'Heure Bleue』リリース・ツアー2019

2019年11月17日(日)
会場:大阪府 東大阪市文化創造館 Dream House 大ホール

2019年11月19日(火)
会場:東京都 渋谷 Bunkamura オーチャードホール

プロフィール
原田知世 (はらだ ともよ)

長崎県出身。自ら主題歌を歌った1983年の初主演作『時をかける少女』でスクリーンデビューし、多数の映画賞の新人賞を受賞。以降、女優、歌手の両方で活躍する。2019 年は日本テレビ系日曜ドラマ『あなたの番です』で田中圭とW主演を務めた。そのほか、ドキュメンタリー番組等のナレーションを担当するなど幅広く活動している。



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「幸福度が高い」と言われる北欧の国々。その文化の土台にあるのが「クラフトマンシップ」と「最先端」です。

湖や森に囲まれた、豊かな自然と共生する考え方。長い冬を楽しく過ごすための、手仕事の工夫。

かと思えば、ITをはじめとした最先端の技術開発や福祉の充実をめざした、先進的な発想。

カルチャーマガジン「Fika(フィーカ)」は、北欧からこれからの幸せな社会のヒントを見つけていきます。

スウェーデンの人々が大切にしている「Fika」というコーヒーブレイクの時間のようにリラックスしながら、さまざまなアイデアが生まれる場所をめざします。

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