なぜ人はサウナに行くのか。服も肩書きも脱ぎ捨てて裸になる意義

なぜ人はサウナに行くのか。服も肩書きも脱ぎ捨てて裸になる意義

インタビュー・テキスト
柳澤はるか
撮影:前田立 編集:中田光貴(CINRA.NET編集部)

人はなぜ、サウナに惹かれるのだろう。もしかすると、その答えは1本のフィンランド映画が教えてくれるかもしれない。

現在公開中のドキュメンタリー映画『サウナのあるところ』では、サウナの中で男たちが、人生を語り始める。幼少期の記憶、先立った妻のこと、会えなくなった娘のこと。しまい込んでいた痛みや悲しみを打ち明ける男たちを、サウナのスチームは優しく包み込む。そして彼らの心のわだかまりを、静かに洗い流していく——。

折しも日本では今、サウナに熱い視線が注がれている。日本で最初のサウナブームは、昭和39年の東京オリンピックで選手村のサウナが注目されたときだと言われるが、それから55年。サウナ愛好者は増え、SNSの興隆もあいまって、その魅力は盛んに発信されるようになった。ただ汗を流すだけでない、精神的リフレッシュ効果やコミュニティとしての役割にも注目が集まっている。

フィンランドと日本。サウナの歴史や入り方に違いはあれど、私たちは、同じなにかを求めてそこへ足を運ぶのではないだろうか? ヨーナス・バリヘル監督とミカ・ホタカイネン監督に、フィンランドのサウナ事情や本作に込めた思いを聞いた。

フィンランド人にとってサウナとは、体の汚れと一緒に心の汚れも洗い落とす場なんです。(ミカ)

―フィンランドといえばサウナの本場で、2000年にもわたる歴史があると聞きます。そんなフィンランドのサウナの特徴は、どんなところにありますか。

ミカ:フィンランドのサウナは、日本と違ってものすごくシンプルだということです。ベンチがあり、ストーブがあり、ロウリュ(熱したサウナストーンの上に水をかけて蒸気を発生させること)をするための桶がある。ただそれだけ。そしてほぼすべての家庭にサウナがあって、日常的にみんなが入ります。フィンランド人にとってサウナとは、体の汚れと一緒に心の汚れも洗い落とす場なんです。

左から:ミカ・ホタカイネン、ヨーナス・バリヘル
左から:ミカ・ホタカイネン、ヨーナス・バリヘル

―映画の中では、小さな子どもたちが父親とサウナに入っています。日本ではサウナは大人の場所というイメージですが、フィンランドでは、子どもも一緒に入るんですか?

ヨーナス:そもそもフィンランドでは、サウナは家族で入るものなんです。お父さんもお母さんも、子どももみんな一緒に入るのが、サウナのもともとの姿です。

―フィンランドでは家庭にサウナがあるのが一般的とのことですが、映画の中では、電話ボックス型サウナ、キャンピングカー型サウナなど、個性的なサウナが登場しますね。

ヨーナス:あれらは全部、出演者が希望したサウナなんです。今回撮影をするにあたり、出演者から必ずといっていいほど提示された条件が2つありました。1つは、話し相手の指定。「あいつにだけは本当のことを話せるから、あいつと一緒なら出演してもいい」と。

もう1つの条件が「あそこのサウナだったら話してもいい」ということでした。人それぞれ、「このサウナじゃなきゃ嫌だ」というのがあって。

『サウナのあるところ』場面写真。©2010 Oktober Oy.
『サウナのあるところ』場面写真。©2010 Oktober Oy.

―みなさんお気に入りのサウナがあるんですね。

ヨーナス:ポスターにも使われている電話ボックスサウナに入っているおじさんは、このサウナのオーナーなんです。農作業機のサウナも登場しますがあれも、彼が自分で改造したサウナです。

『サウナのあるところ』場面写真。©2010 Oktober Oy.
『サウナのあるところ』場面写真。©2010 Oktober Oy.

―なにかを改造してサウナを作るのはフィンランドではポピュラーな文化なんですか?

ミカ:フィンランド人って、暗い一面がある一方で、ちょっと変なユーモアがある人たちなんです。だから変わった大会も多いんですけど、その中で最近人気があるのが、動くサウナが集結するイベント。個性的なサウナが60台くらい集まるんです。

電話ボックスのサウナにもタイヤがついているので、この映画をドイツで上映したときには、ドイツまで電話ボックスサウナを持って行きました。そういう変なことを楽しむのは、フィンランド人の習性ですね(笑)。

ミカ・ホタカイネン<br>1998年からテレビ、映画業界で働いており、2004年にフィクションの監督としてヘルシンキ応用科学大学を卒業。本作の他に、『Freedom to Serve』(2004)、『Ristin Tie』(2016)といった長編や『Visitor』(2006)、『Loose Wires』(2010)といった短編ドキュメンタリーを制作している。
ミカ・ホタカイネン
1998年からテレビ、映画業界で働いており、2004年にフィクションの監督としてヘルシンキ応用科学大学を卒業。本作の他に、『Freedom to Serve』(2004)、『Ristin Tie』(2016)といった長編や『Visitor』(2006)、『Loose Wires』(2010)といった短編ドキュメンタリーを制作している。
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作品情報

『サウナのあるところ』
『サウナのあるところ』

(2010年 / フィンランド / フィンランド語 / ドキュメンタリー / 81分 / 原題:Miesten vuoro / 英題:Steam of Life)
2019年9月14日、アップリンク渋谷、アップリンク吉祥寺、新宿シネマカリテほか全国順次公開。

監督:ヨーナス・バリヘル、ミカ・ホタカイネン
後援:フィンランド大使館、公益社団法人 日本サウナ・スパ協会
提供・配給:アップリンク+ kinologue ©2010 Oktober Oy.

プロフィール

ヨーナス・バリヘル

最も国際的に評価されているフィンランド人監督の1人であり、本作でヨーロピアンフィルムアワードにノミネートされ、2010年米国アカデミー賞外国語映画賞のフィンランド代表にも選ばれた。本作や『Mother's wish』(2015)、最新作の『The Happiest Man on Earth』(2019)などは、個人的な視点から社会課題に焦点をあてている。またプロデューサーとして、『Kaisa's Enchanted Forest』(2016)、2018年のフィンランド映画祭で上映された『Entrepreneur』(2018)や『Baby Jane』(2019)なども手掛けている。

ミカ・ホタカイネン

1998年からテレビ、映画業界で働いており、2004年にフィクションの監督としてヘルシンキ応用科学大学を卒業。本作の他に、『Freedom to Serve』(2004)、『Ristin Tie』(2016)といった長編や『Visitor』(2006)、『Loose Wires』(2010)といった短編ドキュメンタリーを制作している。

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