愛おしい人間臭さを抱きしめて 田附勝の写真の読み解き方

愛おしい人間臭さを抱きしめて 田附勝の写真の読み解き方

2019/10/17
インタビュー・テキスト
田尾圭一郎
編集:石澤萌(CINRA.NET編集部)

「小さなことば」で作品を解釈すること。それはすこし、クルマへの愛にも似ている

田附勝の作品性が指すものには、多くの人に共有される「大きなことば」による普遍的な解釈だけでなく、ひどく個人的で私小説的な「小さなことば」による人間性も、含まれるのではないだろうか。奔放なようで仲間思い、野心的なようで繊細な田附(彼と面識のある人の多くはうなずいてくれるのではないだろうか)の人間性は、作品の魅力と解釈をいびつにふくよかにしてくれる。彼と3週間も旅をした編集者としてのぼくの仕事は、そんな私的な解釈を人に伝えることのように、1年をかけて思われてきた。

冒頭で「愛車」という言葉を用いたが、これはクルマ以外の乗り物にはあまり使われない、特殊な単語だ。多くの人と空間を共有する鉄道や飛行機に対し、クルマは個人的な所有物で嗜好性が高い。3週間スウェーデンを旅している間にも、アームレストにお菓子が置かれ、サイドブレーキにゴミ入れとしてのビニール袋がかけられ、流す音楽の選び方もすっかり定まった(小声で言えば、少しだけシートにこぼしたコーヒーの染みも、愛着深い)。スピードや燃費、安全性能といった業界で統一された価値規定を持ちながら、個人的な嗜好性を併せ持つその多層性がクルマの魅力だとしたら、それは田附の作品にも少し似ているのかもしれない。

知らない人を知りすぎるぼくたちだから、小さな世界を、手のひらで育んでいこう

ぼくたちはいま、知らない人を知りすぎている。おどけて振る舞う芸能人に、行ったことのない被災地に暮らす人、容易につながるSNSアカウントたち。顔も性格も知らない人たちにぼくたちは、あるときは超人的な想像力と全方位的な配慮でことばを送り、またあるときはぞんざいに罵り罵倒する。

Twitterのコメントには人間性を否定するような嘲笑が並び、思想に反するものには罵詈雑言が浴びせられる。正直、ぐったりしてしまう。もっと、コーヒーの染みがついた愛車のような空間を、田附の写真に対するひどく私的な解釈を、そっと両の手にすくい、こぼれないように育むことができないだろうか。愚直でつまらない小さな世界の手ざわりを、大切に守れないだろうか。家のリビングにかけられた、顔も性格も知った写真家の作品は、そんな可能性を示唆している。

そういえば田附の最初の作品集は、狭い運転席の空間に私的な愛着と思い出を詰め込んだ、『DECOTORA』というタイトルだったことを、書きながら思い出した。

Tenkamaru; In a Tunnel, Tochigi 2005(『DECOTORA』より)
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“Mayumimaru; Driver Mr. Kojima, Behind a Wheel” Tokyo 2006(『DECOTORA』より)
“Mayumimaru; Driver Mr. Kojima, Behind a Wheel” Tokyo 2006(『DECOTORA』より / Amazonで購入する

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イベント情報

『あざみ野フォト・アニュアル 田附勝展』

会期:2020年1月25日(土)~2月23日(日)
会場:横浜市民ギャラリーあざみ野
〒225-0012 横浜市青葉区あざみ野南1-17-3

プロフィール

田附勝(たつき まさる)

1974年富山県生まれ。1998年、フリーランスとして活動開始。同年、アート・トラックに出会い、9年間に渡り全国でトラックおよびドライバーの撮影を続け、2007年に写真集『DECOTORA』(リトルモア)を刊行。2011年に刊行した写真集『東北』(リトルモア)は、2006年から東北地方に通い、撮り続けたもの。現在もライフワークとして東北の地を訪れ、人と語らい、自然を敬いながら、シャッターを切り続けている。2012年、第37回(2011年度)木村伊兵衛写真賞を受賞。

田尾圭一郎(たお けいいちろう)

1984年東京都生まれ。雑誌やwebを中心に現代美術の事業を展開する「美術手帖」にて、編集業務、地域芸術祭の広報支援、展示企画、アートプロジェクトのプロデュースに携わる。「やんばるアートフェスティバル2017-2018」広報統括プロデューサー。「美術手帖×VOLVO ART PROJECT」にて、定期的にアーティストによる展示を企画。webメディア「ソトガワ美術館」にて「手繰り寄せる地域鑑賞」を連載。「BIWAKOビエンナーレ2018」に参加。

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