なぜ人はサウナに行くのか。服も肩書きも脱ぎ捨てて裸になる意義

なぜ人はサウナに行くのか。服も肩書きも脱ぎ捨てて裸になる意義

インタビュー・テキスト
柳澤はるか
撮影:前田立 編集:中田光貴(CINRA.NET編集部)

サウナは職業や肩書きに関係なく、みんなが対等で平等になれる場所。(ヨーナス)

―「男性はなかなか心を開けない」という中で、この映画の出演者たちは、すんなりと心を開いてくれましたか? カメラの前で自分をさらけ出すことに、抵抗を感じる男性もいたのではないでしょうか。

ヨーナス:きっと裸という状態が、人を素直にさせるんだと思います。服を脱いで裸になると、その人の地位も肩書きも、なにも分かりませんよね。かっこつけているもの、着飾っているもの、見栄。サウナではそういったものをすべて脱ぎ捨て、その人の素に近い状態になる。だからこそ、今回のようなインタビューが撮れたのだと思います。サウナは職業や肩書きに関係なく、みんなが対等で平等になれる場所です。

―服を脱ぐことで精神的な鎧も取り払われて、みんながフラットに、語りやすくなるんですね。

ヨーナス:サウナの平等性を象徴するエピソードがあります。私がヘルシンキのある公共サウナに行ったとき、そこには、私を含めて4人の男性がいて、初対面の4人で2時間半くらい一緒に過ごしました。

着替えて解散するタイミングになって、その中の1人が、「そういえば、自己紹介をしてませんでしたね」と言いました。そこで初めて私たちは自己紹介をし、1人はバスの運転手、1人は大学教授、もう1人は大統領官邸で働く人間だということが分かりました。

これがもし、服を着た状態で出会っていたらどうでしょう。途端にヒエラルキーが生じてしまいます。サウナで、裸で出会ったからこそ、ただ1人の人間として2時間半、一期一会の時間を過ごすことができました。それくらいサウナというのは、すべての上下関係がなくなる場所。平等な空間なんです。

『サウナのあるところ』場面写真。©2010 Oktober Oy.
『サウナのあるところ』場面写真。©2010 Oktober Oy.
『サウナのあるところ』場面写真。©2010 Oktober Oy.
『サウナのあるところ』場面写真。©2010 Oktober Oy.

自分を変えていくことは、恐らく女性のほうが楽にできて、男性にとっては難しい。(ヨーナス)

―フィンランドで2010年にこの映画が公開されたとき、人々はどのように受け止めましたか。

ミカ:全体的にとても好意的な感想をもらいました。まず女性たちにとっては、普段心を開かない男性たちが、サウナの中でどんな話をしているのか、興味津々だったようです。ただやはり、自分の感情と向き合ってこなかった男性や、心に固く鍵をかけて生きてきた男性にとっては、見ていて辛いシーンもありますから、ネガティブな反応もありました。でも、この映画を見て人生が変わったと言ってくれた男性もいましたね。

ヨーナス:この映画はフィンランドで1年以上にわたり連続上映されたのですが、最初、観客の9割は女性でした。圧倒的に女性の方が、この映画に興味を示していたんです。それが、時が経つにつれて……たしか20週目くらいだったと思うのですが、ある映画館の人から連絡をもらって「9割が男性で、1割が女性になったよ!」と言われました。

ヨーナス・バリヘル

―まず女性が食いついて、その後徐々に、男性にも届いていったんですね。

ヨーナス:社会の中でどうして男性だけがなかなか変わらないのか、という先ほどの話にも関係しますが、なにかを変えていくのって、男性はものすごく時間がかかるんです。

女性がすぐに温まる電気サウナだとしたら、男性はスモークサウナ。何時間も何時間もかかってようやく温まるサウナです。電気サウナは30分くらいでばっと高温になるのに、スモークサウナは4、5時間かかり、しかもそれだけかかっても、さほど温かくなりません(笑)。

自分を変えていくことは、恐らく女性のほうが楽にできて、男性にとっては難しい。女性の方が圧倒的に、適応能力が高い気がします。

―フィンランドで映画が公開されてから10年近い時間が流れました。フィンランドの男性や社会に、なにか変化はありましたか? それともやはり、なかなか変わらないですか?

ミカ:10年前と比べると、テレビで男性のメンタルの問題を取りあげる番組が出てくるなど、男性の問題に焦点が当たるようになったと感じます。まだまだ、やるべきことはたくさんありますが、少なくとも、気づいてもらえるようにはなりました。

―誰も目を向けてこなかった問題が語られるようになっただけで、大きな変化ですよね。

ヨーナス:10代から30代の若い人たちは大丈夫なんです。価値観が変わってきていて、こういった問題に気づくことができます。けれど、それだけでは十分じゃないと考えていて。やはり40代や50代、さらには80代まで、すべての男性たちに私のメッセージが届けばいいなと思っています。

左から:ミカ・ホタカイネン、ヨーナス・バリヘル
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作品情報

『サウナのあるところ』
『サウナのあるところ』

(2010年 / フィンランド / フィンランド語 / ドキュメンタリー / 81分 / 原題:Miesten vuoro / 英題:Steam of Life)
2019年9月14日、アップリンク渋谷、アップリンク吉祥寺、新宿シネマカリテほか全国順次公開。

監督:ヨーナス・バリヘル、ミカ・ホタカイネン
後援:フィンランド大使館、公益社団法人 日本サウナ・スパ協会
提供・配給:アップリンク+ kinologue ©2010 Oktober Oy.

プロフィール

ヨーナス・バリヘル

最も国際的に評価されているフィンランド人監督の1人であり、本作でヨーロピアンフィルムアワードにノミネートされ、2010年米国アカデミー賞外国語映画賞のフィンランド代表にも選ばれた。本作や『Mother's wish』(2015)、最新作の『The Happiest Man on Earth』(2019)などは、個人的な視点から社会課題に焦点をあてている。またプロデューサーとして、『Kaisa's Enchanted Forest』(2016)、2018年のフィンランド映画祭で上映された『Entrepreneur』(2018)や『Baby Jane』(2019)なども手掛けている。

ミカ・ホタカイネン

1998年からテレビ、映画業界で働いており、2004年にフィクションの監督としてヘルシンキ応用科学大学を卒業。本作の他に、『Freedom to Serve』(2004)、『Ristin Tie』(2016)といった長編や『Visitor』(2006)、『Loose Wires』(2010)といった短編ドキュメンタリーを制作している。

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