映画『シンク・オア・スイム』は、中年の憂鬱に対する処方箋

映画『シンク・オア・スイム』は、中年の憂鬱に対する処方箋

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麦倉正樹
編集:久野剛士(CINRA.NET編集部)

映画からわかる「中年の危機」の処方箋。それは、仲間との連帯だった。

本作の登場人物たちは、うつ病を患い会社を退職、現在は妻子に対して肩身の狭い思いをしつつ、家に引きこもりがちな主人公ベルトランをはじめ、彼が参加する公営プールの男子シンクロチームの面々……家庭に問題を抱えながら常にピリピリしているロラン、倒産の危機に瀕した会社の社長マルキュス、公営プールの用務員として働く内気な独身男性ティエリー、いまだにミュージシャンになる夢を捨てられないシモンなど、そろいもそろって家族、仕事、将来に不安を抱えた、悩める中年たちばかり。

『シンク・オア・スイム イチかバチか俺たちの夢』場面写真 ©2018 -Tresor Films-Chi-Fou-Mi Productions-Cool industrie-Studiocanal-Tf1 Films Production-Artemis Productions
『シンク・オア・スイム イチかバチか俺たちの夢』場面写真 ©2018 -Tresor Films-Chi-Fou-Mi Productions-Cool industrie-Studiocanal-Tf1 Films Production-Artemis Productions

しかも、それを演じるのは、1965年生まれのマチュー・アマルリックから1973年生まれのギヨーム・カネまで、それぞれのキャリアにおいて、いわゆる「中年の危機」を潜り抜けてきたであろう役者たちばかり。そのどこかチャーミングでありながらも、妙にリアリティーのある迫真の演技。そもそも監督のジル・ルルーシュも1972年生まれの立派なアラフィフであり、彼ら登場人物たちの姿は決して他人事ではないだろう。実際彼は、「すべての登場人物に、私自身が少しずつ入っている」というコメントも残している。

そんな問題だらけの彼らが、それぞれに「中年の危機」を胸の内に抱えながら取り交わす、不器用なコミュニケーションとぎこちない泳ぎっぷり。そう、彼らを指導する女性コーチたちもまた、それぞれに個人的な問題を抱えていたりするのだから、なかなか話はやっかいだ。

『シンク・オア・スイム イチかバチか俺たちの夢』場面写真 ©2018 -Tresor Films-Chi-Fou-Mi Productions-Cool industrie-Studiocanal-Tf1 Films Production-Artemis Productions
『シンク・オア・スイム イチかバチか俺たちの夢』場面写真 ©2018 -Tresor Films-Chi-Fou-Mi Productions-Cool industrie-Studiocanal-Tf1 Films Production-Artemis Productions

しかし、ひょんなことから世界大会を目指すことになった彼らは、そこに向けて研鑽を積む中で徐々に連帯感を持ち始め、やがてチーム全員でキャンピングカーに乗り込み、世界大会の開催地である遥かノルウェーはオスロに向けて旅立ってゆくのだった。

そして、世界大会という名の晴れ舞台。『ウォーターボーイズ』や『フル・モンティ』がそうであったように、そのクライマックスの晴れ舞台における彼らの姿は、きっと多くの人々の胸を打つことだろう。けれども、それら2作にも増して本作で重要となるのは、どうやらそのプロセスであり、それによって生まれた仲間との関係性にあるように思えてならない。

『シンク・オア・スイム イチかバチか俺たちの夢』場面写真 ©2018 -Tresor Films-Chi-Fou-Mi Productions-Cool industrie-Studiocanal-Tf1 Films Production-Artemis Productions
『シンク・オア・スイム イチかバチか俺たちの夢』場面写真 ©2018 -Tresor Films-Chi-Fou-Mi Productions-Cool industrie-Studiocanal-Tf1 Films Production-Artemis Productions

こんな機会でもなければ、本音で語り合うこともなかったであろう同年代の悩める仲間たち。その存在は……少なくとも自分を認め、その言葉に耳を傾けてくれる仲間たちの存在は、それぞれのこれからの日常を、きっと緩やかに変化させていくのだろう。その先に輝かしい未来があるかどうかは相変わらずわからない。けれども、明日プールに行けば彼らがいて、そこでは誰もが自分が自分らしくいることができ、心から笑い合えることができるのだ。

と、ここまで書いた時点で、この話が必ずしも「中年の危機」に限った話ではないことに気がついた。最初に引用した監督の言葉ではないけれど、現代社会を覆う「個人主義的な競争」に疲弊しているのは、なにも中年男性だけではない。その中で、本当に大事なものはなんなのか。それを名立たる名優たちが、文字通り「身体を張って」体現してみせてくれる映画がこの『シンク・オア・スイム イチかバチか俺たちの夢』なのかもしれない。

『シンク・オア・スイム イチかバチか俺たちの夢』ポスタービジュアル ©2018 -Tresor Films-Chi-Fou-Mi Productions-Cool industrie-Studiocanal-Tf1 Films Production-Artemis Productions
『シンク・オア・スイム イチかバチか俺たちの夢』ポスタービジュアル ©2018 -Tresor Films-Chi-Fou-Mi Productions-Cool industrie-Studiocanal-Tf1 Films Production-Artemis Productions

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公開情報

『シンク・オア・スイム イチかバチか俺たちの夢』
『シンク・オア・スイム イチかバチか俺たちの夢』

2019年7月12日(金)から公開
監督:ジル・ルルーシュ
脚本・脚色:ジル・ルルーシュ、アメッド・アミディ、ジュリアン・ランブロスキーニ
出演:
マチュー・アマルリック
ギョーム・カネ
ブノワ・ポールヴールド
ジャン=ユーグ・アングラード
配給:キノフィルムズ、木下グループ

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