北欧出身の落語家・三遊亭じゅうべえが見つめる日本社会の不思議

北欧出身の落語家・三遊亭じゅうべえが見つめる日本社会の不思議

インタビュー・テキスト
島貫泰介
撮影:鈴木渉 編集:中田光貴(CINRA.NET編集部)
2019/06/25
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日本の社会の特殊性について、外から来た人間だから言えること、表現できることがあると思う。

―日本とスウェーデンで共通するところ、違うところが少しわかってきた気がします。ではお笑いはどうでしょう? スウェーデンにも話芸のようなものがありますか?

じゅうべえ:スウェーデンのコメディーは、形式としてはコントが多いので、やはり演劇と重なる部分があります。テーマも現実に起きたことや政治をテーマにすることが多くて、皮肉っぽい笑いがけっこう多い。あるいは、イギリスのモンティ・パイソン(20世紀を代表するコメディーグループのひとつ。1969年から83年まで活動。2013年に一時再結成)にも大きな影響を受けているので、単なるおかしさ、ナンセンスなものも多くあります。スタンダップコメディーもありますから。

そういうスウェーデンのコメディー観からして、いまひとつ理解しづらいのが日本の漫才です。日本のお笑いは、ほとんどがボケとツッコミで構成されているように思います。リズムやテンポがいいものは「聞いていて気持ちいいもの」として理解できる気もするのですが、その奥深さは私にはまだわからない部分が多いです。

三遊亭じゅうべえ

―それは日本人としては意外かもしれないです。とにかく状況を混乱させるボケがいて、それを真面目に正そうとするツッコミという受け答えの関係から生じるギャップは、単純に笑えるものと理解しているので。

じゅうべえ:うまく言語化しづらいんですが、日本人はギャップにこだわりますよね。もちろん欧米にもギャップの感性はありますけど、日本ほど繊細ではない気がします。このギャップへの関心の強さは、日本で暮らす外国人にとってけっこう印象的なんですよね。外国人が日本語を喋ることを、日本人は過剰に驚きますよね?

―たしかに。「すごいお上手ですね!」とか、つい言ってしまいます。

じゅうべえ:その反応の理由は日本の歴史と教育にあるのではないですか? スウェーデンはヨーロッパのなかでも小国なので、自国の言語だけで暮らすというのは考えられない国です。少なくとも英語も喋れるのは当たり前で、さらにもう1、2個は別の言語を喋れるようになりたいね、というのが一般的です。

そもそも英語はけっして難しい言語ではないですし、スウェーデン語とも文法は似ています。だから外国人がスウェーデン語を流暢に話せても特に驚いたりしない。日本人は、学校教育やテレビの影響で「英語は難しいもの」って先入観に捉われすぎてる気がします。

三遊亭じゅうべえ

―日本語と英語の文法の違いだとか、ハードルはいろいろありますが、難しさで言えば日本語のほうがはるかに複雑ですしね。

じゅうべえ:それから外国人に対する先入観。だいたい、日本人の考える外国人のイメージって、金髪の白人でワイワイしてる感じ……つまりアメリカ人のイメージでしょう。実際には白人だっていろんな文化圏の人がいるのに。

人間には、最初に他人を見た瞬間にあるカテゴリーに分類したくなる習性があるそうですけど、日本人はギャップに繊細でありすぎて、その分類癖が強い印象があります。もちろん誰だって、初対面の印象を持つものですけど、スウェーデン人はその心情を見せないようにします。なぜなら、みんな平等であるという考え方があるから。いきなり「あなたは何歳ですか?」とか「あなたはアメリカ人ですか?」と聞くのは失礼なんです。

―容貌に関する差別やルッキズムは、近年日本でも言われるようになりましたが、日本人は異なる文化圏からやって来た人や物事に対して、良くも悪くも反応しすぎる気質がありますね。

じゅうべえ:だから私がスウェーデン人だとわかるとすぐにIKEAの話題を振るわけですよ。他に話題がないなら「スウェーデンのこと知らないんですよ」と言っていいんですよ!

―たしかに。そう考えると、「ボルボ亭イケ也」という名前も逆にスウェーデン流の皮肉が効いてるような(笑)。最後の質問です。今後、じゅうべえさんが実現したい落語ってどんなものでしょうか?

じゅうべえ:せっかく落語をやるからには、スウェーデン人でも日本人と同じように古典落語を究めることができると証明したいです。でも最近思うようになったのは、それを踏まえた上で、自分の考えていること、自分が見た日本のことを落語に込めていけないだろうか、ということ。そして、もちろん海外にも落語の魅力を広めていきたいです。

日本の社会の特殊性について、外から来た人間だから言えること、表現できることがあると思うんですよ。最終的に自分の落語がどこに向かっていくかわかりませんが、どの道を進むにしても、落語の奥深さを伝えていきたいと思っています。

三遊亭じゅうべえ
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プロフィール

三遊亭じゅうべえ(さんゆうてい じゅうべえ)

落語家。本名は、ヨハン・エリック・ニルソン・ビョルク。2016年8月15日、三遊亭好楽の十番弟子として入門。入門前はボルボ亭イケ也として活動。スウェーデンのストックホルム大学で日本語を学ぶ。その後、中央大学に交換留学した際に、落語と出会う。母国スウェーデンに似たようなものがないため、落語家になると決心。将来的には、落語を世界に広めていきたいと思っている。趣味はアニメ、映画、読書、ゲーム。

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