植本一子、幡野広志、igoku編集長が死を綴る 人生は誰のもの?

植本一子、幡野広志、igoku編集長が死を綴る 人生は誰のもの?

テキスト・編集
石澤萌(CINRA.NET編集部)

そばで死を見つめ続ける / 「あなたの命はあなたのものだと、言えるように……」 テキスト:猪狩僚

私はいま、福島県いわき市役所の地域包括ケア推進課で働いています。いわゆる市の職員ですが、「igoku(いごく、いわきの訛りで「動く」の意)」という、いわきの地域包括ケアに関する情報発信を行うメディアや体験型イベント企画のプロジェクトを2年前に始め、その編集長を務めています。

プロジェクトのミッションは、「老いては子に従え」とか「介護が必要になったんだからしょうがないよ」ではなく、人生の最期まで、どんな状態になっても、「あなたの人生はあなたのもの」という社会にすること。編集チームのメンバーは、私と同年代で、同じように医療も介護も全然知らない地元のライターやデザイナーたちです。「マジメに不真面目」をモットーに掲げて、重いテーマに取り組んでいます。

いわきの老人と「igoku」(撮影:小松理虔)
いわきの老人と「igoku」(撮影:小松理虔)

年4回発行のフリーペーパーの特集は、創刊号が『やっぱ、家で死にてぇな!』(2017年12月)、第2号『いごくフェスで、死んでみた!』(2018年3月)、第3号『パパ、死んだらやだよ』(2018年8月)と、これでもかと「死」に関するテーマが続きました。が、市民の皆さん、医療介護の関係者の皆さん、おおむね面白がってくれているように感じています。もしかしたら、東日本大震災で、私たちの地域全体が多くの悲しみとともに、命に限りがあることを痛感したことも関係しているのかもしれません。

いごく第2号『いごくフェスで死んでみた!』表紙
いごく第2号『いごくフェスで死んでみた!』表紙

創刊前、福祉業界が初めてだった私は、いろんな所に顔を出し、お医者さんや介護の方、いわきに暮らす「ジッチ」「バッパ」に会いまくりました。「94歳のヨガの達人がいるらしい、しかも、毎年、1人でインドに修業に行くらしい」という噂を聞いては、実際に会いに行くという感じです。私が会うジッチやバッパは、誰ひとりとして人生や死を悲観することなく、それぞれに人生の目標ややりたいことを持っている人ばかり。まさに、自分の人生の最後の最後まで、自分に課せられたことを全うすべく、健康に気遣いながら人生を楽しんでいました。

そんななかで、8年前の震災でお店も家も全てを失いながらも、孫が修行から帰ってくるまで頑張ると言って、和菓子屋を再建された88歳のパイセンや、所属先も職種も異なる医療と介護の方々が、仕事が終わってから集まって、よりよいケアのために勉強会を開いていることなどを知り「素敵な人たちやその取り組み、思いを届けたいな」と考え始めました。

撮影:小松理虔
撮影:小松理虔
撮影:小松理虔
撮影:小松理虔

同時期に「人生のたとえ99%が不幸だとしても、最後の1%が幸せならば、その人の人生は幸せなものに変わる」というマザー・テレサの言葉にも出会います。「待てよ、この言葉、逆にしてみたら、人生の99%が幸せだったとしても、最期の1%、つまり亡くなる時が不幸だったら、その人の人生は不幸なことになるってことだよな」と思いました。

「こんなに歳を取ってイヤになっちゃうねえ」とか「死ぬなんて縁起でもないこと言わないで」とか。必ず訪れるものなのに、直前まで目を背けてしまう。それが「死」です。難しいけど、このタブーを乗り越え、老いや死をちょっとだけでも考える。そして、自分がどう最期を迎えたいのかを大切な誰かに伝えられたらと思うようになりました。それが現在の活動の原点です。

撮影:小松理虔

じゃあ、どうやってタブーを超えたらいいんだろう。ぼくたちが見つけた、今のところの答えは「悪ノリ」です。だって、真面目に死ぬことを考えたら、考えるの嫌になりませんか?

悪ノリして、気軽にやってみる。自分を演じてノッてみる。頭でだけ考えないで、体で体感してみる。すると、普段考えない「死」に、細いけれど道が通るような気がするんです。

そういうことを、ぼくたちは大切にしていきたいと考えています。「マジメに不真面目」を貫きながら、世代とタブーを越えて、老いや死を前向きに、ケラケラ笑いながら、ジメッとせずに話し合える社会を、地域を目指しています。「あなたの人生は、あなたの命は、他の誰でもない、あなたのものだから」と言えるように。

撮影:小松理虔
撮影:小松理虔
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書籍情報

『降伏の記録』
『降伏の記録』

著書:植本一子
価格:1,944円(税込)
発行:ポプラ社

『ぼくたちが選べなかったことを、選びなおすために』
『ぼくたちが選べなかったことを、選びなおすために』

著書:幡野広志
価格:1,620円(税込)
発行:ポプラ社

サイト情報

igoku

福島県いわき市発。「地域包括ケア」を伝えるウェブマガジン。いわきで生まれて、いごいて、そして命を全うする人たちの悦び、悲しみ、楽しさもみんな脱線しながら伝えていきます。

プロフィール

植本一子(うえもと いちこ)

1984年、広島県生まれ。2003年、キヤノン写真新世紀で荒木経惟氏より優秀賞を受賞し写真家としてのキャリアをスタートさせる。広告、雑誌、CDジャケット、PV等幅広く活動中。13年より下北沢に自然光を使った写真館「天然スタジオ」を立ち上げ、一般家庭の記念撮影をライフワークとしている。著書に『働けECD わたしの育児混沌記』『かなわない』『家族最後の日』、共著に『ホームシック 生活(2~3人分)』(ECDとの共著)がある。

幡野広志(はたの ひろし)

1983年東京生まれ。2004年日本写真芸術専門学校中退。2010年広告写真家高崎勉氏に師事。「海上遺跡」Nikon Juna21受賞。2011年独立、結婚。2012年エプソンフォトグランプリ入賞。狩猟免許取得。2016年息子誕生。2017年多発性骨髄腫を発病。近著『ぼくが子どものころ、ほしかった親になる。』(PHP)

猪狩僚(いがり りょう)

いわき市役所 保健福祉部 地域包括ケア推進課 平社員。1978年いわき市生まれ。大学卒業後に、ブラジル留学したら、ちょっとハチャメチャな感じになっちゃって、いわき市役所に拾ってもらう。水道局(2年でクビ)→市街地整備(1年でクビ)→公園緑地課→財政課→行政経営課を経て、現職。逆立ちしても、役所の中じゃ出世できないので、勝手に「igoku」を作り、勝手に「編集長」を名乗る。

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