オラファー・エリアソンが語る、分断や孤独で揺れる現実への回答

オラファー・エリアソンが語る、分断や孤独で揺れる現実への回答

東京都現代美術館『オラファー・エリアソン ときに川は橋となる』
インタビュー・テキスト
島貫泰介
編集:宮原朋之(CINRA.NET編集部)
(メイン画像:『ビューティー』(1993年) / 『オラファー・エリアソン ときに川は橋となる』展示風景 2020 東京都現代美術館 / Courtesy of the artist; neugerriemschneider, Berlin; Tanya Bonakdar Gallery, New York / Los Angeles Photo: Kazuo Fukunaga © 2020 Olafur Eliasson)

分断、孤独、不信に誰もが翻弄されるいま、オラファー・エリアソンの作品から思い返すべきこと

2000年代に入って顕著になった経済格差や地球規模での気候変動などによって、さまざまな意味での社会や人々の「分断」に危機感を募らせてきたこの数年。それがパンデミックの恐怖によって反転し、「分断」「孤立」のアクションがむしろ肯定的なものとなってしまっているところに、21世紀の加速的状況の複雑さを見る思いだ。我々はどこへ向かおうとしているのだろうか。

そのような混迷とした現在に向けて、一筋の希望の光を投げかけるようなアーティストがいる。オラファー・エリアソン。デンマークで生まれ、アイスランドの自然に親しみ育った彼は、光や水といった自然現象、時間という不可視の概念、またそれらから生起する人間の社会的、文化的規範にも関心を向ける作家として知られる。

オラファー・エリアソン<br>1967年、コペンハーゲン(デンマーク)生まれ。1995年、ベルリンに渡り、スタジオ・オラファー・エリアソンを設立。スタジオは現在、技術者、建築家、研究者、美術史家、料理人等、100名を超えるメンバーで構成されている。光や水、霧などの自然現象を新しい知覚体験として屋内外に再現する作品を数多く手がけ、世界的に高く評価されている。 / Photo: Brigitte Lacombe, 2016 © 2016 Olafur Eliasson
オラファー・エリアソン
1967年、コペンハーゲン(デンマーク)生まれ。1995年、ベルリンに渡り、スタジオ・オラファー・エリアソンを設立。スタジオは現在、技術者、建築家、研究者、美術史家、料理人等、100名を超えるメンバーで構成されている。光や水、霧などの自然現象を新しい知覚体験として屋内外に再現する作品を数多く手がけ、世界的に高く評価されている。 / Photo: Brigitte Lacombe, 2016 © 2016 Olafur Eliasson

彼が一躍名を上げたのは、元火力発電所をリノベーションした英国の現代美術館テート・モダンで発表した『ウェザー・プロジェクト』だ。太陽を模したような人工の光源を設置し、さらに人工霧を散布した巨大なインスタレーションは、同施設の特徴であるかつて大型発電機が置かれていた大きなエントランスホールを、自然の雄大、あるいは神的なるものの荘厳を喚起させる聖堂に作り変えるものだった。

『ウェザー・プロジェクト』(2003年)Installation view: Tate Modern, London, 2003 / Courtesy of the artist; neugerriemschneider, Berlin; Tanya Bonakdar Gallery, New York / Los Angeles Photo: Andrew Dunkley & Marcus Leith © 2003 Olafur Eliasson
『ウェザー・プロジェクト』(2003年)Installation view: Tate Modern, London, 2003 / Courtesy of the artist; neugerriemschneider, Berlin; Tanya Bonakdar Gallery, New York / Los Angeles Photo: Andrew Dunkley & Marcus Leith © 2003 Olafur Eliasson

だが、彼の作家としての目的はスペクタクルな経験の提供だけではなかった。エリアソンは展示空間の天井に設えた巨大な鏡面と、そこに映る来場者たちの姿に着目する。

床に寝そべって特別な空間を楽しむ人々は、やがて遥か上部の天井に写る自分たちの鏡像に気づく。すると、人々は思い思いにからだを動かしてみたり、そこに映っている自分や友人、あるいは同じ空間を分かち合う他者について語り合い、交流しはじめるのだ。

巨大なインスタレーションの設えのなかで人々が得る、きわめて小さな気づき。この極端な対比は滑稽にも思えるが、しかしこのような共時性のなかで、人は自らが孤立した存在であるばかりなく、自然発生的な集団性のなかで循環し流動する、他者と接続した存在でもあることに気づくだろう。

オラファー・エリアソンの作品は、人、自然、社会、文化との関係性のなかで生きる私たちのアイデンティティーを再帰させる力を持つ。それは、コロナウイルスに端を発した分断や孤独や不信に誰もが翻弄されるいまこそ、思い返されるべきもののはずだ。

『あなたに今起きていること、起きたこと、これから起きること』(2020年) / 『オラファー・エリアソン ときに川は橋となる』展示風景 2020 東京都現代美術館 / Courtesy of the artist; neugerriemschneider, Berlin; Tanya Bonakdar Gallery, New York / Los Angeles Photo: Kazuo Fukunaga © 2020 Olafur Eliasson
『あなたに今起きていること、起きたこと、これから起きること』(2020年) / 『オラファー・エリアソン ときに川は橋となる』展示風景 2020 東京都現代美術館 / Courtesy of the artist; neugerriemschneider, Berlin; Tanya Bonakdar Gallery, New York / Los Angeles Photo: Kazuo Fukunaga © 2020 Olafur Eliasson
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イベント情報

『オラファー・エリアソン ときに川は橋となる』
『オラファー・エリアソン ときに川は橋となる』

未定~2020年6月14日(日)
会場:東京都 清澄白河 東京都現代美術館
料金:一般 1,400円 / 大学・専門学校生・65歳以上 1,000円 / 中学・高校生 500円 / 小学生以下無料
休館日:月曜日、5月7日

※東京都現代美術館では、東京都の方針に則り、新型コロナウイルス感染症の感染拡大を防止する観点から、2020年5月6日(水・祝)まで臨時休館を延長させていただきます。最新の実施情報については、ウェブサイトをご確認ください

プロフィール

オラファー・エリアソン

1967年、コペンハーゲン(デンマーク)生まれ。現在、ベルリンとコペンハーゲンを拠点に活動。アイスランドとデンマークで生まれ育ち、1989年から1995年までデンマーク王立美術アカデミーで学ぶ。1995年、ベルリンに渡り、スタジオ・オラファー・エリアソンを設立。スタジオは現在、技術者、建築家、研究者、美術史家、料理人等、100名を超えるメンバーで構成されている。2014年、建築家のセバスチャン・ベーマンと共同でスタジオ・アザー・スペーシズを設立。光や水、霧などの自然現象を新しい知覚体験として屋内外に再現する作品を数多く手がけ、世界的に高く評価されている。テート・モダン(ロンドン)で発表した『ウェザー・プロジェクト』(2003年)やニューヨークのイースト川に人工の滝を出現させたパブリックアート・プロジェクト(2008年)等、大規模なインスタレーションで広く知られている。近年は、電力にアクセスできない地域に住む人びとに届けられる携帯式のソーラーライト「リトルサン」(エンジニアのフレデリック・オッテセンと共同開発)や、グリーンランドから溶け落ちた巨大な氷を街なかに展示することで人びとに気候変動を体感させる「アイス・ウォッチ」(地質学者のミニック・ロージングとの共同プロジェクト)といった社会的課題をめぐる取り組みにも力を注いでいる。日本での主な個展は原美術館(2005年、東京)、金沢21世紀美術館(2009~10年、石川)がある。(プロフィール提供:東京都現代美術館)

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